ふたりの女王 メアリーとエリザベス : 映画評論・批評
2019年3月12日更新
2019年3月15日よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー
ふたりの女王はコインの裏表。対照的な役作りで挑む女優対決の軍配は…!?
これまで度々映画化されているスコットランド女王、メアリー・スチュアートと、メアリーと王位継承権を巡って対立したイングランド女王、エリザベス1世の物語である。主な過去作を振り返ると、ヴァネッサ・レッドグレイブ演じるメアリーと、グレンダ・ジャクソン扮するエリザベスのライバル関係を描いた「クイン・メリー 愛と悲しみの生涯」(72)があり、一方、エリザベス1世が主役の「エリザベス」(99)は、ケイト・ブランシェット扮するイングランド女王が絶対的地位を確保するに至る経緯を綴っていた。メアリーvsエリザベス、またはその後のエリザベスによる完全統治は語り尽くされた史実なのである。そこをまず押さえておいた方がいい。
さて、これが長編デビュー作になるジョージー・ルーク監督はここに新たな視点を書き加えている。本来は従姉妹同士でありながら、スコットランドvsイングランドの覇権闘争に、カトリックvsプロテスタントの宗教対立が重なり、さらに、世継ぎを産むか産まないかの選択が、即、国家の存亡を左右する女性ならではの問題に直面する両女王に、強い同情と共感の目を向けているのだ。美貌に恵まれ、恋愛、結婚、出産とすべて経験した上で、イングランドの王位継承権をも主張するメアリーと、争いを避けるために女性としての喜びは捨て、自ら男になる決意を固めるエリザベス。2人は一見対照的だが、どちらも女性が国を統治することの困難さを誰よりも知っている者同士。つまり、コインの表裏の関係にあったというのが本作の提案だ。表向きは女王たちに仕えながら、影で陰謀を張り巡らし、己の野望を実現することしか眼中にない男たちの情けない実態が、現代の社会構造を暗示していることは言うまでもない。
常に毅然として美しいメアリーを、シアーシャ・ローナンがいつも通り、相手を射抜くような眼力を以て好演している。一方、マーゴット・ロビーは本来の美貌をかぎ鼻と極端な白塗りで覆い隠し、コンプレックスと猜疑心の塊だったエリザベス1世に扮して、女優としての新境地に挑んでいる。シアーシャに比べると、言ってみれば役得。その造形力は大先輩のグレンダ・ジャクソンやケイト・ブランシェットにも引けを取らない。この女優対決、今回はマーゴット“ヴァージン・クイーン”に軍配を上げよう。
(清藤秀人)