海よりもまだ深くのレビュー・感想・評価
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海より深い“母の心配”
そういえば私の祖母も、私の母に対して「母の心配」をしていたなあ。 大人になってから私の母も、私に対して「母の心配」をしてくるなあ。 母や祖母というものはどこでもこんな感じで心配するものなのかな。 あまりに言い方や口癖が樹木希林と重なっていて驚き! 少し面白く、深刻にならないように話しながらも、祈るような想いがつい顔を出すところとか。 「もうあなたたち駄目なのかしらねえ。」 「なんでこんなことになったのかねえ。」 この台詞なんて、まんまうちの祖母や母と同じ。 このちょっとネガティブに言ってくるところが癇に障るところとか。 おそらく、避けたい最悪の事態を、あえて言葉に出すことによって「そうならないように保険をかけている」ようなところがあるように思う。もしくは、万一そうなったときに備えてショックが少なくて済むよう言葉に出して慣れておくという意味かな。(どっちかというと後者かな。) で、こっちは邪険な返事をしてしまって後から後悔するんだよなあ。 これ私も最近どうやら引き継いでいることがわかった。 私にもまっとうな「親の愛」があったことに驚き。。
やっかいだけれど愛すべき、未練というもの
これまで、ダメ男を幾度となく演じてきた阿部寛。大きな身体を持て余すような彼の存在が、本作では一際光っている。というか、とにかく目立っている。彼を取り巻く人々(樹木希林、小林聡美、真木よう子、池松壮亮…)が小柄なうえに、ご丁寧にも座ったりバイクに乗ったりで、彼の目線をさらに引き下げる。人だけではない。母の住む古ぼけた団地は、天井が低く、全てがこじんまり。彼がそこに居るだけで、家に収まりきれない、はみ出した彼の有り様を一目瞭然に物語る。どこを取っても、「画になる」ショットのオンパレードだ。 もちろん、そんな視覚の妙だけではない。冒頭のリズミカルな母娘の会話で、家族関係をさらりと観客に示すところから、是枝節全開。ごく自然で何気ないやり取り…のようで、是枝監督作品は、いつも精緻に計算され尽くされている。まるで、監督の手のひらの上で自在に転がされているようだ…と思いつつも、ゆるゆると身を委ねてしまう。 アレ、コレ、ソレ…といった、分かったようで分からない、ぼやかした言葉の連なり。彼らの会話に繰り返し登場する、亡き父の様々なエピソード。夜中にしては大音量でラジオから流れる音楽…。これらはすべて、ここに行き着くための布石だったのか、と台風一過のラストに至ってハッとした。雄弁すぎる歌詞のエンディングテーマが、思いきりエンドクレジットにかぶさる。ああそうか、これは、パッとしない主人公が、小さな積み重ねを経てやっと一歩を踏み出す物語だったのか、とちょっと胸が熱くなった。 …しかし。翌日、とあるラジオ番組を聞いていて愕然とした。そこでは、本作が「なんにも起こらない物語」として紹介されていたのだ。いやいや、そんな訳はない。ハリウッド大作のように世界や地球が破滅するわけではない…にしても! と、違和感を幾度となく反芻しているうち、「それもそうかな」という思いがふっと湧いてきた。 ラストの良多はなかなかカッコよかったけれど、やっぱり彼は、またしても未練タラタラに、元妻につきまとうかもしれない。仕事の方は急展開しそうにないから、フラフラした生活も当分続きそうだ。けれども、元妻と子に見せた「その瞬間」にウソはない、とも思う。確かにその時、彼は凛として決意し、一歩踏み出した。それで十分だ。…もしかすると、良多と元妻、息子は、毎月同じやり取りを繰り返しているのかとしれない、だとしたら…などと、思いはとめどなく広がっていく。 「そして父になる」のラストをハッピーエンドと捉える人がいる一方、終わらない悲劇の始まりと捉える人もいる。本作も然り。その選択が正解か否か、ハッピーかアンハッピーかは大したことではない。「人生万事塞翁が馬」と言えばそれまでだけれど、良多の身体と同じく、枠組みに収まりきらない交々の味わいを、本作は丁寧に描き出す。 また、母の家にあふれる古ぼけた品々も忘れがたい。(民芸調の赤い布張りの箱には、特に目が釘付けになった。くたびれ具合まで、実家の裁縫箱と瓜二つ!)未練を捨てることの難しさ、未練を持つことの悲しさ面白さ。是枝監督作品は、観る人それぞれの生活や家族に思い当たるあれこれを絶妙に散りばめ、何気ない日常の豊かさに気づかせてくれる。
