教誨師

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劇場公開日:

教誨師

解説

2018年2月に急逝した俳優・大杉漣の最後の主演作にして初プロデュース作で、6人の死刑囚と対話する教誨師の男を主人公に描いた人間ドラマ。受刑者の道徳心の育成や心の救済につとめ、彼らが改心できるよう導く教誨師。死刑囚専門の教誨師である牧師・佐伯は、独房で孤独に過ごす死刑囚にとって良き理解者であり、格好の話し相手だ。佐伯は彼らに寄り添いながらも、自分の言葉が本当に届いているのか、そして死刑囚が心安らかに死ねるよう導くのは正しいことなのか苦悩していた。そんな葛藤を通し、佐伯もまた自らの忘れたい過去と向き合うことになる。死刑囚役に光石研、烏丸せつこ、古舘寛治。「ランニング・オン・エンプティ」の佐向大が監督・脚本を手がけた。

2018年製作/114分/G/日本
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
劇場公開日:2018年10月6日

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(C)「教誨師」members

映画レビュー

5.0役者の肉体の饒舌さを思い知る

2019年2月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

大杉漣をはじめ、役者の芝居が素晴らしい。これだけの芝居をよくぞ引き出した。ほとんどが対話だけで構成される舞台劇のような作品だが、ぐいぐい引き込まれてしまった。特に印象に残ったのは、めをつぶりながら、まぶたの奥で眼球だけ動かす古舘寛治。最初のシーンだが、あれだけでしゃべる必要なく、あの人物の異様さが表現されていた。久しぶりに役者の肉体の饒舌さを思い知った。 様々な死刑囚との対話によって、死刑とは、人間の生とは何かを考えさせる作品だが、作中で結論は何も出ない。命を奪った人間たちが、権力によって命を奪われるシステムに正当性はあるのか、それ以外にも社会には矛盾が溢れていて、人の人生は平等ではない。答えのない問いをされつづける大杉漣は、返答に窮しながらも「逃げない」ということだけは一貫している。その超然とした佇まいに畏怖すら感じた。人間にできるのはいつまでも考え続けることだけだ。

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杉本穂高

4.0シチュエーション・ヒューマンドラマとでも呼ぶべき意欲作

2018年9月30日
PCから投稿

悲しい

知的

シチュエーション・スリラーというサブジャンルはあるが、刑務所内にある教誨室の中だけでほぼ全編が進行する本作はさしずめ「シチュエーション・ヒューマンドラマ」といったところ。死刑囚の話し相手となり心の救済を図る篤志の宗教家=教誨師(本作の佐伯は牧師だが、仏教など他の宗教の教誨師もいるそうだ)と、バラエティーに富む囚人たちとの会話劇。死刑囚が独房で過ごす姿も、佐伯が刑務所以外で生活する様子も描かれない。しかし、囚人が他愛のないおしゃべりに興じたり過去の罪を振り返ったりするとき、またそれに佐伯が応えるときの、それぞれの言葉と表情によって、彼らの人となりがじわじわと立ち上がっていく。 これが最後の主演作となった大杉漣にとって、舞台劇のように簡素な一室において演技一本で勝負する映画と晩年に出会えた点は、(本人の意図ではないにせよ)役者人生の締めくくりにふさわしく幸福なことだったのではないか。

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高森 郁哉

3.5いい映画だが、娯楽性にとぼしい

2024年12月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ドキュメンタリーフィルムのような地味な映像をナレーションなしで見せられているような映画。基本的に対話だけでストーリーが進行していくが、大杉連のキャラクターと、対峙する死刑囚たちの個性がうまくマッチして、ずっと見ていられる。退屈でくだらない芝居がかった映画と違って、限られた予算でここまで面白くできるという見本のような映画だと思う。 ただし、主人公の背景をもう少し掘り下げて、不幸な兄との別れをドラマティックに語ってほしかった。それから、6人の死刑囚の取り上げ方が公平なのはいいが、誰の死刑が執行されるんだろうとか、えん罪っぽい人が救われることはないんだろうかとか、気になるポイントにウエイトを置いて、ストーリーを進行させてほしかった。そうなれば、死刑の執行に感じる部分も多かっただろう。 教誨師という仕事を取り上げた以上、罪の裁きを受けることよりも、執行までの限られた時間に罪と向き合い、前を向ける人間らしさを与えることに重きを置いて会話が進んでいく。「神様はそんなあなたでも許してくれます」という絵空事のような言葉を、むなしく繰り返すしかない牧師の立場を大杉漣(字がない)が熱演している。 文部省推薦の、講堂で生徒が揃って見せられるような映画で、お金を払って週末の娯楽に家族で見にいくような映画ではない。何かを考えさせられるような内容で、確実にそれぞれの心になにかを語りかけてくるが、ひと言で言って娯楽性にとぼしい。それもまた映画なんだ、と言われればそれまで。

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うそつきかもめ

4.0飽きるが、最後まで見ると謎を考える資格が与えられる

2024年6月7日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

人間社会の根源的問題に迫る作品。 死刑囚という特殊な人々に対し、その行いに向き合わせるために存在する国の矯正プログラムを題材にしている。 教誨師は囚人が信じている宗教のほか一般教誨があるが、作品ではキリスト教の牧師が主人公となっている。 ボランティアという枠にしてはあまりにも重い仕事で、たびたび囚人たちの感情が高まってしまうこともある。 物語は、たくさんいる死刑囚の様々な思いや認識、そして主張を聞く教誨師佐伯が、彼らが思いつめるまでに至る過程と自分自身の過去を重ねていくと同時に、死刑囚と自分自身との境界線がわからなくなってゆく。そして主人公は、この教誨師という仕事は、死刑囚に対するものではなく、自分自身を見つめ直す機会になっていることに気づく。 死刑囚タカミヤが、執行直前に佐伯に抱き付いた。頑なに心を閉ざしていた彼の闇に寄り添ったことに、タカミヤは佐伯にだけ感謝を伝えたのだろう。この瞬間、佐伯はいいようのない感覚を覚えたに違いない。それは決して自分の仕事に対する達成感などではなく、タカミヤが初めて人に対して見せた感情の言葉があまりにも聖なるものに思え、それを佐伯自身が受け取っていい資格はないという葛藤となったのではないかと思った。 そして、 文字の読み書きがおぼつかない囚人が渡した紙切れに書かれた言葉が、この作品の主題。 「あなたがたのうち、だれがわたしにつみがあるとせめうるのか」 これはイエスが大衆に言った言葉と同じで、この文字を見た後、佐伯は歩いて拘置所に戻り始める。 タカミヤの聖なる言葉と、彼の書いた言葉。救っていると思っていた方が、実は救われていた。真逆の世界。裁くものが裁かれている。真逆で矛盾した社会。佐伯はこのことに気づいたのではないのだろうか? 佐伯が拘置所で何をしたかったのか、それはおそらくこの作品を手掛けた大杉漣さんのこの社会に対する矛盾への思いだろう。 それは、大衆に対する表現として、決して明確に言葉にできない類のものだと思う。 作品が伝えたいことが最後に出されるが、教誨師と囚人たちのやり取りが延々に続くので視聴する方としては飽きてくるのが難点だが、最後まで見届けられるのであれば、考えさせられるいい作品だと思う。 何よりも、佐伯が感じたことがダイレクトに言葉として表現されていないことで、それを考えさせるように作られているところがよかった。

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