冒頭のヒロインの顔のどアップは「四季・ユートピアノ」そのもので「七色村」でも使っていた日本軍が捕獲した連合国側の「爆音識別レコード」も「四季・ユートピアノ」でヒロインの家の物置から蓄音機と一緒に登場していた。要は佐々木昭一郎にとって中尾幸世を起用していた絶頂期の昭和50年代後半の劣化版に過ぎない。中尾幸世でも主演女優が急に降板したらしく代役に起用されて初出演した昭和49年の「夢の島少女」は酷評されたので昭和55年の「四季・ユートピアノ」は今で言うところのリベンジ的な設定が目につくものだ。
ミンヨンと中尾幸世の違いは中尾幸世が「夢の島少女」の前に東京キッドブラザーズで舞台に立った事があるにしても100分枠の「四季・ユートピアノ」のヒロインを演じても存在感があるのにミンヨンは存在感のないただの素人に過ぎない。佐々木昭一郎は自分が起用したはずの木佐貫邦子を「モダンダンス馬鹿」だと酷評した人だが一時期は入れ込んでいたはずの「オルガさん」とはいつの間にか不仲になったらしい。言ってみればミンヨンは1時間枠の「東京・オン・ザ・シティー」でウンザリするほどひどい演技?らしきものをした「オルガさん」と同じような存在だと言っていい。
「七色村」で露出した平成の佐々木作品の「特徴」である時代考証という概念が一切存在しない点や独りよがりな作劇は「ミンヨン 倍音の法則」でも際立っている。「夢の島少女」が酷評されたのが主役2人のバラバラに展開する作劇に由来するらしいので元々持っていた要因なのだろう。佐々木昭一郎の母親は新宮出身で大石誠之助の縁者との事なので山本七平とは遠縁になるが、あの「洪思翊中将の処刑」と観念的な作劇の昭和20年のミンヨンの物語では雲泥の差としか言いようがない。頭の中で考えたような「日韓友好劇」を書く前に植民地時代の朝鮮を書きたかったらもっと調べろ!と言いたくなった。御都合主義でかつ独善的な作劇が好きな人か何が何でも佐々木昭一郎は天才だ!というファンしか向かない映画だ。