台詞、表情、間の使い方、どれもが自然で、ドキュメンタリー映画を観ているかのよう
誰一人として演技してないリアル映画。台詞、表情、間の使い方、どれもが自然で、ドキュメンタリー映画を観ているかのような感覚になった。
主演の樹木希林、阿部寛、真木よう子はもちろん、良多の部下、姉の旦那子供、団地の住人、など脇役の演技も自然で無駄がない。変にデフォルメせず、誰もが実際に周りに居そうな人間で親近感を覚えた。特に良多の部下の気怠そうな感じは、今時の新入社員っぽくてそこら中に居そう。
中でも樹木希林と阿部寛の演技は頭ひとつ抜けている。二人の演技が優しくてホッコリ、やり取りをずっと観ていたいくらい。ダメ人間の阿部寛を責めたりせず接する樹木希林に心を打たれた。
俺も将来ダメ人間になる可能性が高いので、樹木希林と阿部寛(良多)のやり取りは、将来の自分と母を重ねて胸が熱くなった。俺がダメ人間になったとしても、良多の母のように受け入れてくれると信じたい。
大きい事件も起こらず淡々としてる映画なのに、飽きずに観られたのは役者陣の演技の力だと思う。キャスティングがしっかりしていれば、派手な演出は必要ない、そう教えてくれる映画だった。
ザ・コレエダフィルム
2019年のフジTV録画。 最近の是枝さんの作品は、割と、コレ!、というお題目がはっきり分かり易い場面があるが、元々是枝さんの映画ってこんな感じだねー。特に何も起こらない。 さほど特殊ではない家族の描写。 でもそこで交わされる会話に妙味がある。 「何でこんな事に…」と日々身に積まされる不可逆の事実に、母も息子も元嫁も孫も、そして自分も後悔が押し寄せるが、その今の自分は結局は自分の選択の結果であるから、残念ながら望んだ自分であるのだが、受け入れられない自分は確かに居る。 海よりも深く人を愛せる人なんて居るのか。 テレサテンも、結局は「できなーいー♪」て歌ってるから、無理だよね多分😅 少し阿部寛が厚かましくてウザい。 リアリティを感じない。
是枝監督らしい作品
まず、是枝監督らしい作品という印象。使う役者も樹木希林、真木よう子などおなじみの顔ぶれや、小林聡美、阿部寛といった「好きそう…」な役者を揃えている感があった。
彼の作品に必ず登場するうだつの上がらない男性。でも、子供に対する愛情だけはあったり、お金にだらしないのに、人情だけはあるような登場人物がいかにも男性の作った作品と思わせる。
「男って言うのは悲しい生き物なんだよ」と言われているような気がしてくる。それに反比例して女性が、いかに現実的で夢のない生き物のように描かれている気持ちにさせられる。その女性に未練を断ち切れないのが男なんだよ。と言いた気な雰囲気が漂っている。
また、主人公の良太の姉に小林聡美、その夫が良太の別れた妻が来るとなると喜ぶ。妻がいても、超美人の義妹が来ると言われると妻の前でも目を輝かせて会いたがる。
男特融のバカさ加減がうまく描かれている。
良太が淡々と「そんなに会いたいっすか、うちの元嫁」という一言に笑えた。
結局は台風の中300円の宝くじ券を家族3人で探すところに冷めて離婚した夫婦であっても、どこか似たもの同志を感じさせ、ほのぼのとした未来を予感させる終わり方だった。
これぞまさしく是枝映画
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小説家で探偵で、ろくでもない金欠の阿部は離婚を経験した。
で、養育費と引き換えに月1で息子に会ってた。
息子を自分の実家に連れてったそんなある日、元嫁の真木が迎えに来たが、
台風で帰れず、一晩を元家族で過ごす。結局何のオチもなくそのまま終了。
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こういう特に何ということのない日常を切り出す是枝映画。
昔はこれがとてもつまらなく感じ、大嫌いだった。
でも最近は人情の機微に関心を持つようになって来たからか、
