散歩する惑星

劇場公開日:2003年5月3日

解説

カンヌの国際広告祭で8度のグランプリに輝いているCF界の巨匠、ロイ・アンダーソンの監督作。どこかの惑星で展開するブラックでシュールな出来事の数々を、CGを一切使わずローテクを駆使して(?)アナログ感たっぷり描く。2000年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。

2000年製作/98分/スウェーデン・フランス合作
原題または英題:Sanger Fran Andra Vaningen
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2003年5月3日

あらすじ

とある惑星のとある場所。主人公は、保険金目当てに自分の経営する家具屋に火を付けたが、炎と共にすべてを失った男カール。彼にはふたりの息子がいるが、長男トーマスは優しい性格ゆえに心を病んでしまい、今は誰とも話せなくなってしまった。次男シュテファンは、兄に代わって義姉と子供たちの面倒を見ている。トーマスを見るとつい怒鳴ってしまうカールは、救いを求めて教会を訪ねる。しかし神父も悩みを抱えている様子だ。街中はデモをする人々であふれ、不安な人心につけ込んでカールは一儲けをもくろむが……。

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スタッフ・キャスト

  • Kalleラース・ノルド

  • Stefanシュテファン・ラーソン

  • The Magicianルチオ・ブチーナ

  • The 100-year-old generalハッセ・ソーデルホルム

  • Pelleトルビョーン・ファルトロム

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受賞歴

第53回 カンヌ国際映画祭(2000年)

受賞

コンペティション部門
審査員賞 ロイ・アンダーソン

出品

コンペティション部門
出品作品 ロイ・アンダーソン
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映画レビュー

4.5 灰色の世界

2025年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

ロイ・アンダーソン監督による北欧映画『散歩する惑星』は、まるでこの世がすでに死後の世界に変わってしまったかのような、奇妙な静けさに満ちた作品でした。登場人物たちは皆、灰色の顔をして、灰色の空気の中で、淡々と日常を続けています。彼らは生きているのか、あるいはすでに死んでいるのか――その曖昧さの中に、現代社会の虚無と停滞が浮かび上がっていました。

本作のすべてのシーンはスタジオで撮影されたセットだそうです。道路も空港も、渋滞する街も、現実のように見えてどこか人工的で、現実感をわずかに欠いています。黒澤明のように現実のディテールを積み上げて世界を作るのではなく、アンダーソンは現実を“そぎ落とす”ことで、人間の存在そのものをむき出しにしているように感じました。ミニマルな造形のなかに、死んだ文明の断面が静かに横たわっています。

印象的なのは、目隠しされた少女を大勢の大人たちが崖から突き落とす場面です。後ろに立ち並ぶ群衆はおそらく絵や人形で再現されており、まるで儀式のように若者が犠牲にされていく。そこに描かれるのは、高齢化した社会が未来を犠牲にしてまで現状を維持しようとする構造です。老人たちはグランドホテルで酒をあおり、堕落の極みに沈みながらも、なお制度と秩序にすがっています。その姿は、ファシズムの残滓を思わせる完全なる支配の亡霊です。

一方で、この映画には不思議な可笑しさがあります。吊るされた女性の死体も、つきまとう霊も、どこか滑稽で、恐ろしくない。ロイ・アンダーソンのカメラは常に遠くから見つめ、悲劇を悲劇としてではなく、「人間という生き物の奇妙さ」として描き出します。そこには皮肉ではなく、哀れで愛おしいものへのまなざしがあります。絶望を笑うというより、「もうどうしようもないが、それでも見る」という受容の笑い。彼の“コミカルさ”は、深い慈悲と同義なのだと思います。

『散歩する惑星』は、裏を読ませる映画ではありません。意味を隠すのではなく、すべてをそのまま絵として提示します。単層的で、抽象的で、それでいて心に刺さる。私たちもまた、この灰色の世界の一部なのだと静かに告げられる作品でした。

評価: 85点

鑑賞方法: Amazon Prime

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neonrg

4.0 やみつき

2025年10月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

退屈だと思ったがなぜか2回観てしまった。
皮肉すぎてハマる。
不条理の悲劇が喜劇に見えてくる(ために見せてくる)所々の変な間と画面遠景で何か起きてる感がヤミツキになる。

ところで、精神病院と あの儀式は北欧に馴染み深いものなのだろうか。

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ordinal

3.5 北野武のコントを思い出した。

2024年6月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

楽しい

知的

最新作の「ホモサピエンスの涙」と過去二作品をほぼ同時に鑑賞。三作品ともワンシーンワンカットなためか、あのシーンはどの作品だったかなとちょっと混同してしまう。
ただ、本作が一番コメディー色が強かったように思う。冒頭、人体切断マジックでほんとに被験者の胴体をのこぎりで切ってしまうマジシャン。次の場面で腹を切られた被験者が病院に担ぎ込まれるという、まさにコント。その他にもいきなり通行人の男たちから殴るけるの暴行を受けたりと不条理コントが続く。

主要人物は自らの家具店を放火した店主とリストラの銘を受けた会社役員。この家具店店主にとりついた幽霊のくだりが面白かった。
延々と続く渋滞のシーンは何を意味するのかな。スェーデンは近代において欧州の中でも勝ち組で福祉国家としても充実した国。国として停滞してるイメージはないけど。強いて言えば移民問題で揉めたくらいか。
あの少女が生贄にされるシーンも何を風刺したのかよくわからなかった。スェーデンで若者が犠牲になった時代なんてあったのかな。それともスェーデンとは関係ないのか。

この監督の作品はその映像がとても魅力的なので惹きつけられる。見返すたびに発見があるかも。

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レント

4.5 タイトルなし(ネタバレ)

2023年6月30日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD
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マサシ