いくら熱心なファンが多いといっても、平均視聴率4.7%の低視聴率の番組がよくぞ映画化いこぎ着けたものです。テレビ版では、短編コントが中心だったのに、本作では1本の長編ドラマに仕上がっています。なのでテレビ版を見ていなくても充分理解できる内容でした。
ドラマ自体は、『プロジェクトX』のコメディ版と言える趣です。新製品開発に関わる裏方のスタッフの困難を割と丁寧に描いていて、他社との競争の激しさや産業スパイの実態、ネーミングで苦労するところや、社内プレゼンの厳しさなど、サラリーマン社会の悲哀と厳しさが浮かび上がってくるストーリーです。
そこに生瀬勝久や沢村一樹、伊東四朗など芸達者で個性的な役者が絡むことで、本作シリーズならではの軽妙な可笑しさが醸し出されていました。
そんな会社に飛び込んでしまう、新入社員の新城は、恐らく観客の気持ちを代弁する分身なのでしょう。変わり者だらけのNEOビールにあって、彼だけがまともに見えます。小池徹平のうぶさ加減がよく出ていて、新城が入社直後にサラリーマン生活に嫌気がさして、早くも転職を考えてしまう件は、とても共感できました。
但し、三谷幸喜作品と比べれば、突き抜けた可笑しさに欠けるところが惜しいと思います。まぁ、そこはNEO理由というか、自己の作品への批判もあらかじめ予想して、プロローグやエピローグで自虐ネタにしているところは、流石の覚悟と言うべきでしょうか(^^ゞとにかく、スタッフが本当に楽しそうに自分たちが面白いと思った世界を作り上げたという作品なのです。悪く言えば、客に受けようが受けますがお構いなし!といいつつもPART2の公開に執念を漲らせているあたりは、まったく観客無視でもなさそうです。一番笑えたのは、本編ではなく、エンドロール中の挿入映像に出てくる、いかにお金をかけずに撮影したかというメイキング映像でした。
突き抜けた可笑しさに欠けるという点では、伏線が余りなく単調なところと、ギャグにしていくのか、シリアスにしていくのか微妙なバランスのところで小さくまとまり過ぎているのです。
例えば劇中に開発される『SEXYBEER(セクスィービール)』についても、エッチな方向に飛ばずに、常識的なコンセプトに強引にはめ込もうとします。では、『プロジェクトX』と比べれば、それほどの感動でもないのですね。笑いもシリアスも微妙なところで、あと一息なんだけどと感じた次第です。
本作で唯一クグッと感動したところは、課長・中西が新城を誘って、自らが発案した大ヒットビール“冷麦”を思いつくきっかけとなった居酒屋に連れて行くシーンです。その店でしみじみと生みだした理由を語る中西の語りには、サラリーマンとしての哀愁がたっぷりで思わず共感してしまいました。
また転職を真剣に悩んでいた新城も、周りのお客さんが上手そうに“冷麦”を飲み干しているところを見つめて、表情が明るく変わっていくのです。自分が関わっている製品が、どれだけ多くの一般顧客の生活に役立っているのか実感した瞬間でした。この台詞抜き、長回しのシークエンスに、ホロリと感動したのです。
ところで本作で主役以上に目立っているのが、川上役の沢村一樹。テレビドラマ『DOCTORS~最強の名医~』で見せる策士めいた名医ぶりとは、まるで人格がガラリと変わってしまうのです。
本作では打って変わって、沢村はおちゃらけ社員ぶりを発揮。新製品ビールの発表会では、川上は自らキャラクターとなり、“セクスィー部長”に成りきり、観客のおばさま方を、ウィンクだけで気絶させてしまうところが姿がとても可笑しがったです。
わざわざ劇場版にするほどまでの企画だったかどうか微妙ですが、DVDで見る分には、抜群に退屈凌ぎとなるでしょう。そういう意味でお勧めしておきます。