南風(1933)

解説

「シナラ」「南海の劫火(1932)」と同じくキング・ヴィダーが監督した映画で、「あめりか祭」のフィル・ストングが書いた農民小説に基づいて「仮面の米国」「春なき二万年」のブラウン・ホームズが作者ストングと共同して脚色にあたった。撮影は「グランド・ホテル」「ホワイト・シスター(1933)」のウィリアム・ダニエルスが受け持っている。主演者は「戦く幻影」「グランド・ホテル」のライオネル・バリモアと「暴風の処女」「極楽特急」のミリアム・ホプキンスで「今日限りの命」のフランチョット・トーン、「国際喜劇ホテル」のスチュアート・アーウィン、「街の風景」のビューラ・ボンディ、「心の青空」のグラント・ミッチェル、少年俳優タッド・アレクサンダー等が助演している。

1933年製作/アメリカ
原題:The Stranger's Return

ストーリー

ストール爺さんは当年85才の老農夫だ。代々継いで来た広大な農場の後継者たらんと狙う欲深の親族たちは、爺さんの死ぬるのを待っている禿鷹みたいだった。爺さんはその3人の親類を皆嫌っていた。そこに、爺さんの孫娘ルイズがニューヨークから帰って来た。ルイズは爺さんの長男の娘であるが、父に死に別れ、夫とは離婚して、都会生活に嫌悪を抱いて、静かな田園に疲れた神経を休めに来たのであった。ストール爺さんとルイズは血が通っているだけにすぐに意気投合し、毎日手を携えては農園を散歩した。ある日老人は隣の農場の持ち主で大学卒業生の青年農夫ガイ・クレインに紹介した。2人はお互いに好き合った。そして人目を忍んで2人は恋をささやく身となった。しかし2人の恋は果敢ないものだった。ガイには妻があり子供があった。そしてガイは妻子を不幸に突き落すことはできないのだった。2人の恋を発見した親戚たちはそれを口実にルイズを放逐せよ、と老人に迫った。ストール老人は俄に発狂した風を装い、南北戦争の戦場にたっている様な振る舞いをした。親戚は老人を顛狂院に入れてしまおうとはかり医師の診断を求めた。医師たちが着くと老人は正気に返って親戚たちの裏を掻き、彼らを追い出すことに成功した。老人はルイズを後継者にする手続を済して、欲朝眠るが如く往生をとげた。その時ガイはルイズの元に別れの挨拶に来た。農園に一生を捧げるはずだったガイは都会へ赴き都会の娘ルイズは農場に踏み止る運命となったのである。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.0洋の東西・時代の昨今は問わないのか。

2023年8月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

いくらその気骨を評価している男だからといって、彼女の伴侶として、既に妻子のある男性を引き当てようというのは、いささか「やり過ぎ」の感は否めませんが…。
「血は水よりも濃い」とでもいうのか、血の繋がった孫に自分の全財産(農地)を継がせたかったという気持ちは、評論子にも、分からない訳ではありません。

妻とは言っても、「その時々の男の欲望を満たすために飼われていたような」(後記の
『犬神家の一族』の作中の台詞)女性が産んだ子よりも、(不倫の関係ではあっても)本当に自分が愛した女性が産んだ子に財産を遺そうと考えて、子どもたちが自然と争ってお互いがお互いに自滅することを仕向けるような遺言を遺す(『犬神家の一族』1976・2006年)。発狂したふりをして、二人の義理の娘を放逐して、ルイーズに財産を遺そうとするストール爺さんも、前記の『犬神家の一族』の犬神佐兵衛翁と同じような考えであったとすれば、1933年当時のアメリカの片田舎にも、同じような親族間の骨肉の争いがあったということで、そういう争いは洋の東西・時代の昨今を問わないということでしょうか。

一見するとコミカルなような描かれ方もしている本作ですけれども、そう考えてみると、そういう愛憎の醜さというのか、そういうものが観終わってズシリと気持ちに重たい一本だったと思います。評論子は。

以前に、ある地域おこし(まちづくり)団体で、「土と風の会」という団体の方とお話をする機会がありました。
評論子には少しく風変わりな団体名と思われたので、聞いてみたところ、「土」は地域に土着しているものということで、地域にもともと住んでいた者、「風」は遠くから理想を運んでくるものということで、他の地域から移住をしてきた者をそれぞれ意味していて、両者が仲良く地域おこし(まちづくり)に取り組んでいくという理念から名付けた団体名とのことでした。
本作の邦題の「南風」というのも、ニューヨークという都会から、田舎にはない近代的な理想を運んてきたルイー(風)と、農民として畑に根づいて生きるガイ(土)との対比をいうものだったのでしょうか。そう考えると、耕される土に着目したラストシーンが、グッと活きてきそうですが、反面、「南風」という、明るくて開放的、軽やかななイメージは、あまり本作には似つかわしくはないのでは…と、思いました。評論子は。

<映画のことば>
「医者の意見なら、死んでから、いくらでも聞く。」

食べたいものを食べたいように食べて、飲みたいものを飲みたいように飲んで、それで死ねるなら本望というストール爺さんは、それはそれで「幸福な人生」なのかも知れません。

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