引きこまれるってほどではないけど、何か心地よさも感じる。
劇場の銀幕でもっと集中して見たらすごく感動できたのかも。
ダメ男…
探偵事務所で働く男が主人公。 そうそう金になる依頼は無いので、自分で情報を集めて、ある男子高校生が 女教師と交際している事実を掴めば「学校と親にバラされたくなければ 金を払え!」と脅迫する。 少年は金を払った後「俺はアンタみたいな大人にはならないよ」と言うと 主人公の男は負け惜しみに「自分のなりたい大人になれると思うなよ」 と言う。 子供を脅迫して得た金で生活する大人などには99.99%の者は ならないのだから、どう考えても少年側が正しい。 そんな、何もかも「ダメ男」だが、女は「ダメな男ほど好きになって しまう」というのが、理解できない。 それが演じるのが阿部寛という、背が高くイケメンでなく、名を知られて いない顔が三枚目なら背も低い男優だったら、同様に女の観客は 好きになるか? 更に酷いのは、主人公が昔に小説で賞を得た時があるが、その後に 小説家として伸びず、ある時に出版社から久々に仕事の依頼が 入った場面。 それは小説ではなくマンガ原作の仕事であった。 編集者は「名前は別のペンネームを使いますので、アナタの小説家 としての名前に、傷は付きません」。 何だそれ? マンガ原作を書く作家に対して、不当に差別した表現。 小説家はレベルが上で、マンガ原作者はレベルが下と、誰が 決めた!? 更に是枝裕和が、前年のマンガを原作にした「海街diary」で賞を 取った翌年の作品がコレだ。 何だ? マンガに対しての恩を仇で返すやりかたは! 「海街diary」で賞を取った後に、この作品の場面を編集し直す とか、考えなかったのか? 「そして父になる」の福山雅治の役は「金」は稼げるけどダメな男で あったが、この作品は「『金』も『地位』も『名誉』も無い、何もかも ダメ男」である。 詳しくはネタバレになるので書かないが「そして父になる」が あまりに酷い尻切れトンボなラストだったので、この「全部ダメ男」の ラストは、風で飛ばされた宝くじを拾い集めるという場面でしか、 この作品の落としどころが無かったのであろう…
亡くなった父親の姿に重なる息子の生き方を描いた作品
阿部寛演じる良多が、作家で一度だけ賞を 受けたものの、小説を書くだけでは生活していけず、探偵事務所で働いてる大器晩成? な大人の人生が取り巻くストーリーでした。 団地に住む日常的な生活に親近感がありました。樹木希林さん演じる母親にいつまでも 息子を愛する心の豊かさを感じました。 良多がダメ親に見えても、息子の 慎吾の健やかな成長を願う気持ちと 別れた元妻の響子に未練があるように見えました。 月に一度、息子の慎吾に会うのを楽しみにしてモスバーガーを食べている場面、 養育費が滞る現実的な場面 探偵事務所で働いて不正に男子高校生から お金をもらったときに あんたみたいな大人にはなりたくない! そんな言葉を言われたらショックだと思いました。 子どもの頃に描いた夢を叶えることは 出来なかったけど、現実離れした世界ではない日常的な生活感がありました。 台風の日に団地で良多と元妻の響子、 息子の慎吾と過ごした夜は忘れられない 思い出の1日となった事と思いました。 質屋で売りに来た亡き父親と、父親が亡くなった後に来た良多は、生前、自分を思ってくれていたことに気が付く良きエピソードでした。 宝くじで夢を買うと良多は言っていたけど 団地のベランダに濡れた宝くじが干してある 場面が、夢を追い続ける自分が 今も此処にいると語るようなシーンでした。
樹木希林の息子が阿部寛なのは遺伝子に無理がある
樹木希林の息子がどうしてああなった。父親似か。 是枝監督は、どうしようもないダメ男だがなんとなく見捨てられない男を描くのが上手い。 邦画らしい地味な仕上がりだが退屈はしない。何故か南半球でも上映されていた。 失って、どうしても取り戻せない者はあるし、愛情だけでは乗り越えられないものもある。 とりあえず養育費はきちんと払え。イギリスなら養育費の不払いは収監されるぞ。
あと一歩だけ、もう一歩だけ前に。。思う作品
