ドクトル・ジバゴ(1965)

ALLTIME BEST

劇場公開日:1966年6月18日

解説・あらすじ

「アラビアのロレンス」の巨匠デビッド・リーンがロシアの作家ボリス・パステルナークの同名小説を映画化し、1966年・第38回アカデミー賞で5部門に輝いた大河ドラマ。ロシア革命に運命を翻弄された男女の愛を壮大なスケールで描く。19世紀末のロシア。医学生で詩人のユーリー・ジバゴは、育ての親の娘であるトーニャと婚約する。2人の婚約を発表するパーティで、近所の仕立屋の娘ラーラが痴情のもつれから発砲事件を起こす。1914年、第1次世界大戦に医師として従軍したジバゴは、戦場で看護師として働くラーラと再会。2人は互いに惹かれ合うが……。「アラビアのロレンス」のオマー・シャリフがジバゴ、「ダーリング」のジュリー・クリスティがラーラを演じた。挿入曲「ラーラのテーマ」も印象を残し、作曲を手がけたモーリス・ジャールがアカデミー作曲賞を受賞した。

1965年製作/197分/イタリア・アメリカ合作
原題または英題:Doctor Zhivago
配給:MGM
劇場公開日:1966年6月18日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第38回 アカデミー賞(1966年)

受賞

脚色賞 ロバート・ボルト
撮影賞(カラー) フレディ・ヤング
作曲賞 モーリス・ジャール
衣装デザイン賞(カラー) フィリス・ダルトン
美術賞(カラー)  

ノミネート

作品賞  
監督賞 デビッド・リーン
助演男優賞 トム・コートネイ
編集賞 ノーマン・サベージ
音響賞  

第23回 ゴールデングローブ賞(1966年)

受賞

最優秀作品賞(ドラマ)  
最優秀主演男優賞(ドラマ) オマー・シャリフ
最優秀監督賞 デビッド・リーン
最優秀脚本賞 ロバート・ボルト
最優秀作曲賞 モーリス・ジャール
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写真提供:アマナイメージズ

映画レビュー

4.0 壮大なる不倫大河物語

2025年12月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭7(2016/7/18 TOHOシネマズ市原)
午前十時の映画祭14(2025/2/23 TOHOシネマズ市原)
…にて。

寡作家であるデビッド・リーンが『戦場にかける橋』(‘57)、『アラビアのロレンス』(‘62)の代表作2作品を連発した直後の、本作もまた大作だ。
ソ連でのロケが不可能だったので、スペインのマドリードかどこかにオープンセットでモスクワの街を再現して、路面電車まで通したというのだから驚く。
ロシアの大自然のシーンもスペイン郊外でのロケで、ジバゴたちが疎開するウラル山脈の農村の家もそのロケ地にロシア風の建物を建てたものらしい。

さて、『戦場に…』は第二次世界大戦が、『アラビアの…』はオスマン帝国でのアラブ反乱戦争が物語の背景で、本作は第一次世界大戦からロシア革命に至るロシアの内乱を物語の背景としている。
しかし、前2作品の主人公たちとは異なり、本作の主人公たちは兵士ではなく内乱に翻弄される市民だ。
しかも、魅惑の娘ラーラ(ジュリー・クリスティ)と詩人であり医師のユーリ・ジバゴ(オマー・シャリフ)の道ならぬ恋の物語である。
この壮大な不倫物語は、一面ではジバゴをめぐるラーラとトーニャ(ジェラルディン・チャップリン)という2人の女性の物語であり、別の一面ではラーラを取り巻くジバゴ、コマロフスキー(ロッド・スタイガー)、パーシャ(トム・コートネイ)、ジバゴの異母兄(アレック・ギネス)の4人の男の物語でもある。

デビッド・リーンは既に不倫映画『逢びき』(‘47)で高い評価を得ているし、『旅情』(‘55)でも情熱的だが成就しない恋物語を描いているが、それらのメロドラマとも本作は異なっている。
内乱という時代のうねりの中で彼らは数奇な運命を辿らなければならず、熱愛と倫理感の狭間の苦悩のみならず、生きるための苦闘を強いられるのだ。

ただ、この映画は長大な大河小説(※)を原作としていて、3時間20分に迫ろうかという長尺でも内乱の状況変化や人物像の描写が不十分な気がする。
特にコマロフスキーについては説明が全く不足していて、ラーラの母親(エイドリアン・コリ)との関係、革命政権下での地位などが分からない謎の人物になっているから、ラーラの亡命を支援するという申し出もその真意に怪しさが残ってしまう。小説ではジバゴが子供の頃のコマロフスキーとの因縁も描かれているのだが、そこが省かれているのは仕方がない。
ジバゴの妻となるトーニャもヒロインではないとはいえ人物像が薄い。父親(ラルフ・リチャードソン)と亡命しなければならなくなり、ラーラを訪ねてバラライカを渡し、ジバゴのことを託したという経緯がラーラの言葉だけで説明されるのだが、トーニャとジバゴの幼馴染の頃から恋愛が芽生える頃までが描かれていれば二人の絆が理解できるから、ラーラの言葉でトーニャの決意をジバゴが汲み取ることができるのも納得できると思うのだが、これもきりがないので仕方がない。

という訳で、一本の映画に収まりきらない大河小説とリーンは悪戦苦闘し、完全勝利とはならなかった気がする。
だからか、次作『ライアンの娘』(‘70)でも、アイルランド独立戦争を背景にした壮大なる不倫物語に再度挑戦したのかもしれない。

