劇場公開日 2018年5月12日

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孤狼の血 : インタビュー

2018年5月11日更新
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役所広司×松坂桃李「孤狼の血」芝居への“燃料”となった互いの表情

東映伝統のスピリットが5月12日、遂に“爆ぜる”――「警察小説×『仁義なき戦い』」と評された柚月裕子氏の小説を実写映画化した「孤狼の血」が有する圧倒的熱量に、日本全土が興奮の坩堝(るつぼ)と化すはずだ。白石和彌監督が抱いた「日本映画界に“元気のある”作品を!」という思いに賛同した役所広司、「役所さんとバディを組めることが何よりも嬉しかった」と願ってもないオファーに飛びついた松坂桃李。「日本のいちばん長い日」以来となる邂逅が、両者の魂に火をつけた。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

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舞台は、暴対法成立以前の昭和63年、広島の架空都市・呉原。暴力団系列の金融会社社員失踪事件を契機に、男たちの怒号、静寂を切り裂く銃声が響き渡り、情念に満ちた鮮血が同地を染めていく。「監督と初めてお会いした時、この手の作品はかつて日本映画界で製作されていたものの、今ではそのお株を韓国映画にとられてしまっていると仰られていた」と振り返る役所。確かに近年の韓国映画界の“腹のくくり方”は見逃すことができない。だからこそ、今「孤狼の血」のような作品がつくられることには意義がある。

「こういう映画を、今の日本映画界でコンスタントに製作していけば、作品の幅も広がって、厚みも出てくるはず。若い俳優やスタッフの方々も『この世界は面白い』と感じて、活気が出るんじゃないかと思う」(役所)という彼方を見据えた思いに、松坂も「ある種、起爆剤になればいいと思います」と同調する。「もしもこういう作品がどんどん作られるなら、やっぱり僕らのような若い世代も負けてられないと感じるはずです。血湧き肉躍る経験って、なかなか現場で体験することはないですからね」と決意を新たにしていた。

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若松孝二監督のもとで学んだ白石監督について「“昭和の香り”がすると言われるようですが、確かにそうでしたね」と巨匠の“魂”を感じたことを明かす役所。さらに、リテイクが容易となったデジタル撮影主流の環境を引き合いに出し「白石監督は『このカットを撮りたい、このテイクを使いたい』というのが明確です。現場に入ってから『ここはカットを割っちゃいけない』と決めることもありましたね。そういう思いを秘めて丁寧に撮るので、俳優にとっては緊張する現場。でも『よーい、スタート!』の緊張感は、非常に心地よかった」と初タッグの感想を述べた。

彼女がその名を知らない鳥たち」に続き、2度目の白石組となった松坂は「こんなにも早く仕事ができるなんて思わなかったですね」と再招集に感慨深げだ。「(白石監督は)思い切りの良さというか、ジャッジメントがはっきりしているんです。その決断が頼りになる。僕らも安心して身を委ねられる」と言葉を紡ぐと、役所も「信頼できます。監督も俳優を信頼してくれているので、のびのびと芝居ができましたよ」と深く頷いて見せた。

役所が演じたのは、ヤクザとの癒着が噂され、過激な違法捜査も辞さない刑事・大上章吾。原作小説ではパナマ帽がアイコンとなり、映画版よりも若い年齢設定だ。「原作を読んだ時には『格好いい』と思った反面、この人物を演じるには照れ臭さがあったんですよ。これを要求されたら困るなと(笑)」と当初は戸惑いもあったようだが「監督が僕自身に大上像を合わせてくれたのかはわかりませんが、脚本になった時点では身近な存在になっていましたね」と納得の人物像となったようだ。

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ダーティヒーローとも言える大上に対し、松坂が挑んだのは、刑事二課に配属された新人・日岡秀一。下手をすれば「犯罪者」になりかねない大上のもと、日岡の固定概念が崩され、「正義とはなにか?」という究極の問いかけの答えを求めて成長していくさまは、本作の見どころのひとつだ。「前半、中盤、後半と、日岡の心情はブロックが分かれている」と説明すると「そこにどう点を打って、線でつないでいくかが課題でした。目の前で起こることを踏まえて、自分の中で噛み砕き、消化して、徐々に変わっていく過程を“逆算”したんです」と役を生き抜いたようだ。

一方で「現場に入って、大上の背中を見ながら、点と点を繋げば大丈夫だなという感覚がありました」と大先輩への信頼の厚さをにじませた松坂。その確信は、クランクインにさかのぼる。「『日本のいちばん長い日』の時とは、まとっている空気が違うことに衝撃を受けたんです。しかも、カメラが回っていない、スタンバイ中のこと。ずっと大上なんだなと」と興奮の面持ちで語ると、役所はあっけらかんと「『日本のいちばん長い日』とは、扮装が違いますからね(笑)」と言い放ち、スタッフたちへの感謝の念を捧げる。「ヘアメイク、衣装、小道具、そういうものを身にまとうことによって、気分は異なってくるんですよ。例えば、私服でリハーサルをするのは、恥ずかしくて苦手ですね。扮装をしているからこそ、思い切ってできるんです。周囲のアイディアや力を借りているんです」

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劇中の予想だにしない展開に触れ、役所は「(松坂が)全部さらっていっちゃいましたね」と太鼓判。思わぬ発言に恐縮しっぱなしの松坂を横に「(本作は)日岡目線の物語。ラストに向かって、日岡が輝きを放っていく」と話し、“役者・松坂桃李”の魅力を語り出した。「役者は“共演者の力をもらう”ということが重要がポイントなんです。自分がひとりで演じている時でも『あの時、松坂君はこんな表情をしていたな、こんな芝居をしていたな』と思い返して、自分の芝居が完成していく。松坂君は印象的な表情をずっとしてくれていましたし、良い役者さんだと思いました」と“バディ”として存在をしっかりと認めていた。

本作の核は、“孤狼”大上にたぎった「血」が、日岡へと徐々に継承されていくという点だ。松坂に「役所から役者として継承されたものは?」と問いかけると「とてもじゃないけど受け止めきれません。本当に目の前で色々と勉強させていただきました」と答えたものの「僕自身も役所さんの表情が燃料となった時がありました。撮影が終わって、他の作品に臨んでいる最中も、『孤狼の血』の思い出が支えになっていたんです」と告白した。誰しもが認める演技巧者・役所広司。あえて投げかけた「目指す境地、野望とは?」という愚問のアンサーに、松坂は感嘆のため息を漏らした。

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役所「役者として、もっと上手くなりたいというだけですよ。本当、上手くなりたいというだけ。松坂君もそうだと思いますが、なんでこうできなかったのかという悔いが残ることがありますから。監督がOKと言えば、OKになってしまうんですけどね。それに役者が上手く演じたとしても、監督が上手く切りとってくれなきゃダメなんです。だからこそ、今後も良い監督と出会いたい」

取材の最中、松坂はあるアイテムを取り出した。撮影終了後にプレゼントされた、本作のキーアイテム・ライターだ。受け継がれた宝物を愛おしそうに見つめ、時折蓋を開閉してみせる松坂。3月30日に上梓されたシリーズ第2作「凶犬の眼」は、大上の「血」を受け継いだ日岡を軸とした物語となっており、勿論このライターも登場する。「次回作でも使うんだから、ちゃんと大事にしておかないとね。無くさないように」と笑う役所、「大事なものなんで、大丈夫です」と切り返して懐におさめる松坂。両者の何気ないやりとりを目の前にして、映画「凶犬の眼」実現への期待が高まった。

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