0.5ミリ : インタビュー
安藤桃子監督×安藤サクラ、姉妹だから歩み寄れた「0.5ミリ」
俳優・奥田瑛二とエッセイスト・安藤和津を両親にもつ安藤桃子監督と、実妹で女優の安藤サクラが初タッグを組んだ。安藤監督が「姉妹で映画を作るのは最強」と語るように、なにより本作「0.5ミリ」では、これまでにないサクラの魅力が爆発している。そんな“最強姉妹”でしか起こせなかった絶妙な化学反応の秘密に迫った。(取材・文・写真/山崎佐保子)
鮮烈なデビュー作「カケラ」に続く長編第2作は、安藤監督自身の介護経験に着想を得て書き下ろした小説の映画化。人生の崖っぷちに立たされた介護ヘルパーの山岸サワ(サクラ)が、ワケありの老人を見つけては身の回りの世話を買って出て、“おしかけヘルパー”として生きていく姿を描く。
196分という3時間超えの長尺を敬遠する人も多いという。安藤監督は、「この映画で伝えたいことも、この尺で伝えたいことも、知らず知らずに植え付けられた固定概念を取っ払いたいということなのかも。そういう“枠組み”への反発は深層心理であるかもしれない」と反骨精神をチラリ。長尺を感じさせないテンポ良いストーリー展開に、演じたサクラ自身も「湯布院映画祭の上映で、ちょこっと様子を見て出ようかなと思って客席の後ろに立って、気づいたら最後まで見てしまっていた。観客として、ただただ『0.5ミリ』に見入ってしまったんです」と引き込まれていた。
さまざまな社会問題が物語の背景に見え隠れするが、あくまで本作はひとりの女性と彼女が出会う人々の心の旅路を描いたロードムービー。安藤監督は、「戦争、介護、いじめ、就職難。毎日のようにニュースで報じられるけれど、そうやって簡単に社会を一般化して済ませてしまう風潮があるように思う。でも本当は、『戦争怖いね』『介護やだね』と済ませられることじゃない。映画を作る者としては、“戦争”とひと言でくくることではなく、その裏にある世界中の人々の喜怒哀楽やドラマを描きたかった。我が家の家族の介護の形も、“介護”というたったひと言でひとくくりにできないものがあった」と個人を掘り下げることに徹した。
主人公のサワは多くを語らない謎の女性。時には母親のようで、時には女のような顔をする。物語が進むにつれ少しずつサワの境遇や心情も暴かれていくが、基本的にはそこに“存在”することで周囲を変えていくタイプの主人公。そこには、「『ハリー・ポッター』のハリーとか、『男はつらいよ』の寅さんとか、『オズの魔法使い』のドロシーとか。彼らは自分の個人的なドラマを見せすぎないことが共通点。小説の中でもサワはそういう人物で、全部本当だけど全部仮面。そういうキャラクターを作り出したかった」という安藤監督の思いが反映されている。
安藤監督は、映画の“ミューズ”としてサクラの姿を捉え続けた。「『体当たりで挑んだ熱演!』『映画界に爪痕を残す衝撃的な演技!』みたいなことは、サクラは充分やってきたのでもういいかなと(笑)。ずっと原節子さんみたいな映画の“ミューズ”を撮りたかった。原さんが何かすごい爪痕みたいなものを残したかといえばそうでもない。だけど人々の記憶にずっと残る女優さんだと思う。サワというキャラクターには、そんな昭和の女性の美しさを意識しました」。
そんな安藤監督の思いを一身に受け止めたサクラ。「演じる者としてはサワの感情を知りたいけれど、サワは感情をあまり表に出さない人。その役柄を演じているのに、それを出すことのできないフラストレーションはあった。だけど、おじいちゃんたちが持つ色々なベクトルのエネルギーを自然に受けて、その思いのままにサワが動いていけばいいだろうなと思っていました」と自身の中にサワを宿した。介護ヘルパーという職業も、姉妹が実際に体験した祖母の自宅介護の経験が活かされており、サクラの芝居にも大きな説得力をもたらしている。
父・奥田がエグゼクティブプロデューサー、母・安藤がフードスタイリストを務め、さらにはサクラの義父母である柄本明と角替和枝も出演と家族一丸となっての映画作り。そんな中でも、安藤監督は「サクラのことを家族の中で最も信頼していると言っても過言ではない。母も父も信頼しているけれど、昔から私のことを隅々まで受け止めて理解してくれるのはサクラ」だといい、サクラも「姉は“生物”として自分と一番近い人間。両親が一緒で、生まれた時代も近くて、育った環境も同じ。現場でも自分たちの思ってることを素直に伝え合って、他の家族との摩擦もうまくエネルギーに変えられました」と語る。
前作「カケラ」でも、セクシャリティは大きなテーマのひとつだったが、本作にもその感覚は引き継がれている。安藤監督は、「男女も需要なテーマのひとつでした。年齢を重ねて肉体的なものが変わっていっても、男も女も最後まで男であり女。サワがおじいちゃんにモテるのって本当にすごいことで、それは女性の美しさで“人”の美しさだと思うんです」。確かに本作のサクラは他のどの作品もよりもチャーミングで、伸び伸びと軽やかで、美しくスクリーンに焼き付いている。
「映画ってないことをあることのようにして作るものだけど、決してニセモノではない。そうやって本質を抽出していくもの。カメラに映らないことも含め、現場で起きてること全てが大切だった。色々と勇気が必要な映画で、さまざまな面で腹をくくっています」(安藤監督)
「サワは、スーパー介護ヒーロー・サワちゃんであり、ふうてんのサワちゃんであり、ハードボイルド・サワちゃんであり、おとぎの国のサワちゃんでもある。姉に何かを引き出されたというよりは、サワのさまざまな表情を私に居付かせてもらった感じ。そういう色々なサワを演じられたことは、姉妹の関係でしかできないことだったかもしれないです」(サクラ)