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ロマン・ポランスキー監督が1971年5月の第200回F1モナコGPで優勝したジャッキー・スチュワートに3日間の密着取材を行ったドキュメント、翌年ににベルリン映画祭でドキュメンタリー映画部門最優秀賞を受賞しました。しかし、映画は商業的には公開が難しいと判断されお蔵入り、ロンドンの映画研究所の保管倉庫で破棄寸前のところ2009年に見いだされポランスキーとスチュアートの40年後のモナコでの再会、インタビューシーンを加えて本作が再編集されました。
71年と言えばポランスキー監督は2年前に妻のシャロン・テートをカルト教団に惨殺された上、マスコミの中傷にもあって憔悴のあまりヨーロッパに移っていたころだから好きなモータースポーツに関わることで気を紛らわしたかったのかも知れませんね。
よほど親しかったのかこれほどフランクで雄弁に語るF1ドライバー夫妻の姿は珍しいでしょう。しかも連覇がかかるレースの直前、天候も不順など精神的にもナーバスになるでしょうからね。
今でこそ車載カメラは珍しくもありませんが当時F1カーが走るところを撮ったのは貴重ですね。
ジャッキー・スチュワートさんの車は当時人気のフォード・コスワースDFVエンジンを積んだティレル001、後に6輪車のP34でも有名になったコンストラクターです。セナやホンダが一世を風靡する前の時代ですね。
確かにモータファンにはお宝のドキュメントなのですが特筆すべきは二人の関係性を表す心のひだの語りのほうかも知れません。
スチュワートさんは自身の事故の経験からもレースの安全性向上に積極的に取り組み貢献した名チャンピオンです、40年後のポランスキーとの対談でその辺を問われたスチュワートさんは、「確かに多くの仲間、友人を失ったが数々の改良で今のF1ではめったに死ぬことは無くなった、あの頃はエイズも無かったからSEXでは人は死ななかったがね」と下ネタを交えて軽妙に応えています。
まるで、今じゃお前の方が危ないぞと後の監督のセクハラ騒動を皮肉っていたのかも知れませんね。以前、ひげそりで顔を切ったときにも「監督が血が好きだと思ったから流血サービスだ」と言っていましたから陽気なジョーク好きですね。
また、スチュワートさんは当時は失読症で本も読めず恥ずかしいから妻にも言えなかったとカミングアウト、ポランスキー監督にも、そろそろ自分に正直になってもいい年と諌めているようでもあり、素晴らしい友人を得たものだと羨ましく思えました。