舟を編むのレビュー・感想・評価
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便利になって、失うもの
とても素敵な俳優さんにとてもすてきな物語でした。
が、、地味で平たい。もうちょこっとエンターテイメントに脚色してもよかったのではないでしょうか。
それにしても、アナログからデジタルへ。便利にしたいという欲求から進歩した
デジタル化の凄まじさをこの辞書作りというものを通じて改めて感じました。
残念ながら「辞書を曳く」という行為自体もいつの日か無くなってしまうのか
と思うとちょっぴり寂しい。そのうち、「辞書」ってPCやタブレットのアプリ
としてしか知らない人も現れるだろう
たまにはPCに頼らずに、辞書を曳いてみよう。
そして言葉を大切に、正しく紡いでいける人になろう
なんて幸せな気分。
言葉の海に溺れる
言葉の海に溺れがちな人たち。
一番いい言葉は何だろうと探すうちに会話は過ぎてしまって、一番伝わる良い言葉を見つけた時には、もう言い出せない。という経験がある人ならば、誰だって共感する映画。言葉の海を渡りきることってすごく難しいのです。
主人公馬締さんはそんな言葉の海に溺れている人。
とてつもない数の蔵書に囲まれて、日々文を読んで辞書を読んで、言葉の美しさに埋まっているひと。
人が話すスピードは早すぎて、頭の中ではどう返そうか、何を言おうか、とうろたえているのにそれが伝わらなくて、『あいつって変人』なんて言われてしまう。だって世間一般の人にとって、言葉って一つ一つ意味を確かめて使うようなそんなに大切なものではないですからね。
馬締さんの顔が映るシーンも、序盤は目に影が掛かっている事が多い。口がパクパクしていても何も言葉が出てこない。おぼれているからです。
だからこそ、先生の『言葉は世界を渡る舟』という言葉に感激したのでしょう。
言葉に埋もれて身動きが取れなくなるのではなく、自分を人にまで運んでくれる船として使えれば、語彙が多い馬締さんの心は正確に伝わります。
といっても、
選ぶ言葉が正しくても、人に伝わらないと意味がない。
人に伝えることを意識していない文章で、伝えられた人が『意味わかんない!』と怒るのも当然。
『人に伝えること』を意識し出した彼は大きく海に漕ぎ出した。
こんな日常綺麗すぎる!と言われればそれまでですが
文学に溺れている者の日常って、ほんとにこんな感じです。
人と触れあわないのでぶつかることも少ない。
文字と自分の頭の中だけが世界。それ以外はガラス向こうの事。
今のデジタルで取った映像とは違い、35ミリフィルム撮影ならではの画面。
ぼやけた背景にくっきりと浮かび上がる人物が目に飛び込みます。
今まで「デジタル・フィルム論争何てばかじゃないの?」と思って興味がなかったのですが、
これを見るとやっぱりフィルムいいな~、となります。
時代を昔にするなら、このフィルム撮影を組み合わせるべき。時代の古みが出て画面が違和感なくストーリに反映されて、映画の出来も段違いです。
脳汁出そうなくらい美しい。
今回注目俳優は、西岡役オダギリジョー……の相手、岸辺みどり役黒木華です!!
