マークスの山

劇場公開日:

解説

連続殺人事件とその裏に潜む大きな影の存在に、真っ向から戦いを挑む捜査員たちの姿を描いたサスペンス。原作は第109回直木賞を受賞した高村薫の同名長編小説で、監督は「平成無責任一家 東京デラックス」の崔洋一。95年度キネマ旬報ベストテン第9位。(R指定)

1995年製作/138分/R/日本
配給:松竹
劇場公開日:1995年4月22日

ストーリー

東京・目黒区八雲で、暴力団吉富組元組員の畠山宏が殺害される事件が発生した。遺体の頭部には、直径1センチ程の特殊な穿孔が認められ、それは事件の異常性を物語っていた。この事件には、有能ではあるが少々強引なところもある合田雄一郎警部補をはじめとする警視庁捜査一課七係が担当となり、捜査が開始された。畠山のアパートなどから、シャブと30口径のカートリッジ、分不相応な大金を押収。さらに、それに関連するような人物が畠山宅を訪問していたというタクシー運転手からの証言を得た合田たちは、畠山の住所を正確に知っている人物を洗うのだった。数日後、今度は北区王子で法務省の刑事局刑事課長の松井浩司が殺される事件が起こった。頭部の傷が畠山のものと酷似しているとの報告をうけた合田は、大塚監察医務院に急行すると、独断で解剖を許可してしまう。ところが、それを知った王子北署の須崎靖邦警部補が、合田の勝手な行動に怒りをぶつけてきた。彼は本部からの連絡で、解剖を引き延ばすよう指示されていたのだ。情報を流さない互いの捜査の仕方に、ライヴァル意識剥き出しの合田と須崎。しかし二人は、この事件の裏に潜む得体の知れない者からの圧力を感じずにはいられないのだった。青山斎場での松井の葬儀は厳しい管理の下で執り行われ、彼らの動きは封じ込められてしまう。辛うじて有沢が入手した式次第から松井の経歴などが明らかにされ、畠山と松井を結んだ線上に林原雄三という弁護士が浮ぶ。林原は畠山の弁護士であり、松井とは修學院大学螢雪山岳会の同期という人物だった。この男が事件の鍵を握っていると睨んだ合田は、接触を禁じられた須崎と密会。修學院大学螢雪山岳会という名を須崎に流す。だが、それについて調べを進めていた須崎は、皇民憂国の会の片桐義勝と名乗る男に刺されてしまった。一方、林原の留守に聞き込みを行った合田と有沢は、事務員と銀行員の会話から林原が恐喝されている疑いを持つのだった。またその頃、高木真知子という金町病院に勤める看護婦が、チンピラの銃弾に倒れ重傷を負うという事件が発生していた。その犯人が畠山と同じ吉富組の人間だったことから、合田たちは彼女の身辺を洗い、彼女が以前勤務していた精神病院の元患者で、今は同棲相手の水沢裕之という若者の存在を知る。精神病院時代に浅野剛という患者と肉体関係にあった裕之は、浅野から“MARKS”の秘密を聞かされていた。MARKSとは、学園闘争中に起こった内ゲバ殺人事件の実行犯・野村久志殺害・死体遺棄事件に関与したメンバー(松井浩司、浅野剛、林原雄三、木原郁夫、佐伯正一)の頭文字を取った暗号だった。エリート集団のMARKSたちは、生活ランクの違う野村から内ゲバ事件が世間に漏れることを恐れ、野村を北岳で殺害したのであった。しかし、その後も野村殺害事件の恐怖に脅える浅野は、精神に異常を来して入院。何食わぬ顔をしてハイソな生活をしている松井や林原らに同じ苦しみを味わそうと、恐喝を開始したのである。ところが、その浅野が病院の監視員に暴行をくわえられて死亡した。浅野の愛人だった裕之は、事件の模様を綿密に綴った浅野の日記を受け継ぐことにより、彼に代わって林原らをゆすり続け、それが今回の殺人事件の発端ともなったのである。裕之は、林原によって送り込まれた刺客・畠山を反対に殺害。さらに自分の恐ろしさをアピールするために松井をも殺したのであった。そして、一度は大金をせしめることに成功した裕之だったが、真知子を傷つけられたことにより再び精神錯乱状態に陥り、林原に接近して、佐伯を殺害、木原を自殺へ追い込むのだった。裕之に関する真知子の証言から、大金と凶器と見られるアイスハーケンを押収した合田たちは、林原による捜査への圧力を交わし、裕之を林原恐喝、及び畠山、松井両名殺人事件の犯人と断定。北岳に逃亡したとされる裕之を追跡する。雪の残る山頂で、誰よりも早くそこへ辿り着いた合田は、真知子の白衣を抱きかかえ凍死している裕之を発見するのだった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第19回 日本アカデミー賞(1996年)

ノミネート

主演男優賞 中井貴一
助演男優賞 萩原聖人
助演女優賞 名取裕子
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映画レビュー

4.0刑事同士の緊張感漲る関係が素晴らしいが学生運動の描き方には疑問符

2023年10月4日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

この映画は直木賞を受賞した高村薫の話題作が原作で、小生は未読だが、かなりの大部の作品である。ストーリーも入り組んでいて、概要を読んでいるだけで頭が混乱してきそうになるw
映画はその長すぎる原作を相当圧縮しているし、犯人から強請られるエリートグループの関係と強請りの原因を変更していることから、話のあちこちに無理が見られる。とはいえ本作にはいいシーンが多いのだ。

