早春(1956)

劇場公開日:

解説

「東京物語」のコンビ、野田高梧と小津安二郎が脚本を書き、同じく小津安二郎が監督、「水郷哀話 娘船頭さん」の厚田雄春が撮影を担当した。主なる出演者は「乱菊物語」の池部良、「チャッカリ夫人とウッカリ夫人 (夫婦御円満の巻)」の淡島千景、「君美しく」の高橋貞二、「白い橋」の岸恵子、「若き潮」の笠智衆、田浦正巳、「彼奴を逃すな」の宮口精二(文学座)、随筆家の菅原通済など。

1956年製作/144分/日本
原題または英題:Early Spring
配給:松竹
劇場公開日:1956年1月29日

ストーリー

杉山正二は蒲田から丸ビルの会杜に通勤しているサラリーマンである。結婚後八年、細君昌子との仲は倦怠期である。毎朝同じ電車に乗り合わせることから、いつとはなく親しくなった通勤仲間の青木、辻、田村、野村、それに女ではキンギョという綽名の金子千代など。退社後は麻雀やパチンコにふけるのがこのごろでは日課のようになっていた。細君の昌子は毎日の単調をまぎらすため、荏原中延の実家に帰り、小さなおでん屋をやっている母のしげを相手に、愚痴の一つもこぼしたくなる。さて、通勤グループとある日曜日江ノ島へハイキングに出かけたその日から、杉山と千代の仲が急速に親しさを増した。そして杉山は千代の誘惑に克てず、ある夜、初めて家をあけた。それが仲間に知れて、千代は吊し上げを食った。その模様を千代は杉山の胸に縋って訴えるが、杉山はもてあますだけであった。良人と千代の秘密を、見破った昌子は、家を出た。その日、杉山は会社で、同僚三浦の死を聞かされた。サラリーマンの生活に心から希望をかけている男だっただけに、彼の死は杉山に暗い後味を残さずにはいなかった。仕事の面でも家庭生活の上でも、杉山はこの機会に立ち直りたいと思った。丁度、地方工場への転勤の話も出ていることだし、千代との関係も清算して田舎へ行くのも、一つの方法かも知れない。一方、昌子は家を出て以来、旧友の婦人記者富永栄のアパートに同居して、杉山からの電話にさえ出ようとしなかった。杉山の赴任先は岡山県の三石だった。途中大津でおりて、仲人の小野寺を訪ねると、小野寺は「いざとなると、会社なんて冷たいもんだし、やっぱり女房が一番アテになるんじやないかい」といった。山に囲まれたわびしい三石に着任して幾日目かの夕方、工場から下宿に帰った杉山は、そこに昌子の姿を見た。二人は夫婦らしい言葉で、夫婦らしく語り合うのだった。

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映画レビュー

3.5岸惠子が若くて美しい

2025年1月20日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

良いラストシーンだった

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あっちゃんのパパと

4.0爽やかな不倫映画

2024年12月29日
PCから投稿

不倫を題材にした小津安二郎としては異色作になっています。
ウィキペディアに『池部と岸にとっては唯一出演した小津作品であり、同じようなキャストを使い続けた小津にとっては異例であった。』とあり、積極的に路線・趣向を変えようとした感のある映画でした。

1956年製作の早春は東京物語(1953)の次にあたる映画ですが、その間の3年という開きは終戦から年1本のペースで映画を撮ってきた小津安二郎にとっては長いブランクだったそうです。
Early Springのwikipediaによると当時、大船調やホームドラマの人気が下落しており松竹が新機軸をもとめていたため、野田高梧と小津の脚本コンビは松竹と時代性に即していくつかの譲歩をした──とありました。
集大成といえる東京物語を作り上げたことで家族哀話が一段落したという監督自身の意中もあったのだと思います。
そこで当時のフレッシュな人気俳優を使った刺激的な不倫もの映画早春がつくられた──という感じだったのでしょう。ただし映画に刺激的なところはありません。不倫を扱ってはいますがヒューマニズムが横溢するいかにも小津印(じるし)な映画になっています。

ちなみに「大船調」とはネットの概説によると──
『松竹大船撮影所で作られた映画作品をしめすことば。暴力、裸などが描かれない、家族で楽しめる作品。多くほのぼのとした映画をしめす。』とのことでした。

