嘘つきゲームは饅頭から始まった。神と人間が共存する神話の世界の武侠ファンタジー映画という新たなジャンルなのだろうか、神話と戦国絵巻物が絡みあって見たこともない映像によって不思議感覚につつまれてゆく。運命を司る天女のような女神“満神”が饅頭を騙し取った少女・傾城(セシリア・チャン)に「男から寵愛を受け不自由のない暮しをできる代り、真実の愛を得ることはできない」という約束をする。20年後彼女は王妃となっていた・・・
敵を蹴散らした後、王を奪還するために城に忍び込もうとした際に、またもや満神が現れて予言をするため、嘘吐き第2ラウンドが開始する。奴隷の雪国人・昆崙(チャン・ドンゴン)と大将軍・光明(真田広之)の関係も嘘を黙認したかのような主従契約。光明と傾城の関係も嘘だらけの愛人契約。彼等と敵対する無歓(ニコラス・ツェー)とは騙し合い作戦が炸裂するという、壮大な嘘つきスパイラルの物語になっています。
人を信じられなくなる世界になった原因は傾城にあるのですが、いつの世も政争の陰には女ありきという教訓めいたことも訴えているように思います。さすがは楊貴妃を生んだ中国だけあって、こうした話はお得意。ちなみに、【傾城】とは白居易の「長恨歌」に出てくる言葉で、国王の心を惑わせて国や城を滅ぼしてしまうほど魅力のある美女のことを指すのですから、そのままのネーミングなのですね。そう考えると無歓や光明にもちょっとした意味があるような気もしてくるのですが、【崑崙】の意味は単なる辺境の地ということか、それとも食いしん坊の証しである北京崑崙飯店の意味なのか・・・
とにかくワイヤーアクション満載の漫画チックな映像である上、チャン・ドンゴンの加速装置がついたかのような俊足ぶり、黒衣をまとえば空まで飛べちゃうという完璧なファンタジー。同じような嘘つきエピソードが連続するため、神と観客はストーリーを反芻することが困難となります。最後には「あんた、本当は死んでないんでしょ?」などと疑心暗鬼にならないように心して鑑賞しなければなりません。
【2006年2月映画館にて】