喜劇 男の子守唄
劇場公開日:1972年4月29日
解説
日本の繁栄から取り残された戦災孤児上りの独身男が十歳の少年を育てながら、精一杯生きてゆく姿を描く。脚本は「春だドリフだ 全員集合!!」の田坂啓と「喜劇 命のお値段」の満友敬司。監督は脚本も執筆している「喜劇 命のお値段」の前田陽一。撮影も同作の竹村博が各々担当。
1972年製作/88分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1972年4月29日
ストーリー
福田清造は、思春期を戦後の混乱の中で育った焼跡闇市派の世代で、今でも妙に闇市時代のころが懐しくって仕方がない。戦災孤児で、腹をすかして闇市をウロウロしていた時、親切にも拾って育ててくれたパンパンの大姐御お竜の勇ましい姿と、闇市の空が青空だったのを福田は鮮やかに思い出す。そのお竜も十年前に、ひとり息子の太郎を残して死んでしまい、福田は男手ひとつで、昼はチンドン屋、夜はホストクラブへ勤め太郎を育てていた。ある日、クラブで、蝶子と再会した。彼女は、かってお竜のライバルでハデにやり合った一方、親友でもあった。現在はソープランドで成功して金融業を営むという闇市仲間の出世頭である。蝶子は、福田に、太郎を引き取って立派な教育を受けさせたいと言うのである。びっくりした福田は、ちゃんと母親もいるし立派に育てていると口走ったため、蝶子は母親に会いたいと言い出した。福田はかねてから親切にしてくれている婦人警官紀子に母親役を頼むが仕事で不可能になる。あわてた福田は、知りあいのバーの女給はるみに頼み何とか蝶子の目をゴマかすのに成功した。数日後、かっての闇市仲間の丸山が経営するスーパーが倒産寸前で、人手に渡ってしまうという事を知った福田は、仲間たちから七百万円を集め、一億円もするスーパーの権利を譲ってもらおうと蝶子に頼み込んだ。蝶子は太郎を引き取るという条件を出す。福田は、断腸の思いで承諾する。かくて、その名も「青空マーケット」とあらためオープンした。福田はこのへんで身を固めるべく紀子にプロポーズをするが、紀子にはすでに、将来を誓った健という男がいたのである。泣き笑いの福田に蝶子が、太郎が行方不明になったと知らせて来た。仲間が手分けをして方々を探し回るが、仲々見つからず、福田はイライラして裏街を探す。ふと気が付くと福田がいつも口ずさんでいる「星の流れに」が有線放送から聞こえて来た。電話でリクエストした店へつきとめ、一目散にその店に行く。店に入るとはるみと一緒にカウンターの椅子に座っている太郎の姿……。安堵の胸をなで下ろした福田に今度は、スーパーが火事だという知らせが入る。飛んで帰った時はすでにスーパーは、全焼。くすぶる焼跡に呆然と立ちつくす福田だったが、翌日には「泣くこたァねえャ、二十七年前に戻っただけさ」と云う元気があった。高層建築の建ち並ぶ都会の片隅にポッカリ浮かんだ青空は、チッポケながらも澄んで美しいものだった。