地上(1957)

劇場公開日:

解説

大正初期の作家島田清次郎の同名小説を原作に「美徳のよろめき」の新藤兼人が脚色、「夜の蝶」の吉村公三郎が監督した文芸篇。撮影は「地獄花」の中川芳久。主演は「くちづけ(1957)」のコンビ川口浩と野添ひとみ、「太夫さんより 女体は哀しく」の田中絹代、「夜の鴎」の佐分利信、「ひかげの娘」の香川京子。ほかに川崎敬三、月田昌也、三宅邦子、新人安城啓子、小沢栄太郎、信欣三など。色彩は大映カラー。

1957年製作/98分/日本
原題または英題:On this Earth
配給:大映
劇場公開日:1957年11月22日

ストーリー

金沢中学五年の大河平一郎は、針仕事で生計をたてている母のお光と、遊廓裏のある置屋の二階で貧しい暮しを送っていた。ある晩、部屋に冬子という若い女が飛びこんできた。彼女は明日置屋春風楼に売られることになっていたが、階下の主人に無体をいわれて逃げてきたのだ。平一郎は泣いて訴える冬子をただ見守る他なかった。学校の授業料にも事欠いて、お光は春風楼の下働きに行こうとするが、平一郎は反対した。学校で倫理の時間に校長が将来何になるかと質問した。軍人、芸術家志望の多い中で、平一郎は私利私欲に走らぬ、貧乏人を救う政治家になりたいと言った。その現代政治への痛烈な批判に、校長は学生の本分を逸脱するなと彼を叱った。友人の深井と重い気持で下校した平一郎は、その晩母と春風楼へ引越さねばならなかった。犀川のほとりへ散歩に出た平一郎は、登校の途中よく行き会う和歌子に逢った。お互いを意識して二人は過ぎた。彼は彼女に恋文を書き深井に託した。深井のとりなしで、二人は逢引し、心が通った。和歌子も平一郎に愛の手紙を手渡した。彼は友人の吉田の工場がストに入ったのを知り、篭城中の工場を訪れ、吉田を激励した。和歌子の父吉倉社長ら町の有力者は春風楼に集り、スト弾圧のために、金沢にきた政商天野から指図をうけた。春風楼では、天野に抱妓の中から冬子をとりもった。彼女はその前に一目だけでもと平一郎を訪ねてきた。卯辰山で和歌子と将来を誓ったのも束の間、平一郎は学校の思想調査で、彼女の恋文を発見され停学処分になった。ストは官憲の弾圧で流血と混乱の中に終った。平一郎母子は春風楼を追われた。冬子が来て、天野と共に東京へ行くことになったと告げた。「私はもう駄目。せめて貴方だけ駄目にならないで」と。平一郎は再出発を計り上京を決心した。二人の最後の別れの日、和歌子は一緒に逃げてと涙と共に哀願した。「君を愛しているから。ぼくには何も出来ないんだよ」平一郎は泣きながら、彼女への愛を振り切って狂ったように駈け去った。

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