幸福路のチー
劇場公開日 2019年11月29日
解説
台北郊外に実在する「幸福路」を舞台に、祖母の死をきっかけに帰郷した女性が幼少時の思い出とともに自分を見つめ直す姿を、台湾現代史を背景に描いたアニメーション映画。台湾の田舎町で必死に勉強し、渡米して成功を収めた女性チー。ある日、祖母の訃報を受け、故郷である幸福路へ久々に帰ってくる。子ども時代の懐かしい思い出を振り返りながら、自分自身の人生や家族の意味について思いをめぐらせるチーだったが……。「藍色夏恋」などで知られる人気女優グイ・ルンメイが主人公チーの声を担当。東京アニメアワードフェスティバル2018で長編グランプリ、第55回電影金馬奨で最優秀アニメーション映画賞を受賞。
2017年製作/111分/G/台湾
原題:幸福路上 On Happiness Road
配給:クレストインターナショナル
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2019年12月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
アニメーションで人の人生を描くという手本のような作品だと思った。台湾現代史と個人史を重ね合わせ、想像力を駆使して、1人の女性の人生の、酸いも甘いも描きつくしている。希望と想像力に溢れた子供時代、政治活動に明け暮れた青春時代、上手くいかないことだらけの社会人時代、そしてアメリカへと移住し、運命の人に出会うもここでも上手くいかない。子供の頃、思い描いた人生にはならなかったとしても、それでも人生は素晴らしいと謳い上げる。
同級生の米国人との混血のベティは台湾社会におけるマイノリティを代表する。沖縄にも米兵を父に持つアメラジアンがいるが、それと同様の存在だ。渡米後の主人公は、アメリカでのマイノリティだ。どの社会にも抑圧があり差別もある。しかし、どこの社会もそれが全てではない。友情と家族愛を力に、主人公は力強く人生をリスタートさせる。
『おもひでぽろぽろ』や『この世界の片隅に』を思い出す人もいると思うが、個人的には韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』を思い出した。
2019年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
台湾は規模の割に映画産業が盛んだが、ジャンルはヒューマンドラマか青春・恋愛物、歴史劇に偏っている印象だ。アニメに至ってはオリジナルの作り手が不在だった(外国作品の下請けは行っているようだが)。台北に生まれ日本と米国で映画を学んだ女性監督、ソン・シンインは自らの半生を反映した物語をアニメで描こうと決め、自らアニメスタジオを設立したというからその行動力に恐れ入る。
ジブリ作品の影響も感じさせ、生き方に迷う女性が帰省して過去を振り返る「おもひでぽろぽろ」や、時代に翻弄される市井の人々を描いた「火垂るの墓」「風立ちぬ」などを想起させる。水彩画のような淡い背景と、シンプルな輪郭線のキャラクターの素朴な味が、絶妙なコントラストとなり郷愁を誘う。
自立して幸福になることを夢見てきたがままならないチーの姿は、中国からの独立を願いながら米中という二大勢力の影響下で揺れ動いてきた台湾の存在に重なって映る。
2021年7月20日
Androidアプリから投稿
そこまで心に沁みなかった。この年代の台湾を知ってる人にはいい映画なのかも。
内容をよく知らないまま、タイトルからほんわか系かなーと思いながらNetflixをぼんやり再生、トップシーンが終わる頃には真顔になっていた。
「トトロ」の導入のような引越しシーンかと思いきや、主人公が小舟を流す用水路には都会らしいゴミ、そのうえどうもその場面自体が過去の記憶のようだ。
つまり絵や背景はほんわかタッチだが、背後にはリアルな個人史があるらしい。
これは単なる雰囲気ハートウォーミング作品じゃないぞ…! と正座した。
寡聞にして詳細はわからないのだが、1人の台湾人女性の生い立ちと、台湾現代史の激動とが絡みあい、やがて私でもよく知っている近年のニュースへと繋がってくる。そこに主人公たちの確かな実在感を感じる。
社会的背景をコンパクトにうまく取り込みながら、現在と回想を明確にわけるのではなく、ひとつの場面の中でシームレスに展開していく。これはアニメならでは強みだと思う。
にしても語りがうまい。下手するとのんべんだらりとしてしまいかねないところを、流れるように話をつなげて飽きさせない。
この脚本(絵コンテ?)を書いた監督はかなりのストーリーテリング強者とみた。
こういう帰省ものってよくあるけど、観客を楽しませるとい意味で難易度は高いと思う。
そこもリアリティが効果的に奏功してるおかげかな。
日本でいうならさくらももこのエッセイをちびまる子ちゃんのタッチで描いたら、みたいな感じかな。祖父が亡くなった時の笑えないエピソードもあのかわいい絵柄でちゃんとやる、みたいな。
親世代と子世代の溝や葛藤がちゃんと描かれているので、台湾に詳しくない私でも我がことのようにヒリヒリする場面もあった。
「野蛮」ていうキーワードは新鮮だけど、感覚的にはすごくしっくりくる。親や上の世代がとても乱暴に見える時期ってあるんですよねー。それを変に逃げたりごまかしたりしてないのが素晴らしい。
身近なところにあるさまざまな無神経さ、断絶がちゃんと描かれているから、オチが単なるおためごかしに見えないのかな。
アニメタイトルの多い日本でも、ここまで社会が反映された作品はレアだから、この作品が評価されたことは今後の日本アニメにとっても朗報だと思う。高畑勲とか、原恵一が手がけるようなライン。
せっかく山ほどタイトルがあるなら、こういう路線が多少あってもいいのにと思うし、むしろ海外に持っていった方が歓迎されるのかも知れないなあとも思う。君の名は、や鬼滅の数百億は望めないまでも、それだってめったにない幸運なまぐれだと思うし。。
私にもわかるアニソンの引用は意外だったけど、使い方が上手で嫌味がない。うれしいサプライズ。
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