劇場公開日 2014年1月31日

  • 予告編を見る

ウルフ・オブ・ウォールストリート : 映画評論・批評

2014年1月28日更新

2014年1月31日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

あの大友勝利を思わせる主人公。この愚者は善悪の彼岸にいる

画像1

ジョーダン・ベルフォートは大友勝利に似ている。

ウルフ・オブ・ウォールストリート」を見ていたら、突然そんな考えが浮かんだ。大友勝利は、「仁義なき戦い 広島死闘篇」で千葉真一が演じた破天荒なテキ屋だ。野蛮で粗暴で、「(わしら)旨いもん食うてよ、マブいスケ抱くために生まれてきとるんじゃないの」とうそぶいて木刀を振りまわす男。これほど放埓な個性は、シリーズ全体でも珍しい。

レオナルド・ディカプリオが扮するジョーダンも、欲望を全開にしてはばからない。銃や木刀は振りまわさないが、だれよりも強欲で、ドラッグとセックスがなによりも好きな男。石頭の道学者が見たら眉をひそめるだろうが、冗談好きが見たらきっと腹を抱えて笑う。馬鹿だなあ、こいつ。でもきっと、これを思い残すことのない人生というのだろうな。

ジョーダンは、1980年代後半から90年代中盤にかけてウォール街で悪名を轟かせた実在の株式ブローカーだ。ボロ株の取引から出発した彼は、やがて標的を富裕層に変えて年間50億円近い手数料を荒稼ぎする。その先はもちろん、クレイジーな酒池肉林。俗物の極致、金銭至上主義と罵られようと、獣欲に駆られたウルフは聞く耳などもたない。しかもこの餓狼は、兜町のノミや北浜のシラミとちがって精力が桁ちがいだ。愚者といえば愚者だが、善悪の彼岸にいる愚者を思わせる。

そんな主人公を映画の中心に得て、マーティン・スコセッシの演出も久方ぶりに冴える。やはり彼には、「グッドフェローズ」や「カジノ」の蛮行が一番よく似合う。いいかえればその持ち味は、不埒で奔放で、シリアスな場面にも道徳や社会性などを持ち込まない思い切りのよさだ。話や登場人物の帯びる高電圧に触れて、スコセッシ自身もかつての爆発力と速度を取り戻したような気がする。

芝山幹郎

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の作品トップへ