蒲田に住む妻帯者の杉山(池部良)は都心の丸ビルにある東亜耐火煉瓦株式会社につとめています。会社でハイキングにでかけたとき、その大きな目から金魚とあだ名されている若い同僚(岸恵子)と急接近し、以後たびたび逢い引きするようになります。
杉山の妻、正子(淡島千景)は夫の異変に感づきますが、向き合うことができないままでいます。杉山の岡山への転勤を機に杉山と正子は夫婦として互いにやりなおそうと誓います。

不倫もの映画とはいえ杉山と金魚の交情描写はありません。接吻シーンでさえ横からではなく後ろからなので、どちらかの後頭部しか見えません。そもそも二人でいる描写自体がわずかなので、不倫の有無もあいまいであり、不倫よりも浮気と言ったほうが妥当なものです。
金魚は無邪気な幼い女で、じぶんが妻帯者と仲良くしていることに良心の呵責がありません。男の生態を観察しているような若い女っているでしょう。つきあうっていうより面白がっていて、こっちも愉しんで利用している──という状況が男にはあると思います。
むろんそんな関係は泡沫ですし遊びのつもりでしょうがパートナーが知ったら悲しむのは言うまでもありません。

しかし不倫は副次的なもので映画早春の主題はサラリーマン生活の閉塞感です。戦争で生き延びて、帰還し、日常生活に戻った人間、戻ろうとしている人間が撞着する悩み、あるいは戦争後遺症の話は内外問わず、しばしば映画になります。
杉山にも漠然とした不安があります。正子は気丈ですが、ふたりは子をつくったものの幼くして赤痢で失っています。その痛みに加えてサラリーマン生活は単調で、このままこうやって生きていていいのか、という憂慮が杉山にも正子にもあります。
そんなとき憂さを忘れてつきあえる金魚に接近してしまった──とはむろん男側の言い訳ですが、そういう流れをみてとることができます。

池部良は暗さをもった美男子です。ウィキによると1942年に召集され、46年復員するまでの間に、輸送船を撃沈されセレベス海を10時間泳いだり、ハルマヘラ島のジャングルをさまよったり、オーストラリア海軍艦長と交渉をまかされたこともあるそうです。戦争体験が俳優池部良に陰影と厚みを付け足しているように感じました。

映画には戦争が描かれていませんが戦争の影が色濃い映画です。
加東大介や三井弘次が演じている杉山の戦友は、生き延びるために必死だった戦場から、金稼ぎに必死にならなければならない平時に戻って、戦時を懐かしんでいるように見えます。平時の延命方法は、戦時の延命方法とちがって、ルーティン化された規則的なものです。高度成長期にあり、時代は激しい変化をとげています。かれらが抱えている将来への漠然とした不安が伝わってくることと、杉山の不貞が軽減されることは、無関係ではないと思いました。

ところで不倫について、人それぞれ違った見識があります。まず大前提として不倫とは当事者間の問題です。無関係な者がとやかく言うことではありません。
また、あまりこのようなことは言われませんが、芸能人の不倫についてけしからんと言う人は、おそらく恋多き人ではないでしょう。不倫・浮気はそもそもが魅力的な人のやることです。すなわち、わたしが不倫をしたことがないのは、とりもなおさずわたしに外見的魅力や甲斐性が無いからです。人様の不倫をどうこう言う前に不倫と無縁であるじぶんを顧みる必要があると思います。わたしは不倫を拒んだのではなく、できなかったのです。モテない。誰も寄ってこない。甘美な誘惑を知らない。そんな非モテの不倫未体験者が不倫をけしからんと言うのは惨めなことです。不倫をどう見るかそれぞれの勝手ですが個人的にはそんな風に思っています。

多目的トイレでコトにおよんだ芸人がいましたが男とはそういうものです。もしあなたが男で、かたわらに乗り気な女がいて、目の前に多目的トイレがあって、とくに誰かに見られる心配もなくて、それでもおれはそんなことはしないと言うのだったら、そりゃあたいしたものですが、ただしこの芸人は「男とはそんなもの」と知っているきれいな女と結婚する甲斐性をもっていました。雲泥の差だと思います。

話が逸れましたが早春は浮気をあつかってはいるものの、それは枝葉になっていて、最終的にはしっかり前を向いて生きようとする夫婦像をおしだして、正しい世道を説きます。同時に正子の母を演じた浦辺粂子に『女は三界に家無し』という台詞を言わせて、銃後女性の辛労にも配慮しています。

