セメントの記憶

劇場公開日:

セメントの記憶

解説

長い内戦を乗り越え、バブル経済真っただ中にあるベイルートの超高層ビルの建設現場を捉えたドキュメンタリー。地中海を眺望する超高層ビルの建設現場で働くシリア人移民・難民労働者たち。ある男が、出稼ぎ労働者だった父がベイルートから持ち帰った1枚の絵にまつわる記憶を回想し、父への思いを巡らせる。ベイルートへ亡命した元シリア兵のジアード・クルスーム監督が、移民労働者の姿と建設ラッシュに沸くベイルートの美しい街並み、そして戦争で破壊された労働者の祖国の映像を交互に映し出し、戦争と建設のイメージ、破壊と創造の概念、喪失と悲しみの記憶を詩情豊かに描くことで、人間の愚かさや終わらない戦争の悲しみを訴える。

2017年製作/88分/レバノン・ドイツ・シリア・カタール・アラブ首長国連邦合作
原題または英題:Taste of Cement
配給:サニーフィルム
劇場公開日:2019年3月23日

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(C)2017 Bidayyat for Audiovisual Arts, BASIS BERLIN Filmproduktion

映画レビュー

5.0この世の地獄が白日夢のように襲いかかる

2019年3月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

自らもかつて徴兵制によりシリア軍に従軍し、そこで戦争の惨さを経験しているジアード・クルスーム監督が、同じ思いを引き摺りながらベイルートの高層ビル建設に勤しむ同胞たちの厳しい現実に切り込んでいく。セメントの記憶とは、彼らが爆撃で破壊された故郷の瓦礫の中で、また、ビル建設の最中に直接的に味わうセメントの味を意味する。臭いではなく、味。そこに、破壊と創造を繰り返す愚かな人間に対する現場からの警鐘が込められている。しかし、このドキュメンタリーが秀逸なのは、そんな過酷な現実をまるで絵画と見紛う美しいフレームショットの積み重ねによって、別次元へと昇華させている点だ。空中にそびえ立つ高層ビルの梯子から見下ろす、ネオンサイン煌めくベイルートの海岸線、壁の穴から覗くスカイブルーの空、ミキサー車に取り付けられたウェアラブルカメラがとらえる回転する町の風景、等々。研ぎ澄まされた美意識を用いると、この世の地獄がさながら白日夢のように観客に襲いかかる。このような痺れる映画体験はあまりあるものではない。

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清藤秀人

4.0補えない喪失感

2021年5月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

戦争で失ったのは住処と家族だけではない。安全に生きる権利や思い出を失ったまま、富裕層がお膳建てした「Scrap&Build」なる綺麗事の元、過酷な建設現場で働く戦争被害者(シリア移民)達の圧倒的虚しさ。
戦争がもたらした破壊は、決して償ったり補う事が出来ないDestroy(破滅)の類だ。
本来庇護されなければならない戦争被害者たちが破滅と再構築に携わっている状況は、賽の河原を体現しているかの様だ。
もし、シリア移民たちに建築業を斡旋する組織と戦争を起こした側が同じだったら…と一瞬残酷な事を考える。
彼らが危険と隣り合わせの現場で築く高層ビルには、おそらく彼らとは無縁の、富裕層が住むのだろう。
爆撃の破壊音や、鉄板やコンクリートを切断する衝撃音は、体験した者の徐々に心を蝕んでいく。
【以下、疑問点】
●シリア移民に過酷な建設業を斡旋しているのは何処の組織なのか?
●建設現場で働く彼らがスマホを使っていたが、あの環境で通信が使えるんだろうか?
●身元保証が覚束ないのにスマホの契約はどうやっているのか

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tktk

5.0初めてのタイプのドキュメンタリー映画

2021年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

このエッセイ(随筆)が父親をしのぶ書き方であったり、それに、家族をシリアにおいて働きにきているシリアからの建築業の人々が故郷を案じている書き方であったりしている。いかに、個人のストーリーを淡々に語っていて、何ひとつ会話がないが、この表し方が、私の心を打つ。目がどうしても、字幕に行ってしまうのが常だが、監督は我々に、視覚で味わう時間を与えてくれている。ストーリーが途切れる間も、かえってこのエッセイの朗読を深く
感じさせてくれる。ゆったりとした低い声で語るエッセイ朗読の仕方が、ストーリーやスクリーンの過酷さとは真逆のイメージを与えるところがいい。青い空と海、そこに高層ビルの建築。ましてや、雑音や騒音をかなり消して、エッセイに趣をおいたのだろうか。視覚と聴覚に訴える映画だが、ふっとセメントの匂いを感じさせる映画だ。今までの見たことのないタイプのドキュメンタリーだ。ベイルートでシリアからの労働者はビルを建設しているが、シリアのアレッポやダマスカスではビルが崩壊されている。皮肉だ。

シリアからの労働者の人間扱いされていない生活や現場での扱い。彼らが、休むところは工事現場の地下、周りに雨水が溜まるところ。それに、手袋、マスクなしで、現場で働く。一人はヘルメットも被っていなかった。無くしてしまったのかもしれない。予備がないのかもしれない。なくしたら、高いお金を払わなければならないかもしれない。そのことはわからないが。この状況をみれば、なんとなく見当がつく。

ベイルートの高層ビルで働く労働者は地中海を臨める景色のよい素晴らしい地域が仕事場だ。ベイルートの高級地域だということは見るだけでわかる。エレベーターで現場まで行くが、12時間も過酷な太陽がギラギラする現場で、目の下に、広大な地中海の見ながら働くという皮肉な労働状態。こんな場所で、肉眼で(ガラスを通さず)肌に感じることができる。夜はレバノンのシリアからの労働者は七時以降は外に出られないと。テレビやスマホのスクリーンで、シリアの内戦(アサド政権によって、アレッポが攻撃され、破壊されているとか、ダマスカスでの同じことがおこっているとか、レバノンにシリアからの難民が流れ込み、差別が始まっているとか。)での様子を伝える。家族は大丈夫かどこにいるかと心配して、スクリーンに釘付けになる。視聴者は、この戦争が起こす悲惨な生活環境に同情するが、その反面、地中海に面している景色に目を奪われる。

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Socialjustice

3.0視覚と想像力で感じる

2019年8月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

視覚と想像力で感じる作品。建設(労働)と破壊(戦争)を繰り返す人間の愚かさを再認識させられる。時折映し出される自然や生物はいつも人間の犠牲者。異常気象や温暖化、海洋プラスチック問題など、その代償は非常に大きく全ては人間自らが招いた問題である。
2019-173

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隣組