ウェイバック 脱出6500km : 映画評論・批評
2012年8月28日更新
2012年9月8日より銀座シネパトスほかにてロードショー
過酷な大自然のなか地球全周の6分の1を歩くサバイバルドラマ
第2次世界大戦の秘話であり、壮絶な実話だ。主人公は、ドイツ軍とソ連軍に侵攻され戦場となったポーランド人捕虜(ジム・スタージェス)で、故国に妻を残した彼はシベリアの収容所を脱出する。だが、「第十七捕虜収容所」や「大脱走」のように収容所の外へ出ればいいというものではなく、それは序章にしかすぎない。それからの道程が真の地獄となるのだ。シベリア~モンゴル~中国~チベット~インドと、“歩いた”距離はなんと6500キロ。6500キロといえば、地球全周の約6分の1。壮大なスケールである。ブリザードが吹きすさぶ厳寒のシベリアからモンゴルの大平原、砂嵐が舞い蜃気楼も見える灼熱のゴビ砂漠を通り、万里の長城やヒマラヤ山脈を超えて彼らはインドを目指す。
ピーター・ウィアー監督がオールロケで、人間の生命の限界点を描くサバイバルドラマをそつなく演出。命がけの脱出行の伴走者ならぬ“伴歩者”となる、シアーシャ・ローナン演じる紅一点のポーランド人少女が作品自体の可憐な一輪の花となっている。彼女の登場で、生きることに血眼になっていた6人の男たちの目に、人間らしいやさしさが戻ってくる。うまい演出だ。
印象としてやや長めに感じるが、アメリカのナショナルジオグラフィック協会の協賛による映像が、人間の無力さを容赦なくあばく。大自然が人間に牙を剥くのだ。大自然を戦争という言葉に置き換えてもいいだろう。フランク・キャプラの「失はれた地平線」で到達するシャングリ・ラ(理想郷)ほどでないが、ラストの苦い勝利が実に心地よい。
(サトウムツオ)