MW ムウ : インタビュー
手塚治虫生誕80周年となる今年、人間の心の闇をえぐった手塚の異色コミックを映画化した「MW ムウ」が公開される。政府により隠匿された、16年前にある島で住民全員が死亡した事件から密かに生き延びた結城美智雄(玉木宏)は、冷酷なモンスターになり、事件を引き起こした“MW”という存在の謎を追う。そして、もうひとりの生存者で、敬虔な神父の賀来裕太郎(山田孝之)は、結城の暴走を止めようとするが……。今回は、これまでのイメージを大きく覆す、冷酷かつダークな役どころに挑戦した結城役の玉木宏に語ってもらった。(取材・文:編集部/撮影:堀弥生)
玉木宏 インタビュー
「今までの僕のイメージは壊れるはず。それは僕にとってもありがたいこと」
“これまでにない玉木宏が見られる”――。「MW」において、間違いなくそう言えるはずだ。
「ウォーターボーイズ」やTVドラマ「のだめカンタービレ」「鹿男あをによし」のようなコミカルな青春ドラマや、「ただ、君を愛してる」といった恋愛モノ、あるいは「ミッドナイトイーグル」「真夏のオリオン」での戦う男の姿と、これまでもさまざまなジャンル、役柄に挑んできた玉木だが、今回はそのどれよりも過激で刺激的だ。
今回、玉木が演じたのは、ためらいもなく次々と人を殺めていく冷酷な殺人者という“悪役”。しかし、玉木の中では単純な“悪”と割り切っているわけではないという。
「原作や脚本を読んだ時は、確かに悪役という印象でしたが、実際に演じてみると、これは悪役ではないと思いました。結城にとっては、あれが正義なんです。そういう意味で、演じてみて役に対する印象は変わりましたね。もちろん、結城のやっていることは残酷な犯罪であることに変わりはないんですが……。ただ、この映画を見てもらえば、今までの僕のイメージは壊れると思うし、それは僕にとってもありがたいことだと思ってます」
16年前に親を目の前で殺され、賀来とともに逃げのびなければ死んでいたはずの結城は、その事件に関わった黒幕を次々と手にかけ、“MW”の謎に迫っていく。彼の前では常識も倫理観も通用しない。自身の計画を、ただ着々と進めていくだけだ。
「結城自身、最初は“復讐心”ということを自分ではわかっていなかったと思う。でも、殺すべき相手が見えた時、やはり復讐心が芽生える。僕自身も、もし同じ立場だったらきっと復讐心は感じると思う。もちろん、結城のように実際に人を殺せるかと言ったら、それはできないですけど。そういう意味で、根底にある結城の気持ちはわかるような気がしました。客観的に見れば、結城のやることは歪んだ正義ですが、彼にとってそれは正義でしかない。全面的に共感できなくても、その根底の気持ちがわかれば、演じることはできると思いました。それに、殺人という普通では経験できないことをやるわけだから、それをいかにリアルに見せるかというところで、役者としてイメージ力が問われる。だからこそ、やりがいのある役だと思いました」
記憶に新しいところでは「ダークナイト」のジョーカーなど、映画史に残る悪役というものは数多く存在するが、結城美智雄もそんなダークヒーローの系譜に属する。
「これまで日本の映画の主人公としては、あまりいなかったタイプですね。僕はハンニバル・レクターのシリーズが好きで、特に『羊たちの沈黙』が一番好きですが、今回の原作や脚本を読んだ時に、パッとイメージが浮かんだのは、『ハンニバル・ライジング』でレクターを演じていた若い演者さん(編集部注:ギャスパー・ウリエル)でした。すごく猟奇的な感じがして、アンソニー・ホプキンスがやっているものより怖い感じがした。それはきっと、名前があまり知られてない俳優さんだからということもあるんでしょうが、全体像としてそんな風に見えればいいなと思いました」
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