内容は、是枝監督の原作・脚本・監督作品。冴えない昔の栄光に縋り大人にならない阿部寛が離婚後の子供と元妻との生活に執着する。それらを取り巻く周囲を含める様々な人間が緻密に配置され右往左往する物語。印象的な言葉は、『いや俺はリョウタ(阿部寛)さんに救われましたから、恩がありますから・・・覚えてなけりゃいいんです!』との探偵事務所の同僚池松との会話。自分がリョウタに恩があるとの事で劇中では明かされていないが、阿部寛の人間性が分かる場面。自分は他人からの愛情を受けているのにも気付かずに相手には与えている深い愛情の単純な繋がりを感じた一場面です。ハナレグミの深呼吸にもその後の話か未来の話かを暗示させるようなプロモーションビデオを見て余計に世界観を妄想させました。印象的な状態は、無駄のない場面展開と風や天候が絶妙に演出されているのに驚きました。心象風景のスケッチを表現している様で美しい。印象的な場面は、🐙滑り台の中で元夫婦が大雨の中語り合う場面。別れの予感から着想したと言う事ですが愛別離苦の表現が余韻を残し、賛否両論あるとは思いますが面白い作品だと感じました。樹木希林(母)と阿部寛(弟)と小林聡美(姉)は本当の家族かと思える程の距離感と親近感は素晴らしく見応えのある自然な生活風景の映像でした。先日是枝監督の最新作『怪物』を観てパンフレットの中で脚本家坂本裕二さんが好きな是枝作品と言われていたので鑑賞しました。人間模様を描き出す間と会話のやり取りには笑えるエッセンスと名言が散りばめられ最後にはカタルシスの解放へと細やかな希望が観ていて爽やかな気持ちになる元気の出る作品です。ハナレグミの深呼吸の歌詞にも出ている通り、自分が自分を信じられない時も自分を信じてくれた人がいて、一歩だけ、後一歩だけ、もう一歩だけ前にっ・・・♪ 曲終わり部分に心が震えました。
未練タラタラ
タイトルは劇中歌のテレサテンの「別れの予感」の歌詞からとったそうだが、「海より深い・・」と言えば古今東西、母の子への愛として使われる常套句だが家族愛全体を言っているのでしょう。
これまでにもライフワークのように様々な家族の形を映画化してきた是枝監督、今回は離婚してしまった元家族を追っています。離婚大国のアメリカ映画によくありそうなプロット、海外の映画祭の常連でもありますので狙ったのでしょう。
ところが、観ての感想は役者さんの魅力以外は凡庸につきますね。
主人公はギャンブル好きで年金暮らしの母親の金までくすねる非道ぶり、どうしようもない残念な中年男、妻にも愛想を尽かされたものの未練たらしく、うじうじと付きまとう様を延々描くので観ていて辛い。
作家志望だから生活力に欠けているのは仕方ないと思うが、是枝さんのキャラ設定には疑問。
いい年をして倫理観に欠け、自己中心的な性格付けはどうかと思う。多少、リアリティを犠牲にしても爽やかさを感じる阿部さんを描いて欲しかった。
それでも主演が阿部寛さんだから悪い人には思えず救われています、そしてこれまた、母親役が一癖ある樹木希林さん、このご両人の掛け合いがこれまた素晴らしいのでなんとか観ていられました。
最後にかかる主題歌、是枝監督ご指名のハナレグミこと永積 崇の「深呼吸」、この映画の為の書き下ろしだそうだが日本語のイントネーションとは異なる抑揚の個性的な歌い方に違和感がきつく、醒めてしまいました。もちろん、感性は人それぞれですから良い悪いは言えませんがね・・。まあ、是枝作品は才能は別として感性的に私にはピンとこないと言うのが実感でした。
是枝監督の表現がとても良いです
かつての是枝作品は、本当に日常の中の、全ての人がどこかで思ったことがあるようなことをテーマにして、観た人が、それぞれの思いに浸れる、そんな映画だ。この映画は特にそれを感じた。 大きな事件もなく、特別な人もいない。 でも彼らの発する言葉が時々心にささるのだ。 大人になりきれなかった、一発屋の小説家は、もしかしたら奥さんのことを海よりも深く愛したのかもしれない。母親の言葉、何かを捨てないと幸せになれない(だいたいそんな感じ)みたいな言葉を聞きながら何を思ったか。 でも、子供と嵐の中公園の遊具で語り合う姿は、幸せの一つの形だなと思う。 良い映画だった。
じわりじわりと静かに進むけど、無駄なエピソードが無くとてもスマート...
