旅愁(1931)

解説

「最後の中隊」と同じくコンラート・ファイトが主演し、監督も同映画のクルト・ベルンハルトである。原作はフランスの小説家クロード・ファレルの筆になるもので「最後の人」「サンライズ」のカール・マイヤーが脚色し、撮影台本は「最後の中隊」のハインツ・ゴールドベルクが書いた。撮影は「白魔」「月世界の女」のクルト・クーラントで、助演者はウインナ出の新女優トルーデ・フォン・モロー、「二重結婚」「メトロポリス」のハインリヒ・ゲオルゲ、「西部戦線一九一八年」のハンス・ヨアヒム・メービス、フリーダ・リヒャルトその他である。(無声)

1931年製作/ドイツ
原題または英題:The Man Who Commited Murder Der Mann, der den Mord Beging

ストーリー

真夏の陽の下に眠ったようなトルコの街である。フランス政府から此の国の軍事教練のため派遣されたセヴィニ卿は始めて来たこの東洋風な都を物珍しいものに思った。或日彼は美しいポスポラスの海に船を浮べた。すれ違ったボートに夢のような顔をした若い母親と可愛らしい男の子が乗っていた。その夜彼はホテルのサロンでこの国の主だった人々に照会された。その中には海で見た女性もいた。彼女はフォークランド卿夫人と紹介された。フォークランドといえば英国人のトルコ政府顧問として羽振り利いた人。併し警視総監は彼を注意人物であると戒しめた。セヴィニの視線はともすればフォークランド夫人の上に流れる。何か不幸そうに見える彼女の姿は痛しいほど美しい。フォークランドのそばには従妹と称するもうひとりの女性が付いている。その後の彼女の邸へ出入りするうちセヴィニは夫と従妹から孤立して愛児を護る夫人の気の毒な身の上を知った。物憂い秘密に包まれたトルコ。各国の人種が表面に友情を湛えながら裏に政治上の、軍事上の争闘を続ける国。その中にあって夫に愛されない夫人をセヴィニは哀れんだ。夫人はいま夫と別居して愛児とともにヴェッフェルの別荘にいる。或夜フォークランドがそこを訪れた。不意の喜びに迎えた夫人を荒々しく突きのけたのは離婚承諾書。その上愛児までも奪おうとするのだ。理由はいまわしい姦通である。見に覚えのない夫人がこの時ばかりは鉄のように頑張っても卿の意思はそれより強く、遂いに青ざめた夫人の手をとって署名をさせて了った。その時不意に卿の体がよろめいた。響きを立ててバッタリ倒れた。即死だった。夫人は愛児を、引き離されたら死を選ぼうと思い詰めていたのだ。その夜セヴィニは慌ただしくトルコを立った。青白い月の下に眠ったトルコ。冷たい夜風が彼にフォークランド夫人のを思い出させた。思い出させたのではない。彼は夫人のことを胸一ぱいに思いつめながら冷たい夜風の中を歩いているのだ。再び帰って来られないトルコ。そのトルコにこんな運命を辿ってゆくであろうあまりにもかよわい夫人。その夫人の三ヶ月のような幻を抱きしめながらセヴィニはトルコを去っていった。

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