とってもかわいい~
マーくんにメロメロなのもかわいいですし、きちんとマーくんのことを心配して馬締に話したり……両思いカップルってなごみます。
馬締さん初登場シーンに文庫型日本文学全集が映り、
私も持っているのであの表紙を見た時、ちょっとテンション上がりました。
ただ、マヨネーズのキャップは1980年代なら細い口で線状に出るのではなくて、
星型のチューブから直でぶちゅと出てないとおかしいかな~、なんて
辞書作りの過程は面白かった
原作を読まないまま映画館へ。
本職が言葉を扱う仕事ということもあり、辞書作りの過程がどういうものなのかを見るのは興味深かった。「右を説明できるか?」というのは、言葉を扱う人にとってはありきたりな質問だし、物珍しくはなかったが、きっと言葉を普段意識しない人にとってはなかなか斬新な切り口に見えるだろう。辞書を作るということは、ある言葉の側面その一部分を切り取り、固定化させること。なかなか面白かった。
だが、それだけ。
内容としては、好みではなかった。果てしなく長いのに、内容がない。抑揚もメリハリもない。途中うんざりした。ラストも簡単に想像できる。
映画の中は笑いの要素がたくさんちりばめられ、場内も何度か笑い声に包まれた。だが、それだけで面白かったと評するのは安易すぎると思う。松田龍平演じる「まじめ君」の心の移り変わりや恋愛模様、辞書に対する思い、回想シーンなど、とにかく終始綺麗なだけ。人間の心はそれだけではないはず。嫉妬、欲求、羨望など、マイナスな心の部分が全く描かれていないのでどの役柄もうすっぺらい感じがしてつまらなかった。唯一よかったのはオダギリジョーくらい。それでも絶賛というほどではない。宮崎あおいも、今回の演技はイマイチだった(役名「かぐや」も安直な描かれ方で失笑)。
残るものは、「笑った」記憶と「辞書作りすごーい」という思いだけ。残念。映画館で見なくてもいいと思った。
ストンと胸に落ちるものがないまま終わる
馬締ちゃんと仲間達の成長物語
題材が「辞書作り」であることの意味
何より素晴らしいのが、物語のテーマと題材の有縁性がとにかく高いこと。
つまり私が感じたテーマである、「登場人物たちの変化・成長」「社会の変化・成長」「人生を賭けられる仕事」と、辞書作りという題材の持つ意味がものすごくマッチしている。
松田扮する馬締(マジメ)は今の言葉で言うところのコミュ障である。そんな彼が用例採集という一つの行動で、辞書作りという仕事もしていれば、それがそのまま「相手のことを知りたい」というコミュニケーションの根源にも繋がっている包丁屋のシーンが素晴らしい。また、その構造が無理なく成立している脚本、演出も良い。
前半は1995年の近過去を舞台にしていた。そこからの社会変化を言葉の変化で表わすのに辞書作り(作っている辞書は現代語も乗せる方針)という題材はかなり適している。このごろ近過去や、それと現代への変化・対比を描いた邦画が何作品かあったけれど、本作ほど現代と近過去の時代設定が意味をなしているものは少なく思う。
人生を賭けられる仕事についても、辞書作りは発売するまでに10年~20年かかる長期スパンを要する仕事の一つであり、その後も改訂の為に終わりのない作業に身を投じる必要がある。まさに一生ものの仕事を表すのにもこの題材は適している。あの人物があの新聞を見て用例採集をするシーンは、彼の人生はこの時を迎える為にあったのだと感じて胸が熱くなった。この先、自分の仕事について悩みや迷いを持ったときにこの作品を観返すことになるだろう。
そして、あの用例採集に何と書かれたのかを想像させる演出が、他人との意見交換というコミュニケーションの余地を残していて粋である。
100%文系映画
オダギリジョーの役が無限大の優しさを感じさせる人物で、とてもよかった。あんな愛想のない、話しかけても挨拶をしてもろくに返事を寄越さないような松田龍平のような人物に呆れもせずずっとやさしく構ってあげていて本当に素晴らしい人柄だった。オレならと思うと、すぐに口をきかなくなると思うし、ともすれば、陰気くさくて運が下がりそうだとか言って意地悪したり嫌ったりするかもしれない。
松田龍平も猫背で口下手な暗い男になりきって演じていて凄味があるほどであった。達筆な恋文がとても面白かった。宮崎あおいちゃんは凛とした感じが素晴らしく、振り向く度に涼やかな鈴の音が聞こえそうだった。黒木華がコミカルな存在感を発揮していてとてもよかった。
辞書作りという大変に文系のテーマで一貫して描き切ったところも素晴らしかった。登場人物が全員好人物で、悪者がいないところに少し物足りなさがあるような気がするが、しかし安易に悪者を出していたらこのようなピュアな世界にはならなかったかもしれない。純度100%の混じりっ気なしの文系映画だった。辞書作りがいかに大変な作業であるか、きちんと伝わる作業風景が描かれていた。