じわりじわりと静かに進むけど、無駄なエピソードが無くとてもスマートにまとまってる印象。ハナレグミの歌も作品にぴったりハマっています。とにかくキャストが素晴らしく、役者さん達の演技や、思わず唸ってしまう深い名ゼリフ(名言)の数々を存分に楽しめます。私もなりたい大人になれなかったな、でも、それでも生きていくんだよな。自分の人生だもんな。…そんな風に、自分の人生を愛するように愛したくなる映画、という表現が一番近いかもしれません。個人的には、最後、父親の遺品の硯で背筋を伸ばして墨をする主人公の姿がこの映画の一番良いところ。「あ、硯手放さなかったんだな…何とかなりそうだな、この男」という予感とともに、台風が去った後のさっぱりした清々しい雰囲気をちゃんと主人公とリンクさせて物語が終わるので、作中ではダメ男で散々グズグズするわりに、鑑賞後は嫌な気持ちになりません笑。年を重ねた大人にとって、離婚、子どものこと、仕事、お金、年老いていく親のこと、それぞれ所帯をもつ姉弟のことなど、暮らしぶりは登場人物たちと少し違ったとしても、身につまされる事は多いかなと思います。ガラクタみたいな日常の中に、普遍性、真理、温もりが散りばめられたような珠玉の作品でした。配役が最高だったなぁ。全員バッチリハマってた、全員光ってました。
海よりもまだ深く
これというほどに激しいものがあるわけでは無い。
これほどまでに感動があるといわれると無いのかもしれない。
けれども、これほどまでにどこにでもある風景の映画は、そう無いのかもしれないと感じた。
主人公の未練残した男を演じる阿部寛さんが絶妙にいいバランスだったな。
売れない小説家で自分の人生もままならいい生活だけども、自分の周りの人に対しては、優しい男。
それがとても味があった。
そして、樹木希林さんの絶妙なまでのどこにでもいそうなおばあちゃんがまた好きだな。
「幸せって何かを捨てて得るものだと思う。海よりもまだ深く誰かを愛した事ないな」
一見難しくてよく分からんって感じだけど、物語が進むにつれてそういう事か、深いなって思いました。
海よりも深い二人の女性の想い
その一人は、もちろん良多(阿部寛)の母の淑子(樹木希林)でしょう。 大の大人になったとはいえ、自分がお腹を痛めて産んだ我が子といえば、我が子。その生活の安定と幸せとを願わない母親は、いないと思います。 良多と響子との復縁について、何とか説得・仲介を試みようとして、それが叶わないと知るや、「はい。この話は、これでおしまい。」それが、彼女の深い想いから出た一言であったことに、疑いはないと思います。 もう一人は、響子(真木よう子)ではないでしょうか。いくら子供を鎹としてとはいえ、別れた旦那の実家に泊まることは、まずないだろうと、評論子も思います。 しかし、案外、響子も良多への未練を捨てきれずにいたのではないでしょうか。 淑子に問われて「良多さんは家庭向きの人ではないから」と絞り出すように応えた響子の心中は、とても深いものがあったと思います。 「良多さんに他に不平・不満はない。否、むしろ素敵なところはたくさんある。ただ、もっと家庭向きの人でさえいてくれたなら…」。それが響子の本心であったことに、疑いはありません。良多に向かって投げつけた「もう決めたんだから、前に進ませてよ」という彼女のセリフは、その深い深い想いを含んで、余りがあったと、評論子は思います。 「家族」を描くことに秀でた是枝監督らしい一本だったと思う上に、響子という一人の女性の心情を描いたという点で、一編の女性映画としても、決して評価の低くない一本だったと思います。評論子は。
