①映画館公開バージョン
師匠ブライアン・デ・パルマ監督の多重人格もの。
自らヒッチコキアンと名乗るだけあって、ヒッチコックの『サイコ』よろしく車を沼に沈める場面では「さすが!」と思い、デ・パルマ監督自作『殺しのドレス』などをネタにした場面でも嬉しくなる。
本作の初見は日本公開時(1992年12月30日)の映画館(渋谷シネパレス)にてカミサンと。その後はDVD購入して何度か観たが、今回はBlu-ray(2枚組)を購入して鑑賞。
最初に観たのは『レイジング・ケイン~日本公開版』であり、これまでに馴染んできた作品。
のどかな公園にいる親子の風景は穏やかだが、こうした平和な日常に一変してクライム場面になっていくあたり、やはりデ・パルマ映画の楽しさ。
優しい父親っぽい子連れの男カーター(ジョン・リスゴー)が公園で一緒になった(やはり子連れの)知り合い女性の車に乗せてもらうが、ホルマリンのような薬を吸わせて意識を無くさせる。「さぁ、どうするの?」と思っていると、停めた車の後方から2人の男がジョギングして近づいてくる。
そして、ここで「デ・パルマ的スローモーション」、見事!
「ジョギングの2人に女性を無意識にさせたのが見つかってしまうのでは…」とハラハラさせられる。
また、カーターの妻と元カレが公園で抱擁している場面。
…と思ったら「夢だった」という流れになったり、「やっぱり現実だった」という展開に、観る者を惑わすデ・パルマ監督。
ちょっと凝り過ぎ…。
全編にわたってジョン・リスゴーは5役を演じており、演じ分けが見事であった。
また、観る者をハラハラさせる「物」として、本作では「尖った物」を多用している。
これは「尖っているから刺さってしまう…」と思わされる効果あり。
「女装」や「エレベーター」…とくれば、思い出すのは『殺しのドレス』であろう。
ジョン・リスゴーは、『愛のメモリー』・『ミッドナイト・クロス』に続いて本作の3本のデ・パルマ監督作品に出演しているが、やはり本作がインパクト強烈な1本であることは間違いない。
また暫くしたら、観たくなるデ・パルマ監督作品のひとつ。
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②ディレクターズ・カット版
本日、ブライアン・デ・パルマ監督作『レイジング・ケイン』の2バージョン見比べ(2本立て)。
本作の劇場公開版を観たのは1992年12月の封切時だったので、30年近く経ってから「劇場公開版を再編集したバージョン」がまさか観られるとは思っていなかった。
劇場版はデ・パルマ監督の傑作を数多く編集しているポール・ハーシュだった。
日本では監督と編集者の関係をあまり重視していない傾向が、小生の学生時代から見られる。その証拠に、映画館で観た作品のパンフレットを買っていた頃などは、編集者を知りたくて購入したにも拘らず、パンフレットに記載されていないことが多々あった。(最近はよほど素晴らしい映画でない限りパンフレットは購入しないが…)
さて、このディレクターズ・カット版は、デ・パルマ監督が当初想定していた構想(物語の流れ)に沿ったかたちで、劇場版の素材を使って「おおむね時系列に再編集したもの」であるが、「編集の違いでこんなにも印象が異なる作品になるのか!」と思えるかたちになっている。
劇場版では公園シーンから始まって、序盤はジョン・リスゴーの異常さを見せてから、妻の恋愛ドラマに物語の軸を置くかたちになっていたが、ジョン・リスゴーがインパクトあり過ぎた。
ディレクターズ・カット版では、妻の恋愛ドラマから始まり、徐々にジョン・リスゴーを見せていくので、不気味さがジワジワ来る感じが良かったと思う。
このディレクターズ・カット版は、デ・パルマのファンであるピート・ゲルダーブロム監督が2012年にオリジナル素材を監督の当初考えていた脚本に沿ったかたちで再編集してアップしたところ、ブライアン・デ・パルマ監督からも賞賛されてパッケージ収録・発売されたもの。
デ・パルマ監督が自ら承認した作品であり、こうした経緯でソフト化されるのは異例ではなかろうか?
なかなか良い「映画の編集のお勉強」をさせてもらった…(笑)