硫黄島からの手紙 : 映画評論・批評

硫黄島からの手紙

劇場公開日 2006年12月9日
2006年12月5日更新 2006年12月9日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー

イーストウッドの透徹した眼差しによる“日本映画”の傑作

画像1 (C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
and DreamWorks L.L.C.

これは司令官ケン・ワタナベではなく、一兵卒・二宮和也が地獄を目の当たりにする“日本映画”の傑作である。硫黄島で米軍を翻弄した栗林中将の人となりを中心に据えながらも、無意味な精神主義を嫌い、全ての兵士の命を尊重し、現実的な作戦を展開した司令官をことさらに英雄視はしない。若き兵士にとって彼は尊敬すべき上官である以上に、戦場で出会った数少ない真っ当な人間なのだ。

絶望の中でも生への執着を失わない二宮の視座から、我々は理不尽な戦いを体感させられる。米国人の素晴らしさも知る鷹揚な伊原剛志、勇ましい軍国主義者にして実は愚かな中村獅童、死の恐怖に怯え敵前逃亡を目論む加瀬亮。日本人俳優のキャラを的確に踏まえた軍人像が映し出され、その衝突から戦争の虚しさを味わうことになる。やがて我々は地下壕で目撃する。「玉砕」という美名にくるまれた「自殺の強要」が如何に醜く酷いものであったかということを。声高に反戦を唱えるのではない。投降して捕虜となった日本兵を、虫けらのように射殺する米兵さえもさりげなく描いてしまうイーストウッドの透徹した眼差しは、我々を自ずと厭戦・非戦へと向かわせる。

戦艦大和の最期、人間魚雷の悲劇――愛する者のために散っていく男たちを描けば「讃歌」になりがちなこの国の戦争映画とは大きく異なり、善悪の価値観を超越した硫黄島2部作の前では、「哀歌」を歌う声すら出ないほど無念さを思い知る。

清水節

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