松田龍平が新進気鋭の石井裕也監督と文芸的な作品に取り組むというのは、お父さんの松田優作が当時新進気鋭だった森田芳光監督と『それから』に出演したときの事を思い起こさせ、非常に感慨深いものがあると思いながら見た。
当時、オレ自身が高校生だったせいか『それから』はなんか変な映画というだけで全然面白くなく、松田優作も『探偵物語』の方がずっとよかったと思った記憶がある。
1996年にホンダのハイブリッドカーCR-Zが道を横切る場面だけちょっと残念だった。VFXでなんとか消せないものだろうか。
辞書にも作った人の人生が込められている
昆虫よりも用例採集。
私が学生の頃は、もちろん辞書といえば紙媒体(重い・厚い)。
息子が「電子辞書買って」というまで辞書といったらその印象。
特に英和辞書は学校推薦のものが見辛くて…苦労したなぁ。
気の遠くなるような舟を編む(辞書を作る)作業そのものが、
一冊の重みにも増して愛おしく感じてしまう、言葉に対する
愛情が、これでもか、これでもか…と詰まっているこの作品。
日本人であるからには、せめて美しい言葉遣い…とはむろん、
私も常に思いながら(ホントです)実に嘆かわしい粉砕言葉を
しょっちゅう使っている身である。恥ずかしいことこの上ない。
が、劇中ではそんな言葉をも拾い上げている。
素晴らしい辞書とは、言葉を選り好みしないことが分かった。
どんな言葉も大切に拾い上げ、語釈を巡って議論を繰り返す、
私も用例採集に加わりたくなってきた(昆虫採集より面白そう)
初めて「超~、うぜぇ~、キモい、これマジヤバくね?」なんて
いう言葉を聞いた時は(スイマセンねぇ^^;古い人間なもんで…)
もはや日本語も終わったな、なんて思ったりした。
いや、そうじゃなくて新たな語彙を持つ言葉が加わったと考える
べきだったのね。確かに諺だの慣用句だの、使われなくなれば
どんどん死語になっていくのだ。もはや聞かなくなった慣用句の
どれだけ多いことか。その時代を彩るのが当時流行った言葉
だとすれば、明らかにそれは文化になってきたはずなのにねぇ…
しかしどうせ耳に届くならば(皇室用語とはいわないが)耳触りが
心地良い言葉で伝えたほうが(肝に銘じます^^;)とは、思っている。
ところで面白いのは、今こういう言葉使わないよねぇ?だとか、
あーその言葉が出る年代といえば、うちらだね。なんて気付いて、
昔話に花が咲くという、これはこれで、また楽しいものである。
だから今、前述の言葉を多用している若者たちが20年後の未来で
マジ懐かしい~超ヤバくね?なんて語っている現場が目に浮かぶ。
いろんな意味で、言葉は(一応)大切に育まれているわけだ。
原作は本屋大賞を受賞した三浦しをん。ちなみにまほろ駅前~でも
松田龍平を使っていたが、私は彼の行天というキャラが大好きだ。
淡々飄々としているが大切なところを見誤らない賢さと鋭さがある。
今作の馬締は、言葉のセンスをかわれて辞書編集部へと異動するが、
いちいち正確な語彙を辞書で調べては意味から言葉へと入る姿勢が
七面倒くさい馬締のキャラクターに沿っていて、右という言葉を
あんな風に説明する人を初めて観られて感動する(他にもあるけど)
チャラ男の西岡(オダジョー)が、かなり自然に発する不用意な言葉と
比べてどちらが命取りになるんだろう、と考えては笑ってしまった^^;
お硬く難しい話かと思えばそうではなく、辞書編纂の長年にわたる
苦労と、馬締の恋愛話がメインで、軽やかなコメディにもなっている。
ラブレターを筆文で書いた馬締を責める香具矢(宮崎あおい)は可愛い。
書けても言えない(爆)もどかしさ、分かる気がする…でもそこだけは
ちゃんと口で(言葉で)言って欲しいもの。これは普通の女心だよねぇ。
のちに結婚する二人、二人ともあまり饒舌でないだけに、最後まで
です。ます。調のやりとりをしているところが不自然で笑える。しかし
盆も正月もないような生活の中、支え合う夫婦愛は言葉以上のもの。
おそらくすぐに、馬締は大渡海の改訂作業に取り掛かるんだから。
…あぁなんて果てしないんだ、辞書編纂に関わる総ての人を尊敬する。
しかし長きにわたる作業が人生のほとんどを占めているというのに、
幸せに感じられるなんて何よりのことである。12年後もまだ未完成、
あの光景が、どれほどの長い年月かを一瞬で感じさせたのはさすが。
脇を彩る名優たちも素晴らしく、随所で演技指導をしたという監督の
思い入れがたっぷり伝わる意欲作。今自宅にある辞書は手放さないぞ!
