カップルズ

劇場公開日:

解説・あらすじ

「牯嶺街少年殺人事件」「ヤンヤン 夏の想い出」などで知られる台湾の名匠エドワード・ヤン監督が1996年に手がけた青春映画。ヤン監督による「新台北3部作」の第2作で、1990年代の台北を舞台に、欲望を追い求める若者たちの悲劇と希望を描く。

多彩な国籍の人々が暮らす台北の街で、共同生活を送る4人の少年たち。実業家の息子であるリーダー格のレッドフィッシュ、プレイボーイのホンコン、ニセ占い師のトゥースペイスト、新入りのルンルンは、お金も自由も愛でさえも、自分たちの思い通りに手に入ると信じていた。そんな4人の前に、フランスからやって来た少女マルトが現れたことにより、深い絆で結ばれていた彼らの関係は大きく変わりはじめる。

後に「8人の女たち」などに出演するビルジニー・ルドワイヤンがマルト、「牯嶺街少年殺人事件」で主演を務めたチャン・チェンがホンコンを演じた。2025年4月、4Kレストア版にてリバイバル公開。

1996年製作/120分/PG12/台湾
原題または英題:麻將 Mahjong
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2025年4月18日

その他の公開日:1996年12月7日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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映画レビュー

4.090年代の沸騰する台湾と、青年たちの狂騒を描く

2025年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

エドワード・ヤンの作品はどれも、キャラ同士が織りなすナチュラルな空気感と、パズルのピースをはめるような緻密な構成が面白い。特に90年代を舞台にした『カップルズ』は、60年代が舞台の『クーリンチェ』の青少年キャストの何人かが再起用されていることもあり、両者を見比べるとタイムスリップしているような感覚が身を貫く。物語としては別物だが、俯瞰した視座で時代を見つめ、若者の青春と焦燥を刻もうとする点は変わらない。加えて、急速に変わりゆく街、人、価値観を活写し、親世代の疲れた表情とそれに対する子世代の目線をも痛烈に浮き彫りにする。この群像劇の一端を担うのは台湾人だけではない。外国人までもが夜光虫のごとく引き寄せられ、経済的成功を掴もうとする。その狂騒と混乱の先にニュートラルな視点を持った新入りのルンルンは何を見るのか。本作は若者たちの試練と成長の物語だ。夜の賑やかな喧騒の中で花咲くラストが忘れがたい。

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牛津厚信

4.0欲望のゲームと麻雀の類似性に注目すると、映画の面白さが増す

2025年4月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

悲しい

知的

原題は「麻雀」だが、エドワード・ヤン監督はもちろん麻雀を題材に映画を作ったわけではない。1996年、活況に沸く台北。外資とともに一獲千金を狙う外国人も流れ込む喧噪の街で、他者を出し抜いてでも金を稼ぎ、成り上がって勝者になることを望む人々を、麻雀のプレイヤーに見立てるシニカルな視点がヤン監督にこの題を選ばせたのではないか。

言葉巧みに人を操ろうとするリーダー格のレッドフィッシュ(サッカーの久保建英選手にちょい似)、若きジゴロのホンコン、インチキ占い師のトゥースペイストに、新入りのルンルンを合わせた4人組。彼らはこの欲望のゲームにおける集合的プレイヤーとして、ある程度成功した他の登場人物らと駆け引きし、時には詐欺の手口で、また時には売春婦候補の女性の斡旋で、荒稼ぎしようともくろむ。美容院オーナーが駐車したベンツに当て逃げしておき、「車で災いが起きる」との予言が当たったと信じ込ませるのは、たとえるなら自分の欲しい牌を事前に山に仕込んでおき、配牌とツモ牌の“でっち上げた奇跡”で上がって高い点数をせしめる「積み込み」のイカサマだろうか。

卓を囲むプレイヤーたちで持ち点をやり取りする麻雀が、誰かが点数を得ると同じ点数を他者が失うゼロサムゲームであることも、ヤン監督の見立てに活かされている。若き4人組の“仕事”は、新たな価値を創り出す生産的な労働ではなく、持てる者からあの手この手で金を奪い取ろうとする不正なたくらみだ。欲望にまかせて他者から金を奪うだけのゼロサムゲームでは、誰かが勝てば必ずほかの誰かが負ける。このゲームで真の勝者になるためには、他者を蹴落として勝ち続けなければならない。勝ち抜くことを最優先するなら、その過程で大切なもの(家族、仲間、あるいは愛)を失うのも必然だろう。

この映画におけるカップルの多くは流動的だが、例外が2組だけある。1組目の男は欲望のゲームに虚しさを覚え、ゲームから降り、永遠の愛と安らぎを得た。ラストのもう1組のカップルも、ゲームから降りて愛を成就させたように見える。しかしシーンが暗転してエンドクレジットが始まっても、祝福するような明るい音楽は流れず、街の喧騒が残るのみ。2人が街にとどまるなら、やがて欲望の闇に取り込まれてしまうのでは。そんな不穏さを残し、映画は終わる。

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高森 郁哉

3.5「牯嶺街少年殺人事件」の少年たちが成長して再結集

2025年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

興奮

知的

驚く

約30年前に作られた映画とは思えないほど、本作で描かれる内容やテーマはより現代の社会性とリンクし、作品の鮮度が増しているのではないかと改めて驚かされます。

エドワード・ヤン監督は、欲望を追い求めることに夢中となった先に望んでいた成功や希望があるのか、喜劇と悲劇を表裏一体にし、社会への静かな怒りと共に挑発的に描きます。さらに、この物語の根底に据えられているのは、人々が心と魂を捨てなければ生きていけない街で、“愛は存在できるのか?”ということ。それは現代の都市社会においても普遍的なテーマではないでしょうか。

ヤン監督の傑作「牯嶺街少年殺人事件」(1991)で、主人公の少年たちを演じていたチャン・チェン、クー・ユールン、ワン・チーザンが成長し、青年ギャング団役で再結集していますので、同作を先に見ておくとより深く本作を味わえると思います。

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和田隆

3.5古きよきものをみて新しき価値観をおもう

2025年5月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

こういう刹那的で退廃的で空虚な世界観がかっこいい時代もたしかにあったなあ、とあの時代と自分の若さをなつかしみながらみた。
これがスタイリッシュでかっこいい時代もあった、でも今みるとたしかに受け入れがたいところもある。時代というよりは、私自身がとしをとってほんの少しおとなになったのかもしれないな、などと感傷的になりました。

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kikisava