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総合:★★★★☆
ストーリー:★★★☆☆
キャスト:★★★☆☆
演出:★★★★☆
音楽:★★★★★
「私の名前はリリー・セイラ。3日前に28歳になった。だが29歳にはなれないだろう。」
という主人公のモノローグから始まったこの作品。
全体的な展開はスローペース、過激なホラーが好みの方にはもしかすると不向きな作品かもしれません。
この作品で視聴者が共感できる部分はきっと主人公であるリリーが「怖がり」という部分でしょう。
静寂の中の物音や飲み込まれてしまいそうな暗闇、そんな日常的にありえるシチュエーションに恐怖を感じた経験がある人は多いはず。少なからず私はそうでした。
ここに共感出来るか出来ないかで第一段階としてこの映画を楽しめるか否かが決まると思います。
始まり方はよくある「怨念を持った霊体が取り憑く人里離れた邸宅に赴いた主人公が惨劇に巻き込まれる」系のホラー映画を彷彿させるもの。
でも話が展開すればするほどよく分からない。本当によく、「分からない」のです。
ポリーとブラムの関係は?ポリーと壁を打ち続ける男性の関係は?ブラムとはどういう人物なのか?過去なのか現実なのか。リリーの白昼夢なのか。そもそもブラムとリリーはどうなってしまったのか。
全ての解釈を視聴者に委ねるような描写で久し振りに頭を使いました。
私が感じたこととしては...
劇中に登場する物語のブラム著、「壁の中の淑女」で「本書はポリー・パーソンズに聞いたことを書き留めたもの」「彼女は自分の最期を語りませんでした。」「話を作りたくないのです。」とブラムは書いています。
またいつもリリーを「ポリー」と呼ぶ痴呆と思われているブラムがリリーを「リリー」として対話するシーンがあります。
そこから感じるのは、ブラムは痴呆で死期を待つのみの老人ではなく、ポリーともしくはあの邸宅に住む死者と対話することのできる生を持たない者の理解者なのではないかと思うのです。
この映画はリリーの「私の名前はリリー・セイラ。3日前に28歳になった。だが29歳にはなれないだろう。」というモノローグから始まり、「貴方が見ている美女はこの私」というモノローグに終わります。
終始、抽象的なこの作品ですが、恐らく既に生を持たないリリーの言葉を聞き、リリーの記憶を覗くことで、リリーが死の直前に死者の言葉を文字にしたブラムの追体験をした様に私達も同様の体験をしたのではないかと。
この作品はホラーというジャンルの中でとても異質ですが同じくらい生と死の関係を深くまで追求している様に思います。
「人は死んだらどうなってどこに向かうのか」というテーマを誰しも考えたことがあると思います。消えてしまうのか、冥府の国へ行くのか、その場に留まるのか、彷徨っているのか、その死んだ者達の目線から描かれる世界観がとても美しい作品でした。
映像は酷く抽象的ですが、美しく効果的な音楽が場面を引き立てているので盛り上がりこそはしないものの飽きることはないと思います。
また台詞が詩的で叙情的、まるで本を読んでいる様な感覚になります。読書好きな私としては作中に登場する「壁の中の淑女」を読みたくなってしまいました笑
リリーが恐怖する自分を奮い立たせるために呟く独り言も酷く可愛らしくて癒されました。
頭は使いますし、見る方の趣味趣向考え、性別の違い、その人を構成する全ての違いで解釈が変わるのでぜひ見ることをお勧めしたいですし色んな方のレビューが見たくなりますね。
私は比較的好きなタイプの作品でした。