(紙質にも拘りがあったとはね。舟を愛して止まない姿勢が愛おしい)
松田龍平に脱帽
「舟を編む」は、松田龍平の代表作になるだろう。
「まほろ町駅前多田便利軒」や「探偵はBARにいる」も素晴らしい演技だったが、
瑛太や大泉洋の個性を生かす、バイプレイヤーとしての資質が勝っていた。
「舟を編む」では、主役の松田龍平が映画の特別な空気を作りだしている。
松田龍平の演技の特質は、渇いたユーモアにある。
それば、社会とうまく馴染めない男の発するユーモアなのだが、この映画の主人公はその典型で、まさにはまり役だ。
「舟を編む」は、笑いをうまく織り交ぜながら、社会とうまく馴染めない男が自分のポジションを見出していく過程を見事に描きだしている。辞書編纂という地味な男を主人公にした「成長映画」はこれまであまりなかったのではないか。
社会人2・3年目の若手にぜひ観てもらいたい映画だ。
オダギリジョーがいいね
家に帰ってさっそく広辞苑をとりだした。電子辞書におされ真夏の枕にも使われなくなり、部屋の片隅に追いやられていたものだ。紙のヌメリを確認するために。紙のヌメリは感じられなかったが、電子辞書にないものを確認できた。電子辞書では調べたい言葉はでてくるが、それ以外の言葉は見ることができない(当方のPCだけかもしれないが)。しかし、紙媒体では調べたい言葉以外の言葉も左右のページに印刷されている。余計といえば余計。ムダといえばムダ。でも、知的欲求なんてそんなところにあるんじゃないだろうか。女子高生会話の用例採集は「キモイ」と言われる。そんなこと言われて作る辞書は10~20年かかる。発売される頃にはそんな言葉は消滅しているかもしれない。でも、言葉の魔力にとりつかれた人間にはそんなこと何の問題もないのだろう。主人公は馬締だが、この馬締くんあまりにしゃべらないのでつまらない。香具矢は「みっちゃん、やっぱりおもしろい」と言うが。それに対して、先輩西岡はチャラ男だ。でも、西岡くんの方がオダギリの表現力もありでおもしろい。出版社に就職するような奴は口では「辞書なんて」と言いながらも、やはり言葉が好きなのだ。
松田龍平さん適役です。
マジメ系男子
とっても素晴らしい映画でした。
なんかいっぱい泣けたんですよね。
観ててやさしくてあたたかな気持ちになってゆくのが判るし。
辞書を作る人たちの物語です。
私は辞書が大好きです。今でこそiPhoneなんかで辞書アプリやツールが役立ってるけど。
電子辞書よりもめくるパラパラ音のする辞書の方が好きです。
広辞苑のような英語の意味も書いてある中型辞書が愛読書だった頃があったし。
お手紙を書くときなどに辞書を開いて正しい言葉を索引したものでした。
それに辞書の匂いとか大好きだし落ち着きますよね。
そんな辞書を制作するプロジェクトチームの映画は心から感動できました。
言葉のプロたちが辞書を完成させるのに長ーい年月をかけていることも衝撃的でした。
正しい日本語を載せるのだから大変ですよね。
観てて今さら聞けない日本語講座な感じで(笑)学ぶこともあったり!
美しくて正しい日本語にビックリします。
だから辞書に愛着がわくと思います。
松田龍平さん演じる馬締光也~まじめみつや~
名は体を表すではないですけど馬締光也はマジメな男性。
仕事は几帳面。人付き合いが苦手。お部屋は本だらけで本の収集家。
そして恋には奥手?!じゃないよーな(笑)積極的かも?!
奥手っぽいんだけどベースは恋愛映画でもあるので展開が見ものです。
愛を伝える手法のシーンは笑えましたが胸にくるものがありました。
松田龍平さんは実際そんなに多くの台詞を発してはいないのにすごく伝わってきた。
存在感は大きくて濃厚なポジションでした。
まわりに登場する人たちのパワーも素晴らしかったです。
オダギリジョーさんも黒木華ちゃんも伊佐山ひろ子さんも小林薫さんも。。。
特に印象に残ったのは馬締光也が大学生のころから住む下宿先の大家さんの渡辺美佐子さん。
大家さんには心を開いてる感があって微笑ましかったです。
なんでも話せちゃうみたいなね。
正直に言えば・・・私自身に馴染みのなかった意味の言葉が登場してきて勉強になった(笑)
普段絶対使わないわよー!な言葉を知れて賢くなった気分にもなれたりして。
それを一生懸命語釈している編集者たちがいるってことに感謝したくなりました。
日々用例採集している姿勢に脱帽です。
観てて感慨深い気持ちになる物語。
そして完成した辞書【大渡海】だいとかい。
その立派な辞書・大渡海が欲しいくらいです。
あったか〜い気持ち
観てる間中ほっこりとあったかくて、ちょっと声出して笑っちゃう、そんなシアワセ。
映画の後こんなふうにホカホカした気持ちになれるって在りそうでなかなかないかもしれない。
それにしても松田龍平という役者は!