淡島千景は、いつも毅然としていて、さっさと家を出て行く鉄火なところもあるので、話の見た目はさっぱりしています。これを田中絹代が演じていたら、可哀想で仕方ない──ということになりますが、淡島千景なのでほとんど憐憫を感じません。さらに岸恵子が裏表のないお嬢様なので、まったく悪意を感じません。暗い池部良ですが、ふたりの明るい美人のおかげで、こんな爽やかな不倫映画があるんだろうか、というくらい爽やかな不倫映画になっていると思いました。
imdb7.7、RottenTomatoes100%と88%。

女は三界に家無しとは──
『《「三界」は仏語で、欲界・色界・無色界、すなわち全世界のこと》女は幼少のときは親に、嫁に行ってからは夫に、老いては子供に従うものだから、広い世界のどこにも身を落ち着ける場所がない。』

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津次郎

4.0草食系かと思いきや、ちょっとだけ肉食の早春物語。 間違ってレンタル。

2024年10月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

映画の始まりに流れるタイトルが佳いんですよねぇ、
麻布の紗に、白字の筆で、担当者と配役の役者の名前。
清廉な音楽が流れます。
「小津映画の世界」に、とっぷりと我らを誘ってくれます。

でも失敗!
初めて借りたDVDのつもりでしたが、見れば見るほど既視感が!😱
矢張り、すでに以前に借りたものでした。
またやっちゃいましたねー。
小津作品は、「題名」がどれもこれも似かよっていて“薄味”なんですから、ついつい、どの作品を観たのか忘れてしまうのです。どれもこれも同じ人が出ているし(笑)
それで、間違ってレンタルしてしまいました。

・・・・・・・・・・・・

でも平々凡々な庶民の暮らしや、サラリーマン稼業って、日々繰り返しの毎日で、こんなものなのかも知れません。

目覚ましで起きて、隣にはいつもの愛妻。
蚊取り線と蚊帳。
お向かいにはいつもの杉村春子がいて、あの声が聞こえる。
決まった電車で出社すると、上司は東野英治郎。

「きみ、電車一本早く出社するのもたまにはいいもんだね」。
「東京駅の利用者数は34万だそうだよ」。

駅に向かうサラリーマンたちは、草むらの空き地を抜けて、土の道を集まってくる。
こういう「昔の日本の光景」を見るのも乙なものです。
今や草むらも砂利道もありません。新宿の乗降者総数は、日に350万人だそうですから。

会社勤めをしながら家族を養い、
会社勤めに疲れて早春の誘惑に手を出す。
サラリーマンは今も昔も、あいも変わらずです。

勤め人、脱サラしたトリスバーのマスター、戦地帰りの先輩の不遇、左遷、倦怠期、エトセトラ。
戦後の庶民の新しい生活を小津は観察しています。

小津安二郎本人は、サラリーマンの経験はあったのだろうか? 浮気や不倫の経験は?

⇒ 彼は大店のボンボンで、学校に行かずに映画館に通い、代用教員を経て松竹に入ったようです。
生涯未婚でお母さんと暮らしたそうです。

故にか、
小津映画は全般にあっさりした作風で、どこか一歩引いていて、ドロドロにははまり込まないですよね。
ハッピーエンドっぽい小津の脚本なのですが、まさかあっけらかんと本気で、「淡島千景が夫婦関係を修復したのだ」と思っているのでは?と、僕は小津さんのお考えが心配になります。

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きりん

4.0小津作品に珍しい不倫物

2024年8月23日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

単純

昔この映画が長すぎるせいか観るのを挫折したのをおぼえております。
TVで観た感じではサラリーマンがバーで語らう場面が印象的でした。
その後ジワジワと見たいなぁという気持ちが
湧き上がり今回4Kレストア修復版を見る事ができました。とても良かったです。
不倫物なのに、あまりドロドロしてなく
終盤、蛍の光を合唱するシーンはホロッと
させられます。厚田雄春さんのカメラワークは素晴らしいです。昨日撮って焼いたんじゃないかという程、画がシャープでした。
岸惠子の美しさは言うまでもありません。
なぜか金魚と呼ばれている。
小津作品の中で一番好きな作品です。
池部良と淡島千景の二人が列車が来たと
見つめる表情が空虚なのは、
ミケランジェロ・アントニオーニの不条理に通じるものが、あるのかな・・・

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naoki