オアシス(2002)

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

「ペパーミント・キャンディー」のイ・チャンドン監督が、社会に適応できない青年と脳性麻痺の女性の愛の行方を描き、第59回ベネチア国際映画祭で監督賞などを受賞した恋愛ドラマ。

ひき逃げ死亡事故で服役し刑務所から出たばかりの青年ジョンドゥは、家族の元へ戻るが迷惑がられてしまう。ある日、被害者家族のアパートを訪れた彼は、寂しげな部屋にひとり取り残された被害者の娘コンジュと出会う。重度の脳性麻痺を持つ彼女は、部屋の中で空想の世界に生きていた。互いに惹かれ合い、純粋な愛を育んでいくジョンドゥとコンジュだったが……。

「ペパーミント・キャンディー」でも共演したソル・ギョングとムン・ソリがジョンドゥとコンジュをそれぞれ演じた。2019年、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」公開にあわせて4Kレストア・デジタルリマスター版で公開。2023年の特集上映「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」では4Kレストア版で公開。

2002年製作/133分/PG12/韓国
原題または英題:Oasis
配給:JAIHO
劇場公開日:2023年9月9日

その他の公開日:2004年2月7日(日本初公開)、2019年3月15日

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第59回 ベネチア国際映画祭(2002年)

受賞

特別監督賞 イ・チャンドン
マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞) ムン・ソリ
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映画レビュー

4.0圧巻

2024年4月5日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

難しい

これほど観ている側の居心地を悪くする作品は少ない。なぜ居心地が悪いのか?
このラブストーリーに彼ら二人の思い描くエンディングはやってこないと心のどこかで思っているから。
スクリーンのなかなら、奇跡がおこり姫も将軍も慎ましいながらも幸せに暮らす未来もあるかもしれない。
現実にはどうか。
プロフィールだけでいけば、前科3犯(冤罪含むけど)性的加害の傾向、社会的ルールを理解する力の低さ、経済的活動能力の低さ。問題解決の方法をことごとく誤学習。
片や、生活のほとんどにヘルプを必要とする脳性麻痺。
わかっている。この二人がやっと手に入れた肩書きなしの愛情は本物かもしれない。どうにかならないものかと苦しむ私と、なにも出来ないと諦める私と両方がいる。
確かなことは、二人がこの愛によって幸せになるかもしれないし不幸になるかもしれない。どちらにしてもその機会すら奪う権利は私にはない。

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イズボペ

4.0「演じる」のではなく、「生きている」

2020年8月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 日本では2004年に初公開されたイ・チャンドン監督の「オアシス」(2002)は、恋愛映画の概念を覆すような、詩的でありながら破壊力を持った作品です。ソル・ギョングが演じる社会に適応できない青年と、ムン・ソリが演じる脳性麻痺の女性の極限の純愛を描き、第59回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)、ソリがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しました。

 主演ふたりの演技には驚愕します。ギョングが演じる刑務所から出所したばかりの青年ジョンドゥは、落ち着きがなく、周囲をイラつかせ、29歳ながら子供のように無邪気で、家族からも煙たがられてしまう。ソリが演じる脳性麻痺のコンジュは、白いハトや蝶々が飛んでいるように見える部屋で、壁にかけられた異国の絵を眺め、ラジオを聴いてひとり夢想する日々。

 そんな社会から厄介者扱いされていた二人が出会い、彼らなりの愛を育んでいく姿に心打たれます。ギョングもソリもこの難役を「演じる」のではなく、「生きている」ようにしか見えません。チャンドン監督の名作「ペパーミント・キャンディー」(1999)でも共演していますが、同じ役者だとは気づかないくらいです。

 そして、脚本も手掛けているチャンドン監督の演出には唸らされます。障がい者を扱ったデリケートな物語ですが、二人の純愛を極限まで描き切ることで、映画的なファンタジー、もしくはコメディの領域にまで高めてしまうのです。車椅子の上で自由に動けずにいたコンジュを映していたカメラがパンしてジョンドゥを映していると、コンジュが健常者の姿になってフレームインし、普通のカップルのようにじゃれ合うシーンなどは秀逸。現実と幻想の境界線を軽やかに越え、交じり合わせてしまう映画表現には胸が熱くなり、改めて映画の力を感じることができます。

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和田隆

5.0不器用な二人の不器用な愛

2024年4月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

 前年の映画賞で高い評価を得た『ジョゼと虎と魚たち』をはじめとして、障がい者を扱った映画は少なくないが、人間への深い洞察力と映画が与える衝撃の大きさにおいて本作は一線を画している。鏡に反射した光が蝶や鳩に変化するシーンや、重度の障がいがある主人公が、一瞬、健常者のように立ち上がってはしゃいでみせるショットなどで、彼女の感情や心の動きを表現する演出が見事だ。

 脳性麻痺の女性を演じるムン・ソリの壮絶な演技が観る者を圧倒する。映画でここまでやっていいのだろうかという不安すら感じさせられるが、そんな映画のタブーさえもが差別なのだという、作者たちの強い意志が本作を支えている。『ジョゼ虎』では、男は結局、障がい者の彼女のもとを去っていったが、ここでは、警察に囚われた男は、脱走し彼女のオアシスに不安の影を落とす街路樹の枝を切る。ラジオのボリュームを上げてそれに応える彼女。不器用なふたりの精一杯の心の吐露が切なくいとおしく、見る者の胸を締め付ける。涙が溢れて止まらない。

 空想の世界で遊ぶしかなかった彼女が、明るい日差しの差す部屋で掃除をしているさりげないラストが、人間の生きる希望を象徴して美しい。名作である。

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inosan009

4.5シームレスにつながるリアリティとファンタジー

2024年2月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

多くの人は体験していないものの、どちらかと言えば直視を避けていたのかも…と思わされる設定に、最初は少しどう観ていけばいいのか迷った。
特に、主人公たち2人の最初の出会いや、花束を持った訪問の場面などは、観客としての自分たちはどこに連れて行かれるのか、正直不安だった。
けれど、観終わってみれば、見事にイ・チャンドンに引っ張り回され、深い余韻に浸っている自分がいる。
あんな出会い方がきっかけで、思いを通わせられるようになるのかなぁとも思わないでもないが、それも含めて、映画的なリアリティとファンタジーが、シームレスにつながっているところがいい。

ソル・ギョングもムン・ソルも、「ペパーミント・キャンディー」のあの2人なの??と思うほど、全く違うキャラクターを演じ切っていて、そこにも驚く。特にムン・ソルは、場面によっても全く違う人物になりきっていて、とにかくびっくりした。
ただ一つ「ペパーミント・キャンディー」や「シークレット・サンシャイン」でも感じたのだが、歌がとても効果的に使われているものの、それがどういう歌で、いつ頃、どんな流行り方をしたのか知らないので、そこを充分受け取れないのがちょっとさみしい。

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sow_miya