ベルリンファイル : 映画評論・批評
2013年7月9日更新
2013年7月13日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ベルリンを舞台に強気の演出で押し切った韓国製スパイ・アクション
面白い!
まずもって、主役のピョ・ジョンソン(ハ・ジョンウ)の渋くタフな面構えがトボケを残しつつ天下一品で、表情を追うだけでもこちらは静かなアクションと緊張を感じ、つい白熱してしまう。表情を追う、と書いたが、思えば、ハ・ジョンウが追われるのは表情だけではない。出演作の多くで彼は警察から、仲間から、暗殺者から徹底的に追われ続ける役柄を演じてきたのである。少なくとも代表作の印象はそうだ。役柄上、常にとんでもない人生を生きさせられてきた。
不快なまでの残虐性で戦慄させた「チェイサー」(08)のサイコで孤独な犯人、「哀しき獣」では生活に追いつめられ妻の後を追って韓国に潜入渡航し、そこで犯した殺人によって追われることになる中国<朝鮮族>の男、ときて、今回の「ベルリン・ファイル」では、ベルリンを舞台に暗躍する北朝鮮の諜報員にして北では国家英雄の一人に扮し、陰謀と裏切りに追われる。<北>のエリートの人間関係にかなり図式的とはいえ、監督のリュ・スンワンは果敢に踏み込んでみせた。感心したのが、ベルリンという外国での撮影にまったく臆することなく、カーチェイス、地下鉄駅構内のアクション等、遠慮なく強気に攻めていることだ。スンワンは「相棒 シティ・オブ・バイオレンス」「生き残るための3つの取引」と腕を上げてきた監督だ。裏切りと駆け引きはお手のものだ。
北朝鮮、韓国のそれぞれの諜報部、加えてCIA、モサド(イスラエルの諜報機関)、ロシアの武器ブローカー、アラブの反米組織……。スパイ合戦の錯綜は表面上半端ないが、さほど混乱することはない。そして、互いに疑心をつのらせつつハ・ジョンウと家庭を営んでいるのが北朝鮮大使館通訳リョン・ジョンヒという役どころのチョン・ジヒョンである。先頃公開された「10人の泥棒たち」のコケティッシュとは正反対の鬱屈した目立たない役柄だ。しかし、逃亡の時、ハイヒールで窓伝いに歩くというアクションがあって、ついにやついてしまった。
もっとも気に入ったのは、北から送り込まれてきた権力者の息子で保安監察院の超エリート、トン・ミョンス(リュ・スンボム)の残虐ぶりである。顔はひどいが妙に格好いいのである。彼が映画の味をアジアン・テイストに引き戻し、そこが美味しい。
ラストのハ・ジョンウの台詞に続編の可能性もあるか?
(滝本誠)