マリアンヌ : 映画評論・批評
2017年2月7日更新
2017年2月10日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
美形俳優の面目躍如。ブラッド・ピットなしには成立し得ない王道ラブロマンス
「12モンキーズ」で精神病患者を演じるために実際に精神病院で1日ステイ、「ファイト・クラブ」では役作りのために前歯を除去、等々のエピソードから浮かび上がるのは、ブラッド・ピット=メソッドアクター説。一方で、美しすぎる故に実は役作り以前に見た目重視で仕事を選んでいるという意地悪な見方もなくはない。プロデューサーとして作品を統括できる立場にあったプランBエンターテインメント製作兼主演作「フューリー」での、ディップで立たせた前髪や、やや強引な脱ぎっぷりが思い浮かぶ。
その考え方で行くと、最新作の「マリアンヌ」は見た目重視パターンだろうか? 確かに、主人公の英国秘密諜報員、マックスがパラシュートを畳みながら第2次大戦下のサハラ砂漠にふわふわと舞い降りる絵のようなオープニングから、マリオン・コティヤール扮するフランス人レジスタンス、マリアンヌとマックスの任務を超えた恋愛→結婚と至る物語は、まさしく美形俳優の面目躍如な世界。ブラッド・ピットなしには成立し得なかったであろう、オーソドックス過ぎるラブロマンスが展開する。
しかし、やがてマリアンヌに“ある疑惑”が浮上し、マックスが妻の潔白を証明するために国益が絡んだ夫婦間ミッションを決行する後半部分は、一転、スリル→悲劇へと映画はシフトして行く。諜報員とレジスタンス、2人を出会わせたのが戦争なら、紡いだ愛と幸福な時間を無残に切り捨ててしまうのも、また、戦争の時代ならでは。見た目、つまり包装にのみ注目が集まりがちな映画の目的を、「若い男女を戦場に送り出した人々を風刺しているんだ」とフォローするブラッドの言葉には、やはり作品を俯瞰で見下ろすプロデューサー(本作はプランB製作ではない)的視点が覗く。私生活の擦った揉んだで想定外の付加価値が付いた最新主演作からは、目的のために高いステイタスとルックスを何らかの形で映画作りに還元する、トップスターのしたたかさを感じないわけにはいかない。
ところで、劇中でのブラッドが53歳にしては見た目が若すぎるという疑惑が、物語の疑惑以上に業界内で渦巻いている。それに関して詳細は詳らかにされていないが、監督はハリウッド随一のCGイノベーター、ロバート・ゼメキス。そう言われれば、一箇所、マリアンヌが白か黒かを確かめるシーンでブラッドの肌がまるで少年のように見える場面がある。もし、これが何らかのCGなら、「ベンジャミン・バトン」後半のさらに上を行く、またゼメキスにとっては「フォレスト・ガンプ」の風に舞う羽根を超える映像イノベーション。スクリーン上に映画スター不老不死の時代を築く礎になるかも知れない。
(清藤秀人)