絶妙なキャラクター設定と、絶妙な演技と、微妙な展開
リョウタのキャラクターは、極端なダメ人間として描かれているが、
一方で、現在より未熟であった頃の自分まで含めると同性として共感できる部分が多く、物語に没入できる大きな要因となっていたと思う。
若くして才能を表彰されたことにより社会に適合するタイミングを失い、妻子と別れた経験を持つ私にとっては特に共感ポイントが多かった。
また、女性の「上書き保存に対する見解」がクリアに描かれているのにも好感を持った。
真木よう子演じる元妻はリョウタに対して苛立ちを募らせるも、文学的なポテンシャルにだけは変わらぬリスペクトを置いている点、一度魅力を感じた部分が全て覆ったわけではなく、子どもを育てる上でこうなってほしいという願望とリョウタの人物像があまりに乖離しているから別れを決断をしたのだという心情が、説明的でなくかつハッキリと描かれていて、女性の「上書き保存」の解釈としては納得感が高かった。
一方、特に何に気づいたわけでも成長したわけでもないリョウタが夜中の公園でふわっといい感じの雰囲気を味わい、ラストギリギリで父親の想いに軽く触れ、少しだけ表情が変わるという結末は、そこまでのストーリーに没頭できていた自分にとってもちょっと物足りなかったし、リョウタに共感しづらい人にとっては、全く納得できない展開だったのではないかと思う。
別れた男女のみでなく、母親や姉まで含めて、人物設定と役者の演技が絶妙で、それだけで作品として楽しめたが、是枝作品を初めてあるいは2〜3作目として鑑賞するにはあまりお勧めできない。
神がかる演技
是枝監督の真骨頂を感じた映画でした 日本的な貧しさと人間模様。 今を愛することを説いて貧しいながらも人生を楽しんでいる樹木希林と、受け入れることがてきず沼にハマっていく阿部寛。 ラストの公園のシーンや、「前に進ませてよ」と元妻に言われるシーンはグッと来ましたね。 それにしても演技が神がかっていました。 冒頭の樹木希林と小林聡美の掛け合いは圧巻です。演技の域を越えて、憑依しているというか、本物の会話を切り取ったようでした。 万引き家族へ続いていく作品の高まりを感じました。
海よりも深いものは・・・
樹木希林がとにかくいい! 以前、是枝監督に「演技しない演技が一番難しいのよ」と 言っていたそうだが、ホントに演技してないみたい。 亡くなった旦那のことを悪くいいながら、 ちゃんと奥さんだった。亡くなった今も。 夫婦ってのはね、好きとか嫌いとかそんなんじゃないのよ。と、 なんか、ダメ息子と元嫁に諭すように普通に話してるのが 印象的だった。 台風の夜、真木よう子と会話し、二人が元に戻ることはないんだと 悟って、涙をためるシーン。最高にグッときた。 海よりも深いものは・・・。 姿はないし、会話もないが、亡き父と良多の関係もいい。 似たくなかった父と、どうしようもなく似てしまった今の自分と。 その“似てしまった部分”が、どうやら息子にも遺伝してしまっているらしい。 「いなくなってしまってからじゃおそいのよ」 海よりも深いものは・・・。 ラストのハナレグミの主題歌がとても良かった。 「夢見た未来ってどんなだっけな さよなら 昨日のぼくよ」 樹木希林(おばあちゃん)が言う。 「なにかを手に入れるためには、なにかを諦めなくちゃいけないんだよ」 「あと一歩だけ前に」 がんばってみようと思った。
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