はやぶさ 遥かなる帰還 : 映画評論・批評
2012年1月31日更新
2012年2月11日より丸の内TOEIほかにてロードショー
渡辺謙のキャプテンシーにより、濃密なアンサンブル劇に
渡辺謙が映画に出ると、俳優仲間たちが前のめりになっているのが見てとれる。こうした「プロジェクトX」型のアンサンブル劇だと、彼の無類の求心力(キャプテンシー)は絶大だ。周囲に熱気を伝染させ、ドラマの濃密度を一気に極限まで引き上げる魔力を持つ。
今回の彼の役どころは、太陽系外の小惑星イトカワの地表から岩石サンプルを持ち帰るという世界初の高難度ミッションをやり遂げる「はやぶさ」のプロジェクトマネージャー。カリスマ的科学者というよりも、プロジェクト参加者全員の能力を適材適所で最大限引き出そうとするアメリカンフットボールのヘッドコーチのようだ。「勇気と責任を持って挑め」「自分たちの力を信じて前へ進め」と飛ばす彼の檄が、われわれの心にも強く響く。
劇中、難解な科学用語も飛び交うが、朝日新聞記者(夏川結衣)の連載レポートとしてこの計画が平易に解説されている点も好感が持てる。西岡琢也の脚本は、長い航海を続けるはやぶさとそれを見守る関係者の視線のみに絞っていて力強い筆致だ。
最後に何より感慨深いのが、苦難の連続のはやぶさに科学者として初めて願掛けする渡辺と、はやぶさ計画を長年影で支えてきた下町の町工場のおやじ役の山崎努が東京・三ノ輪の飛不動尊で出会う場面。思えば伊丹十三監督「タンポポ」(85)の師弟コンビ、ガンとゴローだ。ふたりが一緒にかりんとうをボリボリ食べながら、宇宙への思いを馳せる大いなるセリフに胸が躍るのだ。
(サトウムツオ)