劇場公開日 2017年3月18日

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3月のライオン 前編 : インタビュー

2017年3月16日更新
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神木隆之介&有村架純、憎しみではなく信頼を 「3月のライオン」で確かめた絆

神木隆之介有村架純の間に、言葉は要らない。「3月のライオン 前編」「3月のライオン 後編」では、嵐のような思いが荒れ狂う義理の姉弟に扮したが、有村が「特別、話し合って撮影していないんです。感覚です」とほほ笑めば、神木も「なぜかというと信頼しているからです」と言い切る。同じものを共有し、感情に火を点け生み出したシーンの数々は、見る者の胸をざわめかせる確かな“魔力”があった。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

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大友啓史監督が「豊かな物語」と脱帽する原作漫画は、老若男女問わず根強い人気を博している。大友監督に“フィクションの申し子”と称され、これまで「桐島、部活やめるってよ」「るろうに剣心 京都大火編」「るろうに剣心 伝説の最期編」「バクマン。」などに出演してきた神木といえども、改めて原作ものの難しさを痛感した。

もとより原作の大ファンだっただけに、不幸は知っているが幸福は知らない高校生のプロ棋士・桐山零の成長譚に挑むにあたり「とても魅力的ですが、とてつもなく難しいと感じました」と振り返る。「原作も将棋だけではなく、とても人間味があるヒューマンドラマです。表現される感情の繊細さや温かさを、自分が演じるとなると、やはりどうしようと思いました。また、ただの実写化にはしたくなかったですし、原作を最初に読んだときの感覚も、そのまま表現しなければいけない。難しかったです」

有村も同意見だ。「こんなにもやりがいのある役を頂けて、すごく嬉しかったですが、ファンの方にどう見てもらえるかがやっぱり不安で……」と吐露する。すかさず神木が「僕もそうですよ」と語りかけたが、有村は「零は絶対大丈夫なんですけど、私の香子は映画を見てもらえるまで、不安の期間は続きます」と首を振る。キャスト発表時にはSNS上を中心に「神がかった配役」と絶賛評が多くあがったが、それでも不安は拭いきれなかった。

2人の役づくりは困難なものだったという。最大の理由は、原作の特色である豊かで複雑な人物描写だ。原作者・羽海野チカ氏は、コミックス11巻のあとがきで「子供の日々から大人になる間に『境目』というものはありませんでした。何千何万という出来事を受け止めて、少しずつグラデーションがついていくだけなんだなぁ…と思っています」と述べている。そんな思いで創出された人物たちは、どれも「こいつは、こうだ」と決め付けられない多面的・重層的な造形をしており、そのことが物語に魅力的な奥行きを持たせる。

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神木「なので、とても悩んだんです。零の第一印象は物静かな男の子。ですが実際はそうではない。役づくりでは『大人しい人物』と一括りにしなかったんです。誰よりも負けん気が強く、年相応のやんちゃさもあります。そして職人気質で、小さいころから強く生きなければならなかった。監督とは『実は零っていろんな表情ができるよね』『マットな感じが良い』と話していて、僕が零として感じたことを肉付けし、マットな質感から徐々に艶やかになり、最後は希望を持っていければいいなと撮影しました。序盤、中盤、終盤ではまったく違う顔つきになるよう、演じました」

今作で神木と有村は、およそ良好とは言いがたい、憎しみで繋ぎとめられた義理の姉弟を演じている。家族を交通事故で亡くした幼い零(神木)は、父の友人でプロ棋士の幸田柾近(豊川悦司)に引き取られる。幸田家には4歳年上の香子(有村)と同い年の歩がおり、プロ棋士を目指し柾近の指導を受けることが、すなわち愛の享受だった。しかし零が恐るべき練習量でメキメキと頭角を現すと、香子と歩は柾近から「零に勝てないなら奨励会をやめろ」と告げられる。プロ将棋界は悪鬼羅刹が巣食うとさえ言われる過酷な世界。子を苦しめないための親心のはずが、香子は「父の愛情を奪われた」と思い込み、憎悪の対象となった零は幸田家から離れていく。

だが、香子が零を遠ざけるかというと、そうではない。時にマンションに押しかけ宿泊し、時に目を剥きながら「得意だもんね、不幸ぶって人ん家に踏み込んで、家族をめちゃくちゃに壊すのが」などと悪口雑言の限りを尽くし、零の内面を波立たせる。有村のダークサイドを見てしまったような錯覚に陥るほど、迫真かつインパクト大のシーンがスクリーンで踊る。

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「姉弟にも、他人にもなりきれない」関係を続ける香子の心情を、有村はこう解釈する。「香子はどうして、憎い零に歩み寄るんだろう。役づくりではそれを考えていました。香子は周囲に『助けて』と言えば、いくらでも助けてもらえるはずなんです。なのに自分から離れる選択をして、そのくせ1人になることがすごく怖い。だから零にちょっかいを出して、私はここに居るとアピールしているんです」

神木と有村の本格的な共演は、宮藤官九郎脚本のホームドラマ「11人もいる!」(2011)以来。「SPEC」シリーズでもクレジットに名を連ねているが、神木いわく「打ち上げですこし話したことくらいしか、接点はなかった」そうで、したがって今作ほど辛らつな間柄に扮するのは初めてということになる。

神木「『11人もいる!』は楽しい関係でした。なので、今作のような真剣さは初めてです」

有村「今回、最初は照れくさい感じがしたよね。『変なの』って思わなかった?」

神木「僕は、嬉しかったよ」

有村「私もまたお芝居が出来て嬉しかったけどさ。なんか、仲が良いぶん、ね」

声を弾ませながら、関係が近いからこそ感じる恥ずかしさを明かした有村。歪んだ愛情が暴発する激しいシーンの数々では、細かな確認は必要だったのだろうか。ここで、冒頭の言葉に立ち戻る。神木は「『こんな感じがいいよね』というくらいで、感覚で演じました。信頼しているから、安心して、気を使わない。だからできたんです」と話す。言うは易いが、感覚の共有は特別なものにほかならない。2人の絆と信頼が、対峙する場面にエモーショナルな凄みを与えている。

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また、互いの芝居に抱いた思いは?

神木「有村さんは素敵な人だなと。ほんわかしたイメージだったので意外でした、あの攻撃性の演技は。本当にいろいろな引き出しをもっている方なんだと、改めて思いました」

有村「嘘くさいよ(笑)! 神木くんは5年前に共演したときと、全然変わっていないです。本番の声がかかっても『はい、やります!』という感じが全くしないんです。スーッと入って、スーッといなくなる。すごくナチュラルだと改めて感じましたね」

2016年は、2人にとって大きな意味を持つ1年になった。神木が声の出演をした「君の名は。」がメガヒットを記録し、有村はNHK紅白歌合戦の司会を務めるなど、ともに獅子奮迅の活躍ぶりだった。17年も映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」やNHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」など、出演作が目白押し。これから2人が、どんな色を見せてくれるか楽しみだ。

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