演じるのはいつもどこかヘンな人ばかり。
でも彼がスクリーンに現れると、どうしても気になる。そのキャラクターに最初に感じた嫌悪感が消えて、いつの間にか応援してしまう。
何でだろう?声なのか?たたずまいなのか?不思議な魅力を放つ俳優。
この映画でも
かぐや姫のように現れる宮崎あおいはホントに魅力的だけど
ひょろひょろと営業に廻る松田龍平はなんともキモい。
それが観てるうちにどんどん素敵に見えてくる。
何年もかけて辞書を作る、という地味で果てしない仕事も登場人物の成長とともに壮大なスケールとなり、観るものの心を沸き立たせる。
自分ももっと一所懸命に働いてみよう。
そんなふうに思えたのはこの映画のお陰です。
アスペな主人公ですが
アスペな主人公ですが、周りを含めてほぼすべての出演者が彼を温かく見守る善人なのが自分としては好きな部類です。
内容は延々辞書を一から作るという一見地味なストーリーなのにダレずに長時間見せるのは素晴らしいと思いました。
小道具などにも手を抜いてないので冷めることもなかったです。やはり映画でなくてはできないことなんでしょう。
少しだけ気になるところとしては、女性の扱いが・・・。
香具矢がなぜ光也が好きになるのかどうも理由が読めないのと、タケさんが亡くなるあっさり感。岸辺みどりのポジションというか伏線が無さすぎな気が。
あと、余計なことですが。昔の Excelでは 6万5千行までしか扱えなかったですよね。実際やるとしたら苦労しただろうなぁ。
地味を強みに変えた秀作
もともとボソボソしたセリフ回しの松田龍平が、役柄としてもモソモソしたしゃべり方をする役をやったらどうなるか。その回答が本作に出た!
結果的にユニークで魅力的なキャラクターになったと思う。言葉に生きがいを感じる辞書編集者・馬締光也の誕生である。
そして本作がすばらしいのは、辞書編集という地味がそのままイメージされる題材を使って派手さを極力控えめに映画作りできる環境を用意できた点。
だからこそ、鉛筆でメモする音、ページをめくる音、包丁を研ぐ音、煮物を食べる音など、日本映画独特の音による映像表現に成功したのだと思う。
バックにサウンドを使わず、映像と場面の音だけを頼りにキャストの感情伝わってくるところは、日本映画の美しいところ。
これが辞書作りのプロモーション的な部分に光を当ててしまったら映画『ハゲタカ』になってしまうし、働いている人そのものに着目してしまえば『沈まぬ太陽』になってしまい、日本映画が持ち合わせている叙情的な要素がカットされてしまっただろう。
音楽で緊迫感を与えたり、焦燥感をイメージさせたり、また極端な構図のカットが多用され、まるでアクション映画のような演出になったに違いない。
そんなポジションのオダギリジョー演じる西岡は存在する。確かにいるのだけど、そこをスルーせず取り込み、そしてメインはやっぱり地味に辞書編纂に向かうという筋立てがすばらしい。
宮崎あおいも、大河ドラマのツンケンした部分がどうも印象に残ってて不安だったのけど、そこはそれ。芯の強さはそのままに、純粋なハートの馬締に打ち抜かれる割烹美人の役を見事に演じきった。
個人的にはこっち路線をバシバシ出してくれたらと思う。根がキツい人なのか、勝負どころに立つような役どころは、強烈過ぎて引いてしまうのだよね。
その辺の適切なアクセントという点では、オダギリジョー&池脇千鶴のコンビもすばらしい。
会社のわざとらしいよそよそしさや、オフのときのラブラブな感じはリアリティをたっぷりと注ぎ込む。
メイク落とし真っ最中の池脇に足を絡めて愛情表現とか、なんかもう見てる方が気恥ずかしくなる愛情たっぷりの親しさ。こういうのがサイドで入ってくると、作品に情感がグッと増す。
そして何といっても馬締の住んでいる下宿がすごい。
舞台設定では1995~2010年にまたがる時代だというのに、こんなのあるかいなと言いたくなるような古ぼけた下宿を作り上げた。
いかにも安そうなタイル、刷りガラスの入った戸、階段、味のあるゼンマイ時計など、よくもまぁ、こんなアナログ住居を生み出したと感心するほど。
でも、それがまた馬締のアナログな時代感とよく合う。いささかやりすぎじゃないかと思うほどだ。
