夜の鼓

劇場公開日:

解説

近松門左衛門の『堀川波の鼓』より、「張込み」の橋本忍と、「禁じられた唇」の新藤兼人が脚本を執筆、「純愛物語」のコンビ今井正が監督、中尾駿一郎が撮影したもの。主演は「白い悪魔」の森雅之、「黒い花粉」の有馬稲子、「美徳のよろめき」の三國連太郎。ほかに雪代敬子、日高澄子、東野英治郎、菅井一郎、柳永二郎など。

1958年製作/95分/日本
原題または英題:The Adulteress
配給:松竹
劇場公開日:1958年4月15日

ストーリー

鳥取藩御納戸役小倉彦九郎は、主君と共に参勤交代で在京すること一年二カ月の後、懐しの国許へ向った。彦九郎は江戸での加増を、一刻も早く家で待っている愛妻のお種にしらせようと心をはやらせた。帰国してしばらくたつと、彦九郎は何か周囲の変な様子に感づいた。義兄の政山三五平をたずねるが、妹のおゆらも、義母のお菊も、口を濁して語ろうとしない。彦九郎はそこで伯父の黒川又左衛門のところに行った。又左衛門は苦い顔をしながらお種と鼓師宮地源右衛門の不義密通が、家中に知れわたっていることを告げた。彦九郎は家にもどってお種を激しく詮議したが、彼女の目には一点の影もなかった。何事もなかったという妻の申開きに、彦九郎は安心するのだった。しかし人の噂は一向におさまらない。遂に又左衛門を中心に家族会議を開くことになった。それが終ったあと、問いつめる彦九郎に、お種は語った。彼女の実家での桃祭りの日、源右衛門を招いていた。酒を飲みすぎたお種は、以前から彼女にいい寄っている磯部床右衛門をはねつけた。刃物でおどかす床右衛門の前に屈しかけた時、近づいた人影--源右衛門は現場の口封じと、彼女自身の酒の勢いで彼に身を任してしまった。一晩中お種を責めつづけた彦九郎も、朝になって落着きをとりもどした。妻の過ちを許そうと思いなおしたが、武家社会のしきたりはそうさせなかった。死にたくないと叫び逃げるお種を、彦九郎は後から斬り殺した。京都の堀川--彦九郎が源右衛門の家の前に弟と共に立っていた。不意を衝かれた源右衛門はもろくも討れてしまう。集る群集の中で、彦九郎は「妻仇討ち」の成就を叫んだが、その頬は、何故かゆがんでいた。

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映画レビュー

健全は死の上に成り立つ

2024年1月3日
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古さがないのは、テーマが普遍的だからであろう。 嫉妬。不倫。復讐。人の噂。 現代からすれば、そんなことで人は死なないとあかんのか、と思いもするが、昨今のヤフコメによる吊し上げや袋叩きを見るにつれ、肉体的死刑と精神的死刑の差でしかないのではないかと思う。 不倫をした女が自害。それだけ聞けば「古臭い」と思うかもしれないが、古代ユダヤでは不倫は石打の刑で女は処罰されていた。同じ様子は「その男ゾルバ」でも描かれていた。 健全な社会のために、どれだけ多くの人が殺され、自害していったのか。 健全は殺人の上に成り立っている。 脚本の妙で、少しずつ事実が明らかになっていくさまはドラマティックである。 うんうん、辛かったんだね、と許したくなるところだが、この時代の人は許さない。 偏狭というか頑固というか。 ルールや決まりがあるってしんどい。そしてそのルールや決まりを作ったのも人間なのだ。

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