硫黄島からの手紙 : インタビュー
2部作を締めくくる日本側から描いた「硫黄島からの手紙」に出演し、実在した元オリンピック乗馬選手・バロン西を演じた伊原剛志。クリント・イーストウッドとともに記者会見に同席した伊原に、話を聞いた。(聞き手:編集部)
「硫黄島からの手紙」バロン西役
伊原剛志インタビュー
「クリントと一緒に仕事ができたことは、本当に幸せなことです」
─―役作りのために、那須高原の方まで何度も通ったとのことですが、やはりクリント・イーストウッドの映画とあって、気合いが入りましたか?
「そうですね。乗馬は役が決まってすぐに大事だと思ったので、障害飛越ができるようにしたいと思い、毎日5時間くらいかけて、3週間くらい乗馬の練習をしにいきました。あとは英語のレッスンを受けたり、資料を読んだり、西さんの息子さんに会って話を聞いたり、お墓参りに行ったり……準備できることはすべてやっていこうと思ってましたよね」
――西さんの息子さんとはどんな話をしたのですか?
「資料には、かっこいい伊達男みたいに書かれていましたが、息子さんに聞いた話は父と息子のとてもプライベートな話ですよね。息子さんも19~20歳で、やはり戦争に出ていたんですけど、基本的には資料には書いていない彼ら親子の思い出を聞かせてもらいました」
――長年に渡っての映画界の大スターであり、大監督であるクリント・イーストウッドと実際に仕事してみて、彼に対する印象は変わりましたか?
「実際に会って一緒に仕事してみて、皆が敬意を払って彼と一緒に仕事をしているというのが頷けましたね。包容力もあるし、もちろん厳しい眼も持っていますしね。すごい監督、そしてすごい人間だと思いましたね。世界中にクリントと仕事をしたいと思っている俳優はたくさんいると思うんですが、そんな中で自分が彼と一緒に仕事ができたのは、本当に幸せなことです。僕の名前をクリントが覚えてくれて、さきほどここで会った時も『Hi, Tsuyoshi, how are you doing ?(剛志、元気か?)』なんて挨拶してくれて、本当に嬉しかったですからね」
――「本編を観た後は声が出なかった」と記者会見でも仰ってましたが、私も同じでした。
「ある種のドキュメンタリーの如く、真実だけを切り取ったような作品だからこそ、観ている人に本当にこうだったんだろうなとリアルに思わせるし、考えさせますよね。今まで日本の軍人ってみんな国を背負って、自分の考えは持たなくて、上からの言うことはなんでも聞くという人がステレオタイプに描かれていた思うんですが、逃げ出したい奴もいれば、(中村)獅童が演じた軍人みたいのもいれば、僕が演じたアメリカ兵を助けた人間もいる」
――西さんがアメリカ兵の手当を命じるシーンでは、彼の高潔さに打たれました。
「彼はアメリカにも友人がたくさんいて、本当は戦いたくなかったんだと思うんですよね。でも彼は家族思いだから、家族のいる日本を、家族を守るために戦わなくてはならなかったんだと思います。職業軍人として行ったわけだから、やはり使命感にも燃えていただろうし。実際すごく複雑な思いで戦っていたんだと思います。だから、あのアメリカ兵を手当するシーンでは、彼の本当の気持ちが出ていたんだと思います」