しかし本作で一番すばらしい点は、編集部の面々が語るセリフのはしばしに言葉への愛着に満ちている点。
これの大元は原作者三浦しをん女史によるのだと思うけれど、スクリーンを通して伝えてきたのは、主幹・松本朋佑を演じた加藤剛をはじめとする役者陣と石田裕也監督の実力だろう。
地味にしみてくる言葉への愛着。これは辞書作りをテーマにしている本作だからこそ、ウソっぽくなく伝わってくる。映画構成的にうまい仕掛けだ。
アクションやカット、バックサウンドに求めず、日本的な叙情表現を出し切った本作は、ひさびさに納得いく日本映画。
それもこれも地味な題材を扱った原作があって、その映画化だということで観客は妙な期待をせず、製作側ものびのびやれたのが功を奏したのではないだろうか。
「大渡海」という辞書作りをプロジェクトほにゃららにせず、じっくりカメラをすえたドラマに観客は引き込まれてしまうだろう。
では評価。
キャスティング:10(こんな豪華な役者陣でバランスの取れた配置がすばらしい)
ストーリー:7(骨子としては地味の極みなのに、退屈しない流れ)
映像・演出:9(最新カメラの美しい映像を使いながら、しかし役者そのものと音にこだわった演出は、とても日本的な叙情感にあふれている)
美術:8(編集部の雑然とした様子や「大渡海」のプロモ用ツールなど、リアリティかつ本気)
セリフ回し:9(ボソボソしているけれど伝わる。誇張していないのに響く。そんな言葉遣いがたくさん)
というわけで総合評価は50点満点中43点。
映画は好きだけど邦画に絶望している人にこそオススメ。
きちんとした日本映画をひさびさに楽しむチャンス。
買って読みたい「大渡海」
「右」と言う字の、馬締君の語釈が何ともおかしな雰囲気であったが、とある辞書には「北を向いて東の方」と書いてある。馬締君の独自解釈ではなく、辞書の語釈を思い出していたのか。
本作で扱われる辞書の「大渡海(だいとかい)」
「ら」抜き言葉や「憮然」等の誤用への言及もあり、誤用でも誤用として注釈をつけて語釈する編集方針。また、現代用語を取り入れて・・・とあるが、ちょっと、どうなのかなとも思う。収まりきるのだろうか。
作中、ファッション誌からやってきた女性編集者がファッション関係の語釈のチェックなどを任されて、採取された語句を見て「いつの時代?」などと言っているあたり、時代の篩(ふるい)にかかっていない語句を取り込むのは、いささかの不安を感じた。入手したい気持ちも湧くのだが・・・
語釈について、堂々巡りになっている語句も紹介されていたりするが、観客へのサービスだろうか。堂々巡りにならないようにするのは語釈の基本にも思えるので。また、辞書に使う紙の質感について言及しているのは、辞書好きとしては、ほほえましいエピソード。電子辞書になく、紙の辞書で特長的なのはパラパラと無意識的にめくりながら見られるところ。紙の厚さ、質感は辞書選びのかなり重要な部分と思えるので、「辞書作り」の映画としては外せないところだろう。これも編集者に言われるまでもなく、製紙業者なら分かって然るべきところかもしれないが。
原作未読
言葉に対する造詣は深そうだが、実際に言葉を使って他人とコミュニケーションを図るのが苦手な馬締君。言葉は達者だが辞書編集部としては言葉に対する知識が浅そうな西岡が対照的。馬締君は実際にいると馬鹿にされそうな人物だが、出版社にいてなぜ最初から配置されなかったのか不思議なくらいにハマる。映画的展開とも言えそうだ。
香具矢を娶るのは予定調和的に感ずるものの、周りが盛り立てていてほほえましい。特に香具矢のいる店が分かった途端に予約を入れる早業が面白かった。
監修の先生が志半ばで倒れるのは残念だったが、あまり湿っぽさもなく良かったと思う。初版発表なるも、さっそく改訂作業に取り掛かろうとするのが、辞書編纂の使命だろうか。ラストは余韻のある終わり方を期待したが、安直に「子供ができたの」的な終わり方ではないので、良かったようにも思う。
古い下宿屋と辞書編集室(こちらも旧社屋?)で書物に囲まれながらのドラマで、全編が余韻と言うべきか。
助演男優賞は加藤剛さんで!
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