ネタバレ! クリックして本文を読む
〇作品全体
主人公が事件に巻き込まれて…というあらすじの作品は数えきれないほどあるが、これほどまでに主人公の行動が影響を及ぼさない作品も珍しい。
物語の始まりは主人公・デュードは別人と間違われて敷物を汚され、それを弁償してもらおうとするところから始まる。しかしこれが最初で最後の自発的な行動だった。
あとはもう、リボウスキの策略とモードやニヒリストの介入、ウォルターの暴走にただただ翻弄されていく。それに対しデュードは怒るときもあるが、大体のシチュエーションで「なすがまま」になっている。コメディに振っているわけではないのに滑稽さをまとっているのが面白い。冒頭で中国人に襲われる場面があるが、頭を便器に突っ込まれても平然とサングラスをかける余裕がある。アクション映画の強キャラみたいな仕草だが、デュードが相手を威圧するシーンはまったくと言っていいほどない。そのギャップだけで笑えた。
主導権はないけれど、ジェットコースターのような物語の中で自分のペースを崩さない主人公。それだけで独特な空気感をまとって我々を引き込んでしまうのだから、なんとも不思議だ。
そしてその空気感をさらに独特なものとしているのは、物語のすべてを「カウボーイ姿の男から聞いた笑える話」としているからだと思った。デュードの物語としては災難に巻き込まれただけで、登場人物に成長も反省もない。誰が得をして誰が損をして…というのもあまりなく、勝者も敗者もおらず、ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。
それもそうだ。この物語は酒場で聞く「笑える話」なのだから。「それでいい」と感じさせる演出が巧い。
ナレーションを冒頭の場面だけにしているのも見事だ。終盤で現れるカウボーイ姿の男はカメラに向かってこの物語が「笑える話」として語っていることをシームレスに再認識させる。この認識のさせ方、納得のさせ方が見事だ。
主導権のない主人公も、勝者のいない結末も、「物語」という意味では物足りないかもしれないが、「笑える話」ならそれでいい。いや、むしろこの主人公と結末が、ちょうどいい。見終わった直後、そう思った。
〇カメラワークとか
・カット割りのテンポとアイデアがとても良かった。屋内の光の玉ボケからロサンゼルスの夜景へ場面転換したり、ボーリングのピンを置くマシーンが降りるとともにカットを割る。音でカットを割ってる場面もあった。このテンポ感が「話し上手から聞く、笑える話」っぽさを作ってたりしてた。
・夢の中のシーン、デュードの頭の悪さがほどほどに出ていて面白かった。公開時期のCGとしては完成度も高かった気がする。
〇その他
・常時微妙に狂ってて暴走しまくるウォルター。コーエン作品っぽいキャラクターだ。ところどころ普通っぽく見えて実はすごいやべーやつみたいな。『ファーゴ』の殺人犯・ゲアもそんな感じだった。
・一番笑ったのは遺灰がめちゃくちゃかかっちゃうところ。ウォルターは真面目にやってるのに、全然ダメなのが面白い。