ソハの地下水道 : インタビュー
アグニエシュカ・ホランド監督、ユダヤ人を地下水道にかくまった男の実話を映画化
ナチス支配下のポーランドを舞台に、地下水道に逃げ込んだユダヤ人たちをかくまった実在の男をモデルに描き、第84回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた「ソハの地下水道」が9月22日公開される。「太陽と月に背いて」「敬愛なるベートーベン」で知られる、ポーランド出身のアグニエシュカ・ホランド監督に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
貧しい労働者のソハが、ネズミが住み着く地下水道に身を潜めて命を守ろうとしたユダヤ人のために、危険を冒しながらも良心に従って行動するさまをドラマチックに描き、当初は自分の利益のことだけを考えていたソハの心の変化、また仲間割れや男女の愛憎などユダヤ人たちの人間らしい生きざまも赤裸々に映し出す。
「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」などホロコーストの悲劇はこれまで数多く映画化されているが、ホランド監督も1990年の「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ」など同題材でこれまで2本を監督、アンジェイ・ワイダ監督の「コルチャック先生」の脚本を執筆している。
ホランド監督は、本作を英語劇として製作してほしいというオファーを断ったという。「これまでの経験から、このテーマがどのくらい心理的に、個人的に自分に負荷がかかるか、そして責任を持たなければいけないということを重々承知しているだけに、映画的方策に合わせて作るような映画にはしたくない。つまり、英語、ハリウッド的な作り方はしたくなかったのです」。
場所と時代、そこに生きた人々が使った言葉にこだわり、イディシュ語、ポーランド語、ウクライナ語、ドイツ語など登場人物に合わせたオリジナルの言語を用いた。「題材によると思いますが、ここまで真実が恐ろしくひどい題材はそのまま見せなければいけない。言いかえれば、英語にしてしまうと、痛みが和らいでしまうのではないかと危惧したのです」とその理由を明かす。
下水の悪臭がスクリーンから漂ってきそうなリアルな地下水道は、7割がセット、残りのシーンは「汚くて、狭くて、べたべたしていて状況は最悪でした」という実際の下水道で撮影した。洪水シーンに耐えうるセット製作や暗闇の中での撮影は困難を極め、「今まで携わった作品で一番大変な現場でした」と振り返る。
事実に裏打ちされたこの力強い物語の主人公ソハ役を演じた俳優、ロベルト・ビェンツキェビチの名演に誰もが心を奪われることだろう。監督は脚本を読んだ当初からビェンツキェビチを起用するつもりであっといい、「彼は二面性を持っており、悪党役では信憑性を感じられるし、自分と葛藤しながら変化する様を驚くほどそれはリアルな演技で見せてくれる。しかも決してやりすぎないのです。ポーランドのみならず世界の今の世代の俳優でもっとも才能のある1人ではないかと思っています」と絶賛している。