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人体に寄生する地球外生命体“エイリアン“の恐怖を描くSFホラー『エイリアン』シリーズの第5作。
西暦2093年、考古学者のショウとホロウェイは、古代人が残した星図に人類誕生の鍵が隠されているのではないかと思い、ウェイランド社の調査船「プロメテウス号」でその星図が示す惑星「LV-223」へと向かう。遂に辿り着いたその惑星には、確かに地球外生命体の痕跡があったのだが…。
監督/製作はリドリー・スコット。
乗組員たちをサポートするアンドロイド、デヴィッドを演じるのは『イングロリアス・バスターズ』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の、名優マイケル・ファスベンダー。
プロメテウス号の監督官、メレディス・ヴィッカーズを演じるのは『ハンコック』『スノーホワイト』の、オスカー女優シャーリーズ・セロン。
プロメテウス号の船長、イドリス・ヤネックを演じるのは『28週後…』『マイティ・ソー』の、名優イドリス・エルバ,OBE。
ウェイランド社のCEO、ピーター・ウェイランドを演じるのは『メメント』『英国王のスピーチ』の、名優ガイ・ピアース。
『エイリアン4』(1997)から15年の時を経て、あの伝説的シリーズが再びスクリーンに帰って来た!!……いやまぁ『AVP』(2004-2007)という珍作がその間にあったんですけどね。それは置いといてっと。
リプリーの戦いは『4』で一区切りついたという事で、今回は前日譚。『1』(1979)の30年くらい前に時代を設定し、謎の巨人「スペースジョッキー」と人類、そしてエイリアンとの悠久の因縁を描く。…という事になっていますが、まぁはっきり言って過去シリーズとの繋がりは薄い。リブート、或いは世界観だけ拝借したオリジナル作品という色合いが強い。
驚かされたのは、まさかのリドリー・スコット再登板。彼がシリーズに復帰するのはなんと33年ぶり(!)の事であり、ここに来て真打に座を任せるとは、『エイリアン』を復活させようという20世紀FOXの本気がよく伝わって来ます。
生きる伝説にして『エイリアン』の生みの親が監督に就任し、しかもタイトルが人類に“火“を与えたというギリシア神話の巨神『プロメテウス』。“人類は、どこから来たのか。“とキャッチコピーも大仰だし、これはトンデモなく哲学的な超大作に違いないっ!!と固唾を呑んで鑑賞したのだが…。
いや面白いよ。リドスコらしいスケールのデカい世界観と圧巻の映像美、そして個性的な登場人物とキモいクリーチャー。これぞ純度100%のSF大作である。
…ただ、これってジャンルとしては完全にコメディですよね。めちゃくちゃ真面目ぶった人たちがめちゃくちゃな目的で宇宙探索に出かけ、目的の惑星でめちゃくちゃバカな事をやった挙句めちゃくちゃな宇宙人にめちゃくちゃ怒られ、結局めちゃくちゃな惨事が引き起こされるというめちゃくちゃなお話で、めちゃくちゃ笑ってしまいました。特に後半なんて本当に爆笑の連続で、エンジニアがデヴィッドの首を引っこ抜いてジジィを殴り殺したところなんかもうバカバカし過ぎて涙出て来た😂「全てー 無駄だった」じゃねーわっ!セロン様は汚物は消毒だ〜‼︎だし、船長は急に大和魂燃やし始めるし、巨ハゲと巨ダコはくんずほぐれつ盛り始めるし、まじ何なんこの映画っ!?
