劇場公開日 1955年3月18日

「川島雄三の社会分析」愛のお荷物 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0川島雄三の社会分析

2015年8月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

産児制限を政策に掲げる政治家の一家に巻き起こる、望まれぬ妊娠から始まる喜劇を川島雄三が撮った作品。
出てくる女性キャストがことごとく妊娠するのだが、川島はこの女たちをとても美しく撮っている。なかでも北原三枝の美しさは群を抜いており、大げさではなく八頭身で仕事のできるキャリアウーマンを体現している。2010年代の○○ヒルズで働いていても、少しの不自然もないだろう。
若手の女優ばかりではなく、孫ができるというのに自身も子供を身ごもる轟夕起子も美しい。同じ川島作品の「洲崎パラダイス 赤信号」では赤線の入り口で一杯飲み屋を営むくたびれた女将を演じていたが、同じ人とは思えぬほどの美しさと色香を湛えている。特に、大使館のパーティーで夫婦でダンスするシーンの彼女は上流階級の夫人の品格と色気がみなぎっている。このシーンによって、その夜がこの妊娠の元となることに観客は納得するのである。
様々な中年女性を演じ分けられる轟も素晴らしいが、それを引き出す演出の川島もさすがである。彼が女優の魅力を引き出した作品としては、若尾文子の「しとやかな獣」と並ぶ作品ではないだろうか。
フランキー堺の脇役に徹した仕事ぶりや、東野英二郎の病人のふりなど面白い点は挙げればきりがないが、しかし、この作品の底に流れる川島雄三らしい社会風刺は辛辣である。
少子化が進んで人口が減り始めることなどこの時代の人々は想像していただろうか。このような社会も、川島の可能性の中にはあったのではなかろうか。子供が生まれるという出来事は、社会や国家の要請から起きるものではなく、一組の男と女の、はなはだ個人的な事情によって現実化するのである。その社会的現実を突き放して見ることのできる川島にとっては、男と女の身勝手で子供を産まなくなる社会の到来は、「アメリカからもってきた避妊薬」の登場によってしっかりと言及されているのだ。

佐分 利信