シン・エヴァンゲリオン劇場版 : 映画評論・批評
2021年3月9日更新
2021年3月8日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
人の心のありようを描き続けてきた「エヴァ」3度目の結末
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズは企画当初、テレビシリーズの総集編を3部作でつくり、最後だけ少し変えて「パート2」に繋げるような内容が考えられていた。そこには、「ガンダム」のように色々な人が「エヴァ」をつくることができるように、自分たちで露払い的な作品をつくっておこうという考えもあったそうだ。
それが「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」では新キャラクターが登場して物語も大きく路線を変え、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」では見る人を突き落とすような衝撃の展開でファンを驚かせた。そして、完結編となる本作のコピーは、「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」という只事ではすまなそうな文言。テレビシリーズ、「THE END OF EVANGELION 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」に続く3度目の「エヴァ」の結末はいったいどうなるのか、一抹の寂しさと大きな期待を胸に公開初日に劇場へ足を運んだ。
本作でもっとも心に残ったのは、序盤、碇シンジたちがある共同体ですごす日常のシーンだった。ニアサードインパクトによる被災のなかでたくましく生きる市井の人々の姿は、庵野秀明監督が「Q」のあとに手がけた「シン・ゴジラ」を連想させ、「破」で新しい「エヴァ」だと話題になった“ポカポカする”エピソードをアップデートさせたもののように見えた。長めに尺が割かれているこの日常の場面は、終盤の展開に大きな影響をあたえているはずだ。
「エヴァ」は、これまで一貫して人の心のありようを描いてきた。外枠はロボットアニメとしてエンターテインメントの限りをつくしながら、世界の捉え方や他者とどのように関係を結ぶべきかが物語の大きなテーマでもあった。本作では共同体まで射程にいれた心のありようを描くことでこれまでの「エヴァ」を開放し、閉じているのに開いているというアクロバティックで見事な大団円をむかえていると感じた。
(五所光太郎)