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幼き頃、夏の暑い車内に閉じ込められて危うく命を落とすところだった直人。父親は息子のことをすっかり忘れていたという。それからというもの彼は人生でだれからも存在を認知されず忘れ去られる存在として孤独に生きてきた。
しかし大学生活でのある日、初めて自分の名を呼ぶ声を聴く。同じ教室の佐々木千尋だった。自分の名を呼んでもらったことなどもはや記憶にさえなかった直人は千尋に淡い恋心を抱く。
だが、千尋とはそれきりで、すでに11年の月日が流れていた。思い立って直人は千尋の行方を探し当てるが、そこで再会した千尋はあのころとは別人のような荒んだ表情をしていた。
千尋の身にいったい何があったのか、直人は仕事を辞めて彼女の生活圏に店を借りて、グッピーショップをオープンさせながら彼女を見守ることにする。すると間もなく彼女が夫から酷いDVを受けていることを知る。
彼女への募る思い。妄想は膨らむ一方だ。無料でグッピーの飼育セットを提供することで彼女の家にうまく入り込んだ彼はすかさずスペアキーを作り、頻繫に彼女の家を出入りしては彼女を見守りつつ、グッピーの世話をしたり子供をあやしたりしていた。
千尋も家の中に誰かがいる気配を感じ取り、まるでそれが自分を見守ってくれているかのような安心感のようなものを感じていた。
しかし夫によるDVはますますエスカレートし、家を出た千尋だったがすぐに連れ戻されてしまう。
包丁で千尋を刺そうとする夫の背後から直人はスタンガンをあてて間一髪千尋を救う。夫を殺害した直人はそのまま交番に出頭する。これでいいのだ、自分は誰の記憶にも残らない、あの孤独なアロワナ男と同じグッピー男なのだ、もう終わりにしよう。
しかしその時、彼の名を呼ぶ声が聞こえる。千尋は思い出したのだ、11年前にたった一度きりコーヒーを飲んだ直人のことを。そしてもう彼のことをけして忘れることはないだろう。彼女の心の襞に彼という存在は縫い込まれたのだから。
直人の本当の人生はこれから始まる。
平たく言えば直人がしていたことはまんまストーカーなんだけどそれが結果的にいい方に転んだということで善因善果ではなくて悪因善果ということでおあとがよろしいようで。
サイコパス旦那に千尋が刺されそうになった時、背後から現れた直人はダークヒーローみたいでかっこよかったな。じらしにじらされていただけにカタルシスを得られた。
吉田恵輔監督の「なま夏」のような作品かと思いきや、家に上がり込んでグッピーの世話をしてたり赤ん坊をあやしてたりと、ウォン・カーウァイの「恋する惑星」を思い出した。
男が恋する女性に一方的に抱くどろどろした情念のようなものを見事にエンタメに昇華させた予想を裏切る良作だった。
ちなみに女性の皆さんはDV男とストーカー男どっちがいやですか?え、どっちもいや?そりゃそうですね。