のぼうの城 : 映画評論・批評
2012年10月31日更新
2012年11月2日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
脚本、撮影、演技のすべてがそろった痛快娯楽時代劇
まさに「1スジ、2ヌケ、3ドウサ」。脚本の企画・開発に十分な手間暇をかければ、映画が面白くなるなることを実証した作品だ。原作は和田竜が脚本として書いた「忍ぶの城」で2003年城戸賞受賞。その後「のぼうの城」として小説化され、08年上半期直木賞ノミネート、09年本屋大賞第2位となった痛快時代小説だ。多勢に無勢、判官ひいきな日本人にはお誂え向きな内容で、よくこんな史実を見つけたものだ。のぼう様こと成田長親が守る武州・忍城は500騎(農民を含めて2000人)の軍、対する石田三成率いる秀吉軍は20000人の大軍。余裕しゃくしゃくの秀吉軍に対しあの手この手の奇策を用いるのぼう軍の、敵の鼻を明かすような戦いぶりに笑いが止まらない。
「ドウサ」でいえば、飄々として誰からも愛される“智将”のぼう役の野村萬斎、成田家家老の“豪傑”正木丹波守役の佐藤浩市の2人が盤石の布陣。思えば、能楽師・萬斎の映画デビュー作は黒澤明監督の戦国時代劇「乱」であり、原作小説では大男だったのぼうを、萬斎は狂言回し的な愛すべきキャラに変奏させ、観る者を魅了する。(脚本でわずか1行だけだった)田楽踊りは必見だ。
共同監督の犬童一心と樋口真嗣による「ヌケ」もなかなかの出来映えだ。とくに樋口監督にとってはリメイク版「隠し砦の三悪人」(2008)の汚名返上か。惜しむらくは「七人の侍」の勘兵衛(志村喬)が広げる村の見取り図のごとく、忍城の守りの地図があれば満点なのだが、それは贅沢すぎるというものだろう。
(サトウムツオ)