文化庁映画週間の受賞記念上映会にて鑑賞。
認知症の母親の姿を、テレビのドキュメンタリー出身の監督(坂口香津美)が撮った作品。
2009年頃のこと、坂口監督の母親すちえさんは、2年前に長女を喪ってから認知症の症状がひどくなった。
アルツハイマー型認知症であるが、短期記憶障害よりも、不安で不安で堪らなくなり、情緒不安定になる症状がひどく出る。
不安になると、長男である坂口監督にのべつ幕なしに電話を掛けてきて、不安を訴える。
その状況に耐えかねた坂口監督は、いつしか母親に手を挙げそうになるが、その気持ちを抑えてカメラを手に取り、母親の姿を撮ることにした・・・といった内容。
映画では、母親に手を挙げそうになった云々の経緯は描かれておらず、情況を説明するナレーションも付け加えられていない。
綴られる映像から、すちえさんの不安な情況と、傍にいる坂口監督の不安さが伝わってくる。
ただし、そんな不安ばかりが写し出された映画ではない。
すちえさんの病状を見かねた彼女の妹・マリ子さんが、故郷の鹿児島県種子島にすちえさんを連れてくることを決意して実行に移す。
種子島には、マリ子さんのほかにも弟もいるし、村には多くの幼馴染もいる。
みんなが言う。
「食べて食べて、みんなと交わって、笑っていれば、元気になる」
都会の集合住宅で独り暮らしていたすちえさんには、はじめはそれも重荷で億劫であったが、いつしか笑顔も戻ってくる。
たしかに、デイケアなどで集団生活をする際は、疲れたり気分が滅入ったりすることもあり、そんな様子も写し出されるのであるが、以前と比べて格段に血色もよく笑顔も増えている。
この変化には元気づけられた。
残された人生は長くはないけれど、その時間は幸せに過ごしたいものだ。