ヴィクトリア(2015)

劇場公開日:

ヴィクトリア(2015)

解説

ベルリンの街で出会ったスペイン人女性と4人の青年に降りかかる悪夢のような一夜を、全編140分ワンカットで描いた新感覚クライムサスペンス。わずか12ページの脚本をもとに俳優たちが即興でセリフを発し、撮影中に発生したハプニングもカメラに収めながら、ベルリンの街を疾走する登場人物たちの姿をリアルタイムで追う。3カ月前に母国スペインからドイツにやって来たビクトリアは、クラブで踊り疲れて帰宅する途中、地元の若者4人組に声をかけられる。まだドイツ語が喋れず寂しい思いをしていた彼女は4人と楽しい時間を過ごすが、実は彼らは裏社会の人物への借りを返すため、ある仕事を命じられていた。監督は「ギガンティック」のゼバスティアン・シッパー。2015年ベルリン国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞、ドイツ映画祭でも作品賞をはじめ6冠に輝いた。15年・第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映。

2015年製作/140分/PG12/ドイツ
原題または英題:Victoria
配給:ブロードメディア・スタジオ
劇場公開日:2016年5月7日

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映画レビュー

4.0140分間の感情のダイナミズムを生々しく描写

2016年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

はじめ、作り手たちがキャストに手渡したのは、たった12ページの台本だったという。そこには大まかな筋書きと動線は書かれているものの、具体的なセリフはほとんどなし。あとは140分間ノンストップの一発撮り。つまり、ほとんど即興に近い形でセリフが発せられ、克明に映しとられる俳優たちの表情、互いに惹かれ合う想い、そこからの急転直下、おびただしい汗や緊張を放出させながらの逃避行に至るまで、まさに全身全霊の演技が活写されていったことになる。

とはいえ、長回しは目的ではなく手段に過ぎない。それを活用し、140分間、超スピードで流動していく感情のダイナミズムを最もリアルかつ生々しいものとして抽出し得たからこそ、世界はこの作品に沸いたのだ。この途方もない実験精神、役者陣の反射神経、スタッフワークの連携。一つでもピースが欠ければすぐに瓦解し、野心だけがやみくもに大きい駄作に成り下がっていたことは明白。成立したのが奇跡、そう表現できる数少ない作品である。

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牛津厚信

4.0長回しだから、ってことじゃない

2020年7月11日
PCから投稿

カットがない。見た限り暗転もない。140分ほぼ一発撮りの長回し。

映画で長回しといえばカット間が長いことを言う。タルコフスキーやアンゲロプロス。たいてい固定か、ゆっくり移動するレールカメラで、台詞も少ない、または無い。
ところがこの映画のばあい、そもそもカットがなく、カメラは手持ち。人物は喋りっぱなし。

一発撮りといえば、三谷幸喜の大空港2013がそうだったが、カットがなくても、カメラが捉えている人物が変わる。
ところがこの映画のばあい、カメラはずっと主役のヴィクトリア、ゾンヌ、ボクサー、ブリンカーを捉えっぱなし。かれらはフレームを外れて息つくことができない。

しかし、この映画が優れているのは、その手法によるのではない。どのみち、見ている最中にはそこに意識は及ばない。見終わって、そういやすげえ長回しだったなと気付く。

実時間と同じ進行だから、ヴィクトリアの置かれている状況を説明できない。説明的な描写もない。にもかかわらず、状況がわかる。

故国スペインを離れてベルリンにいるヴィクトリア。
ピアニストになる夢に破れ、自分のいる世界が嫌になり、傷心をかかえて逃げてきた。とはいえ、異国でひとりぼっち、数ヶ月が経ち、友達がほしい、人が恋しくてならない。

それらのことが、バーテンに話しかけようとする、初対面の男たちについていく、ゾンヌに思い入れる、酒を泥棒して屋上で絶叫する、ピアノを弾いて泣く、わけも判らぬまま犯罪の片棒をかつぐ、強盗がうまくいって束の間の高揚に沸く、などの行動と言動から、わかる。
ヴィクトリアの内面が、自棄と悲しみでいっぱいなのが、わかる。

警官隊にブリンカーとボクサーが撃たれ、ゾンヌもホテルのベットで息絶える。ヴィクトリアは号泣するが、ひとしきり泣いて、我に返ってみると、ほんの数時間前に会った男の死体と、5万ユーロ。お金を手にして、すっかり明けた街を歩き去る。

行き掛けの駄賃とも言えるがクライム映画ではない。そもそも強盗したお金を得とみるのは不合理だ。といって不合理系のピカレスクでもない。色恋もなく、なにも成就せず、解決もしないが、ヴィクトリアの悲しみに寄り添い、濃密な時間を過ごした。マイクリーのNakedに印象が似ている。

赤子を連れ出すシークエンスだけは嫌だったなあ。

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津次郎

5.0人生をみ失ったとき何をする?

2019年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

個人的にだがこの映画の圧巻はビクトリア(俳優ライアコスタ)の生き方だ。これに、絞って書く。
彼女はスペインから最近ベルリンに来てカフェで働いている。友達もいなく一人で踊りに行って、通りで声をかけられた四人のグループと行動を共にする。
四人の中の一人ボクサー(フランツ ロゴスキー)は借りを返さなければならなく、銀行泥棒を押し付けられる。
ビクトリアはその片棒をかつぐわけだが、彼女は積極的に『できる』と答えている。ゾンネ(フレデリック ラウ)が『大丈夫か』と聞くけど何度も『できる』と力強く言っている。ビクトリアと四人のグループは拙い英語で基本的な会話をしているが、ビクトリアの『I can do it !』はパワーがある。
ビクトリアは長年のピアノ訓練で培われた根性がある。クラシック音楽の世界で才能がなければ蹴落とされる。それも音楽院(コンサベトリー)まで行って、コンサートピアニストとして認められるかどうかまでビアノだけに邁進したが才能がない/無理だと言われれば、今までの自分の人生はなんだったのかと感じると思う。毎日7−8時間もピアノだけを練習していた人生だったとゾンネに話した。

この一人での努力、一本道、何も他の世界を知らないビクトリア。この反動からの行動(はけ口探しでもいい)が四人組との行動で銀行強盗したが、私に取っては、彼女はこれからの人生を探検していたように思える。何も知らないけど、自分を試すため冒険をしているように思えた。

ビクトリアにとって、金は大事じゃなく、ピアノの才能がないと言われ、新しい人生をスタートさせるための糸口を見つけているとおもう。コンサベトリーの世界では皆が敵だったと。コンサートピアニストの地位を確立するため皆がお互いに争っていたと。でも、この銀行強盗というタスクは仲間意識の強いものだ。この経験を彼女はしたことがないから、彼女に取って魅力的だったと思う。ホテルで好きになったゾンネが死んで、大泣きをした後、目を見開いて立ち上がる強さ。この人は将来なんでもできると私は思った。
最後のシーンからはビクトリアがどう決断するかわからないが、彼女が街を堂々と歩いていくシーンは盗んだお金は大事じゃないと思っていることがよくわかった。
犯罪の片棒を担いだからって、人生は終わりじゃなくて、新しいヴィクトリアの人生がスタートするのだ。

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Socialjustice

3.0バカなことをまじめにやる姿勢は評価したいが

2019年5月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

長回し教信者としては、狂喜乱舞すべきなのかもしれないが、序盤のだらだら進行が苦痛でここまで長くする必要があったと思えなかった。
カフェのシーンあたりからは惹きつけられただけに色々もったいないと感じた。

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なお