気になるのは、リドスコは意識して本作をコメディに仕立て上げたのかという事。『エイリアン』シリーズなのだから、当然観客はSFホラーを期待する。そこを敢えて裏切ろうと思ったのか、それともホラーをやろうとしたのに何故かコメディになっちゃったのか、これは一考に値する。前者なら「やっぱりリドスコは天才だっ!」と褒めたいが、後者なら「ジジィ耄碌してんじゃねえか!!」と一喝したい。
本作で一番強烈なショウ博士のセルフ帝王切開シーン。『エイリアン』シリーズにおける寄生は言うまでもなくレイプのメタファーだが、今回はそれを衒いも無く描き切っている。
自らお腹を割いて胎児を取り出すという、不快指数MAXのグロ描写。そしてそのお腹から生まれたのはキモさMAXのタコ幼虫。こんなん妊婦さんが観たら卒倒してしまう程の恐怖表現である。しかし、これだけなら見事なまでに悍ましいホラー演出なのだが、その後ショウ博士はお腹の傷をホッチキスでバチバチ止めて、飛ぶわ走るわ叫ぶわ戦うわ、八面六臂の大活躍を見せる。おいおい内臓飛び出すぞ💦しかも、最終的には更なる戦いを求め、巨ハゲの母星へと飛び立ってしまうというトンデモなエンディングを迎える。
この終盤のショウ博士の覚醒は完全なるコメディであり、怪物出産という強烈なホラー展開が後半のお笑いの為のフリとして用いられている。確かにこのフリは効果的なのだが、しかしそこまでして『エイリアン』シリーズでアクションコメディを描く必要はない訳で、正直リドスコ本人もあんまり深く考えてないのではないか、というのが個人的な見解である。リドスコクラスの巨匠になると、もうホラーとかコメディとかそういう区別は無くなっちゃうのかも知れないですね。
脚本の面も、良し悪しの判断に苦しむ。普通に面白いのだが、どう考えても破綻してるんですよね。
まず古代人の壁画に共通の星図があったってそれで「人類の起源がわかるはずだ!」とはならん。ショウ&ホロウェイ博士は確実に陰謀論とか信じるタイプである。
他の学者先生方もバカばっかりで、生首に気を取られて嵐に飲み込まれるわ、「こんな所にいられるか!俺は先に帰る!」と言い出したにも拘らず道に迷うわ、どう見てもヤバい生物を素手で触ろうとするわ、コイツら完全にクレイジー。
色々と説明不足な点も多く、冒頭の巨ハゲが毒飲んでボロボロになって水に溶けるシーンとか、言いたい事はわかるが唐突過ぎる。何のためにそうしたのかがさっぱりわからん。結局、わざわざ生み出した人類を滅ぼそうとした理由も謎のままだし…。
まぁ不明点は今後の作品でおいおいと描いていくつもりなのかも知れないので目を瞑るが、どうしても気になるのは巨ハゲの企てた人類滅亡計画のブレの部分。35,000年前の壁画に星図が残されていたという事は、その時からすでに巨ハゲ一族は人類を滅ぼそうと思っていた訳でしょう?惑星にエイリアンを忍ばせておいて、のこのこやって来た人間をギャーと殺そうとしていた。その一方で、惑星に横たわっていた巨ハゲのミイラは約2,000年前のもの。つまり、巨ハゲは人類滅亡計画を待ち伏せから侵略へと切り替えていた訳ですよね。その理由が不透明なのは気持ち悪いし、そもそも特に説明をしないのであれば、何故途中で作戦が切り替わったというややこしい設定にしたのか。待ち伏せなら待ち伏せ、侵略なら侵略で一貫しておいてくれれば、「えっと…つまりエンジニアたちは何がしたいんだ?」なんて考えなくても済んだ。無駄に複雑な設定がただのノイズにしかなっていないんですよね。
もしかしたら、リドスコはあんまり脚本の細部に気を配っていないのではないだろうか。「人間の祖先は宇宙人だったのじゃ…」という一点にのみ興味が集中しており、後のところは適当に流したという可能性がある。それがドライブ感を生み、結果としてやたらとテンションの高いバカ映画になったのではないか。それはそれで怪我の功名というヤツなのかも知れないが、それで良いのか…という気も正直するぞ。
総評としては、かなり面白いSFコメディだが『エイリアン』シリーズとしては評価に困る、といったところだろうか。初代監督のリドスコに文句を言える人間は居ないだろうから、かなり本人が好き勝手に作ったのだろう。やはりジジィの暴走ほど扱いに困るものはないのだ。