劇場公開日 2017年8月25日

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エル ELLE : インタビュー

2017年8月28日更新
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ポール・バーホーベン、道徳や倫理を無視した作風はオランダ絵画からの影響と告白

ロボコップ」「スターシップ・トゥルーパーズ」など、人間が持つ善悪の価値観に揺さぶりを掛ける数々の傑作で映画界に衝撃を与えてきた鬼才ポール・バーホーベン監督の最新作「エル ELLE」が公開する。名女優イザベル・ユペールを主演に迎え、「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」の原作者フィリップ・ディジャンの小説「oh...」を実写化したエロティックサスペンスだ。第74回ゴールデングローブ賞ではドラマ部門主演女優賞と外国語映画賞を受賞、第89回アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。来日したバーホーベン監督が自身初のフランス映画を語った。

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ゲーム会社のCEOを務める女性ミシェル(ユペール)は、自宅に侵入してきた覆面男に強姦される。何事もなかったかのように今まで通りの生活を送ろうとするミシェルだったが、襲われた時の記憶がフラッシュバックする。犯人が身近にいることに気づいたミシェルはその正体を突き止めようとするが、自分自身に潜んでいた欲望や衝動に突き動かされて思わぬ行動に出る。

バーホーベン監督の代表作のひとつ「ルトガー・ハウアー 危険な愛」のファンだったというユペールが、複雑な性格を持つ美しいヒロインを見事に体現した。「ミシェルは非常にアグレッシブで、自分に対する攻撃を許さないという態度、暴力やレイプによって、自分の世界をコントロールされてたまるかという気概を持つ女性だ。それが一番良く表れているのが、友人たちにレイプされたと告白する場面。友人たちが心配すると、彼女はその話はやめてしまう。とても屈折していて、自分のことを思いやろうとしている人々でさえ、拒絶してしまう。それがまさにミシェルの性格なんだ。もちろんレイプそのものは彼女に影響を与えた、でも、私はこれから自分の歩みたいように歩むのだと。イザベル(・ユペール)も勇敢な女優で、僕たちが作りたかったミシェルそのものを演じていた」

セックスと暴力が織り交ざる物語を一種のおとぎ話として描いたという。自身の経験も交えてこう語る。「この作品ではレイプは実際に起きていて、唯一空想といえるのは、ミシェルが復讐を望む部分かな。ルイス・ブニュエルの『昼顔』では、鞭で打たれたり、泥を投げつけられたりという空想を主人公が抱いていたけど、ミシェルの場合はリアルに行動するので違いはある。僕自身も、アーティストとしてホモセクシャル的な空想をしたことはある。母とベッドを共にする夢だって見たことがあるよ。フロイト的だけど、現実の世界でそれを実現したいということではない。男性の高校教師と性的な行為に及ぶという夢も見たね。彼は僕に初めてアートというもの、芸術の持つ力と美しさを教えてくれた人だったから、それを夢に取り込んだとわかった。性的な欲求ということではなく、頭の中で翻訳してそういう夢を見たんだろうね」

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凄惨な場面はあるものの、ブラックコメディとして視覚的にもユーモラスな雰囲気を出した。物語の冒頭から登場するミシェルの飼い猫について「小説の中にも登場するんだけれど、この映画は猫と共に始まるんだ。そして猫は飼い主を守らない。猫は何かニュートラルな観察者として描かれている。獣の存在として、人間の男性のオーガズムを観察しているから、その瞬間が止まったとたんに、興味がなくなってしまう。彼女にとってはレイプだったが、猫にとっては生物的な観察対象なんだ」と説明する。

劇中ではミシェルが寿司を頼んだり、ミシェルの会社では北斎の浮世絵をモチーフにしたようなゲームや、セクシーな女性フィギュアを制作するなど日本がルーツの文化が小道具として登場する。「北斎の蛸の絵はパク・チャヌク監督の『お嬢さん』でも使っていたよね。ミシェルをゲーム会社のCEOにしたのは、画家である娘のアイディアなんだ。僕たち自身でゲームを作ることができなかったから、フランスのビデオゲーム会社がつくったモンスターやクリーチャーの要素を組み合わせたんだよ」

今作では、現代社会における宗教の影響も盛り込んだ。原作にはなかったラストシーンは「カトリック教会に対する、皮肉や批判をこめた」と告白。「カトリック教会がいかにそういうことを隠してきたかということをね。ミシェルは、ひとつのファンタジーに参加するということの行動で、最後に復讐を遂げることができるんだよ」

社会の道徳や倫理を無視したような描写が特徴で、世界中に熱狂的なファンを持つ。日本のファンからは天才で変態と評されていると告げると「もちろんその通りだよ」と深く頷く。「僕はヒエロニムス・ボスの絵画が大好きなんだ。17世紀のオランダが作り出した素晴らしく奇妙な遺産のひとつだね。それが僕が生まれ育った環境だし、背徳的な部分は意識していることではなく、意識下から立ち上っているのかもしれないね」と語る。過去作も含め、物語の随所で唐突な映像が差し込まれるような編集については、原色を黒線で分割する手法を用いた20世紀初頭の抽象画家モンドリアンの絵画への関心が影響しているという。「この世界はほとんどが異常で暴力的なものできていると思うんだ。日々のニュースを見ればそのことがよくわかるだろ」と笑みを浮かべた。

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