彼女と彼(1963)

劇場公開日:

解説

清水邦夫と「充たされた生活」の羽仁進が共同でオリジナル・シナリオを執筆、羽仁進が監督した社会ドラマ撮影もコンビの長野重一。

1963年製作/117分/日本
原題または英題:She and He
劇場公開日:1963年10月18日

ストーリー

広大な団地アパートのある東京の郊外。石川直子、英一夫婦はこのアパートに住んでいる。ある朝直子はバタヤ集落の燃えている音で目がさめた。白い西洋菓子のようなコンクリートの城壁に住む団地族、それと対照的にあるうすぎたないバタヤ集落。直子はブリキと古木材の焼跡で無心に土を掘り返す盲目の少女をみつけた。その少女は、夫の英一の大学時代の友人でこのバタヤ集落に住む伊古奈と呼ばれる男が連れている少女であった。犬のクマと少女をつれていつも歩いている男。服装はみすぼらしいが眼は美しく澄んでいた。長い金網のサクで境界線を作った団地とバタヤ集落とは別世界の様な二つの世界であった。夫を送り出したあとコンクリートの部屋で弧独の時間を送る直子に、眼下に見えるバタヤ集落の様子は、特に伊古奈という男は意識の底に残った。直子は夫を愛するように全ての人間を愛する事に喜びを感じていた。だから伊古奈にも、盲目の少女にも、クリーニング屋の小僧にも同じように善意をほどこした。直子の世話でバタヤから転業させようとした伊古奈は、社会から拘束されない今の自由さから離れられず、あいかわらず犬と少女を連れて楽しそうに歩いていた。そんな伊吉奈をみる直子の心は、単調な、コンクリートの中で他人の目を気にする自分達夫婦の生活に深い疑問をもち、夫との間に次第に距離を感じてゆくのだった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第14回 ベルリン国際映画祭(1964年)

受賞

銀熊賞(最優秀女優賞) 左幸子
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映画レビュー

4.0ドキュメンタリータッチの部分が多く、とても新鮮。

2019年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 ある日、伊古奈を家の玄関先まで入れたとき、夫の麻雀大会での優勝カップが盗まれた。それをクズ屋に売った伊古奈。本人に問いただすと、あやまりもせず、「違う、拾った」とだけ・・・

 マンモス団地のゴミ捨て場。分別されている空き缶などを拾っていくバタヤの住人たち。中流階級意識を持った団地の住人たちと、なんとか共存している感のある地域だが、物騒だからといって団地と部落の間に柵を作ろうと計画されていた。やがて、伊古奈を頻繁に部屋に入れたり、盲目の花子を病院に連れていったりと、どんどん交流を深めていく直子(左)。夫の英一(岡田)も同級生ということで、最初は同情的だったし就職も世話しようとしたが徐々に妻の行動に鬱陶しくなってきた。

 そんな折、バタヤ部落の敷地にゴルフ練習場を建設する計画が持ち上がる。住民たちは次々と去っていったが、伊古奈は残っていた。そして、ガキどもがクマを悪戯し、殺してしまった。クマを探し回る伊古奈。直子も探す。犬は息絶えていた・・・悲しみにくれる伊古奈は泣きながら立ち去っていった・・・

 コンクリートの部屋に夫と寝ながらも孤独を感じる直子。彼女は満州の引揚者であり、かなりの苦労を経験していたのだ。子どもの面倒を見るのが好きだが、2人の間には子どもは未だいない。生きている実感というものがコンクリートのアパートでは見いだせず、伊古奈と少女の面倒をみることで実感できたのだろう。中流階級と貧困層との狭間を描いてはいるが、部落差別のような偏見は際立ってはいない。伊古奈と関わってる彼女に対し中傷やいやがらせを目立たせるともっと社会派ぽくなったかもしれない・・・

 ラストは、また退屈な日常に戻り、ベッドの中で眠れない直子の映像で終わるが、そこでのブラックアウトが妙にシュール。

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kossy

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