※2024.4.20加筆修正
1970年公開。
主演したジョージ・C・スコットは、アカデミー最優秀主演男優賞を受賞したが辞退している。
その他、作品賞、監督賞、脚本賞など女優賞を除く主要な賞を獲得した。
唯一にして最大の不満は、邦題だ。
原題は『Patton(パットン)』だ。原題通りか、せめて『将軍パットン』で良かった。
『パットン大戦車軍団』なんてやったものだから、戦車同士がバンバンやりあう戦争映画だと思っちゃうじゃん。最悪に近いネーミングだと言わせて欲しい。
私にとって本作は、戦争映画ではないし反戦映画でもない。
パットン陸軍大将の伝記映画である。
大統領選出馬の噂がたつくらいに知名度・人気ともに抜群だったパットンの事故死は、いまだに陰謀説が囁かれるほど唐突で衝撃的なニュースだった。
しかし、この映画では一切触れていない。
謎解きに視線が集まるのを避ける、というより、
存命中のパットンを描くことで十分に映画が作れるからだ。
パットンのキャラクターは、現代に置き換えると、トランプ前大統領に近い。
◆目立ちたがりでスタンドプレーが多い
◆守りより攻撃
◆スラング連発、野卑な言葉遣い、失言癖
◆象牙の銃把を持つコルト、ブーツ、鞭。まるでフィギュアさながらだ。
分かりやすいキャラクターであるがゆえ、
彼の周りにはたくさんの従軍記者が、「エピソード待ち、失言待ち(笑)」でウヨウヨしており、しかもパットンは期待を裏切らない。
ファンもいるが、アンチも多い。
どちらも熱烈だ。
公開された1970年、
製作者、スタッフ、演者、観客すべてに戦争体験者がバリバリ現役で働いている時代だ。
思い起こせば、私の担任教師も特攻隊の生き残りだったし、街には傷痍軍人が立っていた。
このころから既に、戦争を扱う映画は徐々に、
◆厭戦や反戦を表すもの
◆指導部や高級将官への皮肉や批判
◆美化されがちな戦場の実態暴露
が増えていき、
同年公開の『M★A★S★H マッシュ』
1979年『地獄の黙示録』
1986年『プラトーン』
1987年『フルメタル・ジャケット』
1989年『カジュアリティーズ』『7月4日に生まれて』
とつながっていく。
だが、本作は反戦映画でも厭戦映画でもない。
かと言って、アメリカ万歳の戦争映画でもない。
ジョージ・パットンというレアキャラ、
◆自らの前世をギリシャ時代の英雄と言って憚らず、
◆功名心のためだけに無謀な作戦を遂行させ、
◆陣営内のモントゴメリーにライバル心をむき出しにし、
◆戦闘恐怖症の味方兵士に殴りかかる、
そんな人間にスポットを当てることで、
間接的にではあるが、戦争という行為の虚しさや人間の弱さ、組織の無力さを浮き彫りにしており、先に述べた後年の作品群の先駆けに位置づけられると、私は考えている。
ところで、第二次世界大戦に従軍した将官のうち、
映画タイトルに個人名を冠して客を呼べるのは、パットン、ロンメル、山本五十六(日本限定?)くらいではなかろうか。
モントゴメリーですら、語り継がれる名作は、残念ながらない。ドラマのある脚本が書けないのだろう。
パットンは、米国人が大好きな攻撃特化型将官の典型である。猪突猛進、イケイケドンドン!
太平洋戦線のハルゼー提督(kill Jap, kill more Jap! で有名な海軍軍人)も、そちら側だろう。
別の典型は、アイゼンハワーやブラッドレーのように人間的にアクがなく攻守にバランスの取れた万能タイプだ。
多国籍軍である当時の連合軍において、パットンの性格は、最高司令部にゼッタイ向かない!(笑)
劇中に語られるとおり、後輩のブラッドレーがパットンの上官になり、パットンもそれを受け入れている。
長くなってしまったが、
最後に、本作がアカデミー賞を総ナメした理由を三つだけ。
①ファンもアンチも納得、静と動の場面切り替えと組み合わせにより巧妙に起承転結が形成され172分の超大作が短く感じるくらい。※昔の作品なのでintermission(途中休憩)もついてます(笑)
(ファンもアンチも納得→換言するなら「優秀なんかカスなんか、どっちやねん!」と叫びたくなる)
②トランペットのソロを効果的に使い、パットンの光と影、孤独を巧みに表現したジェリー・ゴールドスミスの音楽
③パットン本人の写真を見てもニセモノにしか感じられないくらいだった、ジョージ・C・スコットの憑依的怪演。
(アカデミー最優秀主演男優賞いらない気持ちも少しわかる気がする)
わたしは、また誘惑に負けて、どっちやねん!を判定すべく見てしまうのだろう。