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◯作品全体
普通の少女から女王へと表情を変えた1作目。2作目では女王へ変貌したエリザベスと、それに対峙するスペインとの戦いを描くのかと思っていたが、エリザベスの心情に寄り添うような物語で驚いた。着飾った女王としての強さでなく、一女性としての感情の揺らぎにフォーカスを当てることが一作目でも作品の強みだと思っていたから、うれしい誤算だった。
女王として壮年の男性たちを従え、威厳をもって決断を下す本作のエリザベスには、前作あったような女性的な部分が少ない。髪を短く切って、威厳を示すための厚化粧をし、荘厳な衣装で肌を覆う。女王でありながら女性としてのエリザベスはほとんど存在しない。
一方で、同じ名前を持つベスはエリザベスが失った女性的な姿をもち、まるでエリザベスの理想像のように存在する。若くて髪が長く、朗らかで、男性に接近することできる。エリザベスが心に抱く、「かつての自分」のように存在しているのが面白い。ベスを寵愛するエリザベスは女王としての振る舞いをしていながら、かつての自分の残像をいまだ捨てきれていない。ベスを羨む発言からも、その感情がにじみ出ている。
ローリーが登場してからは、エリザベスの女性としての感情がどんどんと膨れ上がっていく。ローリーにキスをせがむエリザベスは、一緒にいることが不可能であることを理解していながら精一杯の願望を求めているようで、切なく、つらいシーンだった。また、女性としての独占欲と嫉妬を露わにするエリザベスは、ローリーが口にしたように「敬愛する女王」とは程遠い。自分の中にある「かつての自分」を「女王らしくない」ものとして叩き落されるエリザベスは絶望するが、「かつての自分」も絶望の淵から女王に君臨したことを思い出し、毅然とした姿でスペインへ立ち向かう。焼き討ち船で勝利をつかむアルマダ海戦は、「女性としてのエリザベス」を自ら殺して立ち向かう姿に重なって見えた。
「かつての自分」がエリザベスの弱さでもあり、強さでもある。二作目では一作目以上にエリザベスがそれを自覚するラストで、ゴールデンエイジを作る彼女の存在を説得力あるものとしていた。
〇カメラワークとか
・シーンの最初と最後のカメラ位置がすごい凝ってた。家具で登場人物が見えないところからゆっくりPANして空間の全体を見せたり。シーンの中にきちんと始まりと終わりがある感じは黒澤監督作品っぽいな…と思ったらシェカール・カプール監督は黒澤監督ファンなんだとか。内密な話をすることが多い物語だから、そういった狭いスペースを意識させようとしてたのかな。
・家具の隙間から登場人物を映すカットが多い。特にエリザベスは多くて、孤独感や閉塞感の演出になっていた。この閉塞感が世界の海を知るローリーに憧れるエリザベス、という構図に説得力を生む。
・一番かっこいいレイアウトだったのは妊娠がわかったベスとローリーに悪態をついたあとのエリザベスを映したシーンラストのカット。廊下で崩れ落ちるエリザベスを宮殿のかなり高い位置から映す。廊下だから広い空間なのに、柱と壁を使ってすごく狭い空間のように映していた。
・回り込みも多かった。ラストのエリザベスを回り込んで映すカットはちょっとギャグっぽかった。完璧な女王と化したエリザベス…みたいな演出なんだろうけど。
・衣装もすごかったけど、美術と照明が凄い良かった。荘厳な空間なんだけど輝いているわけではなくて、宮殿の壁や部屋の隅に影のあるカットが重みある空気感を作り出す。実際にはどうだかわからないけど、電灯のない16世紀の明るさなような気がしてリアリティがあった。一方で女王としてのエリザベスを映すカットは白飛びするくらいの照明で演出だったりして、照明の使い方が上手だった。
〇その他
・ラストは少し尻すぼみな感じがあった。ナレーションで歴史を語ってしまうのは一女性を描いてきた本作には少し似合わない気がする。