「罪の子」なんていない。子どもは自分で出自は選べない。
産まれてくるだけで尊い命。の、はずなのに…。
親の自己都合で翻弄される生い立ち。自分の罪や負い目を自分で引き受けることなく、子に押し付け、その存在を抹殺する。
一番大切なはずと思っていた人からの、魂の殺人。
自分の存在を否定される。父親から。自分のことだけでなく、自分を育ててくれた大切な母の事さえも。母が関わった男の中で唯一真っ当な男=お前の父と、大切に母から子へ語り継がれた物語。売春婦の母親と父に紹介されるけど「お前の父親は~」と息子に語り聞かせていた母。除隊後うきうきと会いに行こうと思うような珠玉の思い出が語られたのだろう。母とのつながりが濃いメキシコ系にとって母は絶対。そんな母の思いもを汚し、抹殺する父。二重否定。
神の教えを説き、教えに忠実そうでいて、一番、自己の欲求に忠実な人物。
そんな人物が宗教者として、”正しい者”として存在していることの欺瞞。
そんな欺瞞が”正しい”ことならば、エルビスのやったことは”間違って”いるのだろうか?
人を人として扱わない、それが悲劇。だのに自分達が一番正しいと信じている。相手の心より、教えを守って自分が天国に行く方が大事。なんだそれ。
軍隊帰りの青年。軍では、人と人と思わずに殺すことも学んできた青年。人の命より、自分の国の正義を守ることが大事な組織。
冒頭の「ホームタウンに帰ろう」という調子の温かい、懐かしい、明るい音楽から始まり、基本、静かに心に沁みわたる音楽が印象的。映像も緑あふれて、光溢れる場面が多い。
だからこそ余計に展開する物語が切なく、罪深く、心をえぐる。
派手なアクションなんかない。なのに、展開が読めない、ハラハラドキドキ。
R15指定なので、どんな場面が出てくるかと想像していたけど…。特に意味深に出てくるボーゲン、銃。鹿。(最近の映画のようなグロい場面を期待すると肩透かし)
でも、映像ではなく、物語自体がR15指定。感性のある前思春期が見たら、どんなトラウマになるのだろうかと心配してしまう。
花で飾られた家と対極の殺風景なエルビスの住まい。
除隊直後は豊かな表情を見せるエルビス。だが、ある時からほとんど無表情になり、またある展開からはちきれんばかりの笑顔があふれる。
ある事件の後始末をした池の前に、突然現れたソファ。そこに無言で座るエルビス。何を思うのか。
紙の王冠をかぶるエルビス。何を思うのか。
そんな父を見捨てて、街を離れて新しい恋人と新しい家族を作って見返せばよかったのに、運命は違う方に回り始める。
家族に飢えていた。家族ゴッコがしたかった?自分の存在を位置付けるものが欲しかった。
父に繋がる光り輝く異母妹。手に入れたかったんだろうな。
異母弟は自分と父との仲を阻むものでしかない。しかも、一方的に己の正義を、上から目線で押し付けてくる、うざい存在。自分の努力で勝ち得たものではなく、人から与えられただけの、”かかし”なのに。
異母兄弟。離れて暮らしていたら、兄弟の感覚ないね。
役者の演技は見応えはあるし、演出・映像も秀逸。
『ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星』『モーターサイクルダイアリー』『ジュリエットからの手紙』のベルナル氏。
『蜘蛛女のキス』『栄光のランナー1936ベルリン』のハート氏。
『ナイト&デイ』『それでも夜は明ける』のダノ氏。
それぞれ、七変化役者。
だけど、今ひとつ共感できなくて。エルビスの代わりに号泣したくなってしまうけど、それも浅はかな共感でしかない。エルビスの絶望は、もっと極限にまで振りきれてしまったのだろう。心が痛くて、みぞおちがえぐられる感じ。後は無感覚になるしかない。
『The King』。
頭の中に、『ハレルヤコーラス』が鳴り響く。(「King of King.…」)
本当の”神”は、彼らにどう裁決を下すのだろうか。
賞レースには断然推挙したい意欲作。
ストーリー、役者、演出、映像、音楽、すべてが完璧。
けれど、繰り返し観たいとも思えない。
観る価値あると思う映画だが、人に勧めにくい。
最期に残る想いは
「懺悔したらチャラになる?」
「だから、迷いや悩みのない、宗教家って奴は、狂信家って奴は嫌いだ」。