まず、素晴らしいのが、合田やお蘭、ペコ、又三郎を始めとする刑事たちの緊張感漲る関係である。
実力社会、能力社会だから、力のある人間は偉そうに振る舞い、遠慮会釈なく強い言葉で命令を下し、ポジションが下だったり実力のない人間は不承不承従う。
力量が同等の刑事同士では激しい鞘当てと鍔迫り合いが繰り返され、時には腕ずくで言う事を聞かせ、時には無能な同僚をリンチ同然に詰問する、ギスギスして荒んだ、しかし職業倫理に忠実で優秀な組織。
本当にそんなに優秀なのかどうか定かではないwが、このむき出しの力勝負という関係、犯人との対決の前に仲間同士で対決しなければならないという構図は、この映画でしか見たことがない。

個人的には警察内部で、ペコの報告を聞いた合田が「そりゃ、おかしいだろ」と問い詰めるところ、合田が警察関係者の事情聴取も必要と主張するのに対し「その関係者とは俺様のことだよ、バカ野郎!」と怒鳴りつける吉原刑事のいかつい表情、お蘭が別の報告者に「どう成果がなかったのか説明してくれ」と文句を言うところ、合田が刑事グループにリンチに遭う場面が面白かった。
WOWOWドラマ版『マークスの山』も見たが、このピリピリ張りつめた雰囲気は到底出せていなかった。

次に、ラストの登山シーン。かなりきつい山道を捜査員たちが黙々と登っていく中、登山経験豊富な合田は身軽に率先して歩を進めると、やがて山霧がたちこめ、皆ヘルメットランプを点灯する。
そして霧が晴れ頂上に上り詰めた合田は、水沢が岩にもたれ掛かって死んでいるのを発見する。遅れて到着して息の切れているお蘭に休む間も与えず「検死をしろ」と命じ、さらに「写真!」と撮影担当者を呼びつける。
高山の壮絶な見晴らしと寒気、強風の厳しい自然、それにまったく動じない合田の力強さが際立つ。BGMのバグパイプ音楽も非常にセンスがいい。

ついでに惜しげもなく脱いだ名取裕子のセックスシーンは、よく頑張ったw

他方、いただけない点も多々ある。
マークスたち5人の関係が原作から大幅に変更され、水沢に強請られる原因が学生運動の内ゲバによる対立セクト・メンバー殺害と、その実行犯の殺害となっている。彼らの所属するサークルが名門山岳部だというのが、まずおかしい。

学生運動は主に文化会系サークルがやっていたもので、体育会系の山岳部サークルが内ゲバにまでのめり込むというのは、ありえなくはないが考えられないw なおかつ、それが名門大学の名門サークルというのでは違和感がありすぎる。

さらにマークスたちの口にするサヨク用語に、そうじゃないだろう感が強く漂う。

佐伯「くだらん。テーマは現在だよ」
林原「御明晰」
――は? 何だ、これ?
ここは、林原「総括しそこなった過去こそ、俺たちの現在的課題だ」くらいにしとけよ、と思わされる。

林原「前のはともかく76年に関してはお前と木原の意志が俺たちを規定した」
佐伯「共同正犯だ」
――やっぱり何だ、これ?であるww
ここは、佐伯「諸個人の自由意志によりアンガージュしたのさ」だなw

脚色の丸山は大学時代ノンポリだったようだし、崔は大学に行っていないから、大学闘争やサヨク的言辞に馴染みがないのではないか? この取って付けた感はそこからくるのだろうが、取材でカバーできなかったものか。

ともあれこの監督に対しては、人種ネタによる評価の下駄履きが多いのでウンザリしているのだが、本作と『刑務所の中』は捨て難いと思う。

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徒然草枕

2.5登場人物の関係性が分かりにくい。

2022年4月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

長い原作なので映画も長くなってしまうのは仕方ないのだろうが、原作を読んでいないせいか登場人物の関係性が分かりにくい(おまけに20年前の場面で違う俳優を使っていたりするので)。学生運動を知らない若い世代にはもっと分かりにくいだろう。

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Yohi

3.0特に何が悪いわけではないのだが

2020年6月22日
iPhoneアプリから投稿

劇場公開時鑑賞。原作既読。あのウンウン言いながら必死で読み進めてやっとの思いで読み終わる頃にはヘトヘトになるような重厚長大感こそが高村薫だとするならば、「た」ぐらいの高村薫感でしょうか。
映画だから勝手に進んでいくのですが、ちょっといやかなりあっさりに感じてしまって物足りなく

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なお

3.0暴力シーンが生々しく悪を感じる。殴りまくりで異様に長い場面が多くて...

2020年4月19日
スマートフォンから投稿

暴力シーンが生々しく悪を感じる。殴りまくりで異様に長い場面が多くて気持ち悪い。
名取裕子が萩原聖人を庇って撃たれ、体を派手に2発の銃弾が突き抜けるシーンがあるんだけど、そこ以外の流血シーンは全部気持ち悪い。
グロいのもそうだけど悪意が凄い。刑事が刑事を嵌めただろうとか言ってボコすシーンも本当に嫌らしい。
全共闘の内ゲバのことで強請って金を得るも山で死ぬみたいな話でそれを取り巻く暴力。

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