HACHI 約束の犬 : 特集
日本人にはなじみ深い忠犬ハチ公の物語がハリウッドで映画になった。リチャード・ギアが主演のみならずプロデューサーまで買って出て、そのピュアで美しい「絆」の逸話を優しい眼差しで映画化した。そんな本作に、試写会を見た観客から多くの感動のレビューが届けられているが、今回はその観客の声を紹介するとともに、「HACHI/約束の犬」の見どころを、知っているようで知らないハチ公の解説と併せてお届けする。(文・構成:村上健一)
海を越え、そして再び日本人を感動させたハチ公の魅力とは?
去る7月6日~9日にかけて主演のリチャード・ギアが来日し、8日には全米に先駆けてハチ公誕生の地、日本でプレミアが行われた「HACHI/約束の犬」。そのプレミアや全国で開催されている試写会では、観客から感動の声が多数寄せられているが、まずはその一部を紹介しよう。
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★原作が日本の「ハチ公物語」なので、おおまかなストーリーは知っていましたが、観ているうちに、すっかり映画に引き込まれ、涙、涙、涙、でした。(東京都)
★試写でみました。美しい散文詩のような映画。主役はハチ。待つ姿が凛々しかったです。犬好きではなかったのですが、感動しました。(東京都)
★日本人なら誰もが知っている「ハチ公物語」ですが、内容がわかっていてもまず感動せずにはいられません!(東京都)
★「HACHI」は“信じる”ということの大切さを教えてくれた作品です。どうか、人を信じることが出来ずに苦しんでいる人に観てもらいたいと思います。(北海道)
★日本の国でこのような素晴らしい絆で結ばれた飼い主と犬の物語があることを誇りに思います! 今度渋谷駅の前のハチ公の象を見かけたら、ハチ公に声をかけてあげたいです。(東京都)
★映画で念願のハチに逢えて、 秋田犬のすばらしさ、改めて実感しました。子犬の愛らしい姿を見たら、胸がキュンなります。何はともあれ、ギアさんもハチも素晴らしいタッグを組んでました。この映画を作ってくれて有り難うと言いたいです。(秋田県)
★たった1年強しか生活を共にしなかったハチと上野先生(ハチとパーカー)。それ以降10年もの長きにわたって主を待ち続けたものは、いったい何だったんだろう。「無償の愛」と言う言葉だけでは、とても表現しつくせない、もっともっと深い絆があったように思います。(東京都)
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このように、海を越えてハリウッドで映画化されたハチ公の物語が、日本人に多くの共感を呼んでいる。そんな本作の魅力はどこにあるのだろうか?
■監督は「感動の名手」ラッセ・ハルストレムなので間違いなし!
87年の映画、06年の2時間ドラマと、2度に渡って日本国内で映像化されている忠犬ハチ公。その物語をハリウッドが映画化するというニュースは、目の肥えた映画ファンには「安易なハリウッド・リメイク作がまたできるんだろう」と想像させたかもしれないが、しかし、その気持ちは、監督のクレジットを見た瞬間に完全に誤りだったと悟ることになる。
監督のラッセ・ハルストレムといえば、今なお感動の名作として名高いジョニー・デップ主演、レオナルド・ディカプリオ共演の「ギルバート・グレイプ」(93)をはじめ、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(85)、「サイダーハウス・ルール」(99)で2度のアカデミー監督賞ノミネート、00年の「ショコラ」では、作品賞を含む5部門のノミネートをもたらした、「上質&感動ドラマの名手」なのである。
愛犬家つながりで旧友のギアから監督の指名を受けたハルストレムだが、過剰な演出に頼らず、優しい眼差しで純粋なストーリーを紡いでいく手腕を本作でも見事に発揮。ハチと飼い主パーカー、そして彼らを取り巻く人々の姿を通して、ナイーブでセンチメンタリズムにあふれた感動のヒューマンドラマとして撮り上げている。
■海を越えて人々を感動させたハチ公とは?
現在も、JR東日本・渋谷駅前の広場で銅像として鎮座しているハチ公。彼は1923(大正12)年11月秋田県生まれ、純日本種の秋田犬のオスで、翌年に、東京帝国大学(現・東京大学)教授だった上野英三郎博士(日本の農業土木学の第一人者)のもとに贈られてくる。
ハチと上野教授は、教授が渋谷駅で乗降するのをハチが送り迎えする程のパートナーシップを築くが、1925年5月21日に上野教授が大学で講演中に倒れて急逝。ハチは渋谷の雑踏の中で、亡き主人を待ち続けることになる。そんな彼の美談が広がったのは、1932(昭和7)年10月4日の朝日新聞の記事「いとしや老犬物語」がきっかけ。その後基金が作られ、1934年に銅像が製作されるが(除幕式にはハチ自身も出席)、翌年の3月8日、その13年の生涯を終える(亡骸は剥製にされ、現在も東京・上野の国立科学博物館で見ることができる。骨肉は上野博士と同じ青山墓地に埋葬。なお、銅像は戦時中の金属不足で一度徴収されてしまったため、現在のハチ公像は2代目にあたる)。
また、かのヘレン・ケラー女史が初来日した1937年にこのハチ公の逸話を耳にし、秋田犬を所望(このとき贈られた「神風」が、初めてアメリカに渡った日本犬と言われている)。ケラーはその後、1948年にハチ公像と対面を果たしており、ハチ公はもともと日本だけではなく、海外の人にも愛される存在だったのだ。
そんなハチ公の物語を、舞台こそアメリカに移しているものの、ハチと教授の絆を中心に、駅前で主人を待ちわびる姿など、日本人が抱いているハチ公のイメージを壊すことなくシンプルに、丁寧に描き出しているのが「HACHI/約束の犬」なのだ。