愛のお荷物

劇場公開日:

解説

「お月様には悪いけど」の柳沢類寿と「昨日と明日の間」の川島雄三が共同で脚本を書き、川島雄三が監督に当る。撮影は「月は上りぬ」の峰重義、音楽は「女の一生(1955)」の黛敏郎。出演者は「美男お小姓 人斬り彦斎」の山村聡、轟夕起子、「月は上りぬ」の北原三枝、笠智衆、「億万長者(1954)」の山田五十鈴、「地獄への復讐」の三橋達也の外、坪内美子、東野英治郎、フランキー堺などである。

1955年製作/110分/日本
原題または英題:Bundle of Love
配給:日活
劇場公開日:1955年3月18日

ストーリー

江戸時代からの薬種問屋で有名な新木長春丸本舗の当主新木錠三郎は、時の政府の厚生大臣で、野党の人口問題に関する追求を軽くさばいて、「受胎調節相談所設置法案」等の術策で人口の増加を食い止めようと考えていた。ところが彼が議会の厚生委員会で人口軽減に関する大演説を行っている頃、四十八歳になる夫人の蘭子さんは妊娠して産婦人科に行っていたのである。そればかりか、新木家の長男錠太郎君はかねてから秘かに恋愛中だった父の秘書五代冴子さんから愛のお荷物ができたらしいと打明けられていた。新木氏は政治的考慮と、末娘さくらの結婚式が近いとの理由で蘭子夫人に人工流産をすすめようとする。さくらは、そんなゴタゴタで許婚の出羽小路君との結婚式が遅れることを何故か困っている様子だったが、実は近づく結婚が待ち切れず出羽小路君との間に愛のお荷物が出来てしまっていたのだ。而も錠太郎は新木家を飛び出して新生活に入ってしまう。その上驚いたことには新木家の御隠居箱根の別荘に住む錠造翁までが若い茶飲み友達との間にお荷物ができかねない有様である。折から錠三郎は京都へ遊説に行き、かつての恋人貝田そめに訪問され、彼女との間に出来た子供の存在を知らされて愕然となる。斯くして新木家の人口は一躍倍以上にはね上ることになった。女中のお照さんと支配人の山口さんとの間にも愛の結晶ができたらしい。さくらの結婚式は早められ、錠太郎達の結婚も認められた。そして新木家の御婦人たちは一斉にお芽出たの日を待つばかりとなったが、さて日本の人口問題はどうなるやら--。

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映画レビュー

3.5ギリギリのラインを快走する力作

2018年10月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

楽しい

名家に起こる、名家らしからぬ平凡さゆえ切実になってしまう問題を作品の骨組みにした時点で目に新しいが、それが川島節のテンポの喜劇でやるのだから、それはたのしい。
皮肉家精神で描くと、社会風刺に終始してしまいがちであろうが、本作、デリカシーが求められるテーマもある。タイトルからして、現代では必ず物言いがつきそうなわけだが、当時の情勢を鑑みても尚、お洒落な川島雄三がヤボに陥ることはなかった。
縦横無尽にカメラが飛び回り、物語とセリフが空転がちに駆け巡ってドタバタ、だけど切実なところを守りきって、社会風刺がテーマ、と敢えて捉え違えてみても、粋な作品にまとまっている。
川島雄三特有の、大きな視点から細部へテンポよく入って行く、構成が光っている。
また、演出の使い分けが、小まわりが効いている。ギャグのアホらしさとピリッと舌先に滲みる哀愁と、権力主義者の浅ましさはしっかりと浅ましく描いて強烈。

この作風は直弟子・今村昌平は無論だが、現代では原田眞人に受け継がれているように思える。

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エイブル

2.0川島雄三の社会分析

2015年8月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

産児制限を政策に掲げる政治家の一家に巻き起こる、望まれぬ妊娠から始まる喜劇を川島雄三が撮った作品。
出てくる女性キャストがことごとく妊娠するのだが、川島はこの女たちをとても美しく撮っている。なかでも北原三枝の美しさは群を抜いており、大げさではなく八頭身で仕事のできるキャリアウーマンを体現している。2010年代の○○ヒルズで働いていても、少しの不自然もないだろう。
若手の女優ばかりではなく、孫ができるというのに自身も子供を身ごもる轟夕起子も美しい。同じ川島作品の「洲崎パラダイス 赤信号」では赤線の入り口で一杯飲み屋を営むくたびれた女将を演じていたが、同じ人とは思えぬほどの美しさと色香を湛えている。特に、大使館のパーティーで夫婦でダンスするシーンの彼女は上流階級の夫人の品格と色気がみなぎっている。このシーンによって、その夜がこの妊娠の元となることに観客は納得するのである。
様々な中年女性を演じ分けられる轟も素晴らしいが、それを引き出す演出の川島もさすがである。彼が女優の魅力を引き出した作品としては、若尾文子の「しとやかな獣」と並ぶ作品ではないだろうか。
フランキー堺の脇役に徹した仕事ぶりや、東野英二郎の病人のふりなど面白い点は挙げればきりがないが、しかし、この作品の底に流れる川島雄三らしい社会風刺は辛辣である。
少子化が進んで人口が減り始めることなどこの時代の人々は想像していただろうか。このような社会も、川島の可能性の中にはあったのではなかろうか。子供が生まれるという出来事は、社会や国家の要請から起きるものではなく、一組の男と女の、はなはだ個人的な事情によって現実化するのである。その社会的現実を突き放して見ることのできる川島にとっては、男と女の身勝手で子供を産まなくなる社会の到来は、「アメリカからもってきた避妊薬」の登場によってしっかりと言及されているのだ。

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佐分 利信