本作のヒロインには、物語の舞台となる時代の、あるいは製作当時においても尚そうだったかもしれない、男に対して身分も力も弱い女性の立ち位置が反映している。
17歳のラーラは、母親のパトロンであるコマロフスキーの要求に抗えない。
馬車でのキスシーンでは素直に受け入れているし、手籠めにされる場面では最初は抵抗しつつもラーラの手はコマロフスキーを抱きしめてしまうのだ。
力のある男に従わなければ生きられなかった女性は、結局肉体も男に任せてしまうもの(女性自身が受け入れるもの)だという男目線の描写だ。
だが、意味合いはともかく、映画技法としてこのシーンは、直接見せないことでエロティシズムを漂わせる見事な表現で、ひとつのひな型となった。

デビッド・リーンの持ち味はスペクタクルの画作りだと思うが、夜のベルリンでデモ行進を騎馬隊が蹴散らす場面は凄まじいばかりだ。
だが一方で、先にあげたエロティックなシーンをはじめ、窓際に燭台を置くとロウソクの熱で窓の霜が徐々に溶けていくのを建物の外から見せるシーンとか、窓越しにジバゴが見つめる庭の花が、ラーラのいる街に咲く花にオーバーラップするシーンとか、情緒豊かで芸術的なシーンも多く見られる。

そしてなにより、本作の最大の収穫はジュリー・クリスティ。ロシア人ぽくはない(ロシア人をよく知っているわけでもないのに言う)が、おそろしく整った造形的な美しさもさることながら、出会う男出会う男をたちまち虜にしてしまう、魔性とは少し違う求心力を持つ女。彼女以外に誰が演じられるかと感じるほどだ。その眼には強さもあり儚さも宿って、放っておけないと男は感じるのだが、彼女自身は男に依存しない強さも持っている。

最後にジバゴが見たのは、本当にラーラだったのか。デビッド・リーンは、あえてその女性の顔を写していない。これは、ラーラだったとも、見間違えた別人だったとも解釈できるような演出だ。
あの正に命を落とそうとしている瞬間に、間近にいて気づかれないすれ違いの悲しさと、見間違いだったとしてもラーラの元気な姿を見た安堵と、ジバゴにどっちの思いを抱いて死なせてやるか、観客がそれぞれに受け止められるようになっている。
私は後者だと思っている。

物語の結末、異母兄のイエブグラフ・ジバゴが弟の生別れの娘を探していたのは、弟のためではなかったことが語られるのは、ある意味衝撃の展開だ。
その娘がバラライカを肩にかけ、彼女の恋人が「誰に教わったわけでもないのにプロ級の奏者だ」と言うのを聞いて、イエブグラフは「遺伝だな」とつぶやく。
ところが、劇中でユーリ・ジバゴがバラライカを弾く場面はないのだ。

※著者のボリス・パステルナークは本作でノーベル文学賞を受賞するも、国家の圧力によって辞退させられた…とか。

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kazz

5.0 雪原を渡る光たち

2025年10月16日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

ドキドキ

高校の時の友人に、この映画が好きだったために大学をロシア語科に決め、北海道に行ってしまった人がいます(女性です)。とにかくラーラが綺麗、大好き!とのことでした。
私がドクトル・ジバゴを観れたのは20代になってからで、はじめあまりピンとこず、でもその後観る機会が来るたびに観て、今では大好きな作品です。

煎じ詰めれば不倫の話、なのですが、清濁併せ呑んで壮大に清冽、というか…とにかく凄い。デビッド・リーン節にやられてしまう。

ジバゴとラーラが再会する(してしまう)場面の、ラーラの目元にだけサッと光が差している、見てはいけないような美しさ。
あってはならないのに会ってしまった、二人の心象が仄暗い中の一条の光に集約されているようでした。

ずっと後に、「キャプテンアメリカ・ウィンターソルジャー」を観た時、暗い台所にウィンターソルジャーがひっそり座っていてその目元にだけライトが当たってるシーンがあり、「なるほど、美人にだけ許されるライティングなのだな」と思ったものでした。(すみません)

雪原の果ての、氷に閉ざされた屋敷も美しい。スコーンと左右にひらけまくった、無慈悲なくらい広大な景色ばかりなのに、曰く言い難い叙情があって、何度観ても溜息が出ます。
「もー、男ってやつぁ!!」と言いたくなる場面もたくさんあるんですが…。

今回再見して、以前には印象薄かったジェラルディン・チャップリンがとても良い、と気が付きました。こんないい奥さんいないよ…でも、こりゃ男の都合の良い願望だね〜と切捨てられない奥行きがある。デビッド・リーンだから仕方ない。
物語も人物も幸福度はとても低いと思うのだけど、それぞれの運命を見送って後味はなぜか爽やか。最後のバラライカのお陰かもしれない。

余談
これを書いてて、ロシア語科に進んだ友人からの誕生日プレゼントが「ラーラのテーマ」のオルゴールだったことを思い出し、それ私にじゃなく、彼女が自分に欲しかった物じゃないかと今更気が付きました。元気かな。

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えふいーねこ

2.0 大作=劣化の代表作

2025年4月12日
iPhoneアプリから投稿

せっかく大金投じた大型セットにひどい照明に押し付けがましい音楽と凡庸なカメラワーク。大河小説は映画に向かないのに、まだやってたのか。
台頭するテレビに対した大作がハリウッドを劣化させたことがとてもよくわかる。

通俗的な演出で萎えたけど、辛うじて演技が堪えられる程度で何とか3時間越えでも頑張れた。

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ジャパニーズ先住民

4.0 全く飽きないどころか終わって直ぐにもう一度観たくなる

